どうも、天才プロンプトエンジニアのSharaku Satohです。今回は非エンジニア領域でのAI活用のお話。
先日、「日本企業は生成AIの効果を実感できていない」というニュースがSNSで話題になりました。
図にあるように、日本企業は生成AI導入による効果の実感が薄いようです。総合コンサルティング企業のPwC Japanは、以下のように分析しています。
他国と比較すると、日本の生成AI活用の推進度は平均的ながら効果創出が低く、「期待を上回る」企業の割合は米・英の1/4、独・中の半分にとどまります。
効果の格差は、時間の経過とともに指数関数的に拡大するため、早急に手を打つ必要があります。
プロンプトエンジニアを雇ってないからちゃうか?
記事の中で様々な要因が挙げられていますが、もし単に効果が出せていないということであれば 「使っているAIの性能(パフォーマンス)が低い」 という可能性が考えられます。例えば、同じAIモデルを使用していても「システムプロンプト(内部に設定するシステム指示)」の違いだけで大きく回答が変わります。
2023年頃から現在に至るまで、他の国ではプロンプトエンジニアの雇用・育成が進められてきました。
つまり、効果が実感できている外国企業では「社内に年収数千万円のプロンプトエンジニアがいる」「プロンプトエンジニアリングのノウハウを蓄積している」ということが前提としてあるわけです。社内に専門家がいることで、全社のAIリテラシーも変わってきます。
もしかして日本企業って、ここをすっ飛ばしていませんか?
もしも「プロンプトエンジニアリングは誰でもできる簡単なテクニック」なんて思っている方がいたら、考え足らずとしか言いようがありません。日本企業よりもAIリテラシーが高く、AI活用に積極的な米国のテック企業が、そんな簡単な技術に年収5000万円払うと思いますか?
ちなみに米国では、現在も年収2000万円(約14万ドル)前後でプロンプトエンジニアの求人が出ています。
求人サイトIndeedにおける「プロンプトエンジニア」のヒット数は、日本500件、米国10万件でした。これまでの採用実績はさらに桁違いでしょうから、日本企業がAI活用で効果を出せていないのも無理はありません。
ほな、AIエンジニアと違うかぁ
「すでにAIエンジニアがいる」「AIエンジニアを雇いたい」という企業は多いようですが、彼らはAIモデルの研究開発が専門の機械学習エンジニアであって、プロンプトエンジニアリングの専門家ではありません。「AIの専門家だから何でも分かるはず」と思うのは、よくある誤解です。
※AI企業のAPIを使ったアプリケーションを開発するエンジニアは、通常のITエンジニアもしくはシステムエンジニアです。稀に「AIエンジニア」を名乗る人もいますが、厳密には誤用です。
他にもAI研究者、AI顧問、AI担当者、コンサルタント、エバンジェリスト、ジェネラリスト、インフルエンサーなどなど色んな肩書きの方がいらっしゃいますが、彼らも同じ。
皆さん優秀で努力もされていらっしゃるでしょうし、プロンプトテクニックについてもある程度は知識を持っていると思います。しかし、当然ながら、彼らは専門のプロンプトエンジニアではありません。
寿司屋を開くとして、栄養士や化学者を雇ってどうするんでしょうか。栄養士は料理ができるでしょうし、化学者で料理が上手い人もいるでしょう。寿司に関する知識が豊富で「寿司くらい握れる」という人もいるかもしれません。でも、彼らは寿司職人ではありません。専門分野が少しでも違えば、その人は専門家ではありません。
日本社会全体で、当たり前のことが見過ごされている可能性があります。
比較したらええねん
プロンプトエンジニアリングの基本は「比較」です。御社で使用している「社内AI」が、果たして十分な性能を発揮できているのか、他のAIと比較してみることでAI活用の現在地を可視化できます。
これからご紹介するのは、私が作成したChatGPTのカスタム版(GPT) です。タスクごとに同じプロンプトで社内AIツールと回答の比較を行ってみてください。評価基準の策定が難しい場合には、両方の回答をGPT-5 ThinkingもしくはGPT-5 Proに見せて、どちらが優秀な回答であるか検証させるといいでしょう。
文案作成
メールや企画書などの文案作成が最も多いAI活用シーンだと思います。以下の「ワークフォース」というGPTは、日本企業や行政での利用を想定して作成した「業務用ChatGPT」です。日本社会の慣習を考慮した応答ができるため、幅広い業務タスクに対応可能です。
普段、社内AIで行っているのと同じプロンプトで文案作成を指示して、どちらの文章がよりビジネスシーンに適しているかを見比べてみてください。
コピーライティング
商品のネーミングやキャッチフレーズのアイデア出しでAIを使っている方も多いと思います。以下の「ビューティフル・ドリーマー」は、言葉選びのセンスを高めたAIコピーライターです。
これも同じように、普段使っているプロンプトで出力されるフレーズやアイデアの比較を行ってください。同一モデルのChatGPTとのキャッチコピー作成での比較では、負けたことがありません。
文章チェック
誤字脱字の確認やファクトチェックなどでは、ハルシネーションが少ないAIを使用することが求められます。以下は、ハルシネーションを抑えた設計のGPTです。
精度が求められるAI活用シーンで、社内AIとの比較を行ってみてください。「社内AIではハルシネーションが出る質問」で試してみるのもいいでしょう。資料の要約やWeb検索の代替としても優秀です。
プレスリリースやSNS投稿、スピーチ原稿などの「ネット炎上リスク分析」では、以下のGPTをお試しください。文章に含まれる問題を高精度で発見することができます。こちらも過去のネット炎上を用いた比較テストでChatGPTより高精度の検出力を実現しています。
マーケティング
マーケティングはAI活用が進んでいる領域の一つですが、使用しているAIの性能が低い場合には効果を実感できないことも多いでしょう。以下は、主にマーケティングにおける分析やアドバイスに特化したGPTです。
5Forces分析やSWOT分析などの主要な市場分析手法を実装しています。「どのように依頼すればいいか」は本人に直接聞いてみてください。
プレゼン作成
会議でのプレゼンテーション・ピッチ原稿の作成では、以下のGPTをお試しください。社内AIを使用している場合は、ピッチ原稿作成用のプロンプトが用意されていると思います。同じプロンプトでの文案の構成力や説得力の違いをお確かめください。
壁打ち
企画やプレゼンに対する反論を事前に予測したり、文章に論理的矛盾や誤った主張が含まれないかなどの問題の洗い出しをする場合には、以下のGPTが有用です。
「ChatGPTは批判的になれない」と言われますが、このGPTは批判的・懐疑的にユーザーの主張や与えられた情報を分析して反論してくれます。
論文要約・解説
論文の要約や解説、研究のサポートとしてAIを活用することも少なくありません。以下は、科学的思考や論文作成サポートに特化したGPTです。大学や企業の研究部門で使用されているAIとの比較を行ってみてください。
どのような質問にも科学・学術に基づいた回答をしますので、ジャンルを問わず幅広いタスクで有用です。
法律相談
法務や事務手続きなどでAIに相談することも多いと思います。以下は、一般的な法律知識に基づいたアドバイスを行うGPTです。御社でお使いになっている法務関連のAIと回答の比較を行ってみてください。
外部専門家
様々な専門知識を持った相談相手として、AIを使用することも多いと思います。以下は外部専門家として会議に参加することを想定して制作したGPTです。知識人やクリエイターなど、様々な分野の専門家として課題解決に向けたアドバイスと具体的なアプローチの考察を行ってくれます。
最初に「テレビ番組の企画会議です。料理研究家として回答してください。」など、状況説明と専門家の選択を行ってから会話を行ってください。まったく同じプロンプトでChatGPTよりも専門的な回答をするはず。
プロンプトエンジニアやないかい
ご紹介したGPTは、一部RAG(知識)に追加で参考資料や日本語フォントなどを設定しているものもありますが、基本的にはシステムプロンプトだけでカスタマイズされたChatGPTです。つまり、プロンプトエンジニアリングによって作られたもの。
同一モデル・同一プロンプトで、もし御社の社内AIよりも優れた回答ができた場合は、プロンプトエンジニアリングに対する認識を改めた方がいいでしょう。AI活用で効果を実感できていないのは 「専門のプロンプトエンジニアを雇っていないから」 ということになります。
プロンプトエンジニアリングは、言語によってAIの応答を最適化する極めて奥が深く難しい技術です。しかし、特に日本では、AIベンチャー企業のCTOがプロンプトエンジニアを指して「昔流行ったおバカな職種」などと揶揄してしまうほど誤解されています。とんでもないことです。
プロンプトエンジニアリングに対する理解度が、日本経済の明日を左右すると言っても過言ではありません。技術そのものや技術者を軽視していては、誤った認識で迷走するだけ。効果を実感できないのも当然です。
専門家と技術に対する認識を改め、価値を見直すことで、日本企業のAI活用が進むことを心より願っております。

