この記事における新人研修というスコープは、
- ITエンジニア向け
- プログラミング未経験者向け
- どちらか SI をメインにやっている企業
という前提です。プログラミング経験者向けの新人研修ではありませんが、研修プログラムのデザインをするときの参考になるかも知れません。
TL;DR
- 新人研修においては2つの fun がある
- 楽しさの fun
- 基礎の fun (fundamentalから強引に略しました)
- どちらの fun を目指すのかによって研修プログラムが異なる
- 現状の新人研修は 基礎 の fun を重視しがち
- 楽しさの fun がないと学ぶのがツラい
- 楽しさの fun 重視の新人研修プログラムを生み出す工夫
新人研修におけるゴールの設定の違い
新人研修におけるゴールは、実施する企業によって実に様々に変わります。
- 配属されて技術的なドキュメントや会話などが、ある程度わかる
- 現在、社内で使われている技術全般がわかる
- 自分から調べて技術を身につけることができる
とはいえ、この様々なものを大きく分けると、
- 技術の基礎を身につける -> 基礎の fun
- 自律的に技術を学べるようになる -> 楽しさの fun
この2つになると考えています。
基礎の fun の研修プログラムの特徴
基礎のfunを目標とした研修プログラムは、
- 2進数やコンピュータの仕組みといったところからスタート
- フレームワークで書くより生で書く
- e.g. Spring より JSP/サーブレット, ORM より JDBC
- ツール依存しない
こういった特徴を持っており、どちらか技術スタックをボトムアップで学びます。
恐らく見慣れたものだと思いますし、それだけ一般的に新人研修のゴールとして 基礎の fun が設定されることが多いでしょう。
基礎の fun の究極のプログラムとして、新人研修ではありませんが、コンピュータ・サイエンスの学位プログラムが挙げられます。
このゴールを設定するモチベーションは、新人研修後、 これから技術を身につけるときの基礎を作って欲しい ということにあります。
また基礎は一朝一夕で身につけられず、長い期間をかけて身につけるため、配属されてから細切れで学ぶのが難しいと言えます。例えば、小学校の四則演算、九九は礎の最たるものと言えます。
このため大学教育では期間が4年、大学院を入れると6年と長く設定できるため、基礎のfun 重視のほうがむしろよいと考えられます。
楽しさの fun の研修プログラムの特徴
一方、楽しさの fun の研修プログラムの特徴は、
- フレームワークなどを使って、まず動かす
- e.g. JSP/サーブレット より Spring
- アプリケーションレイヤより下はいつかやる
- ツール依存する
こういった特徴を持っており、どちらか技術スタックをトップダウンで学びます。
こちらの究極のプログラムは、少中高生向けやプログラミング未経験者向けプログラミング体験プログラムが挙げられます。
このゴールを設定するモチベーションは、新人研修後、 技術を好きになって楽しく付き合ってほしい ということにあります。
楽しく好きという感情は、はじめて経験するときに芽生えることが多く、途中からでは中々そういった感情を持ちづらい傾向にあります。例えば、マインクラフトからプログラミングを学ぶのはその代表的なものと言えます。
Pros and Cons
もちろんこの fun の違いによる良し悪しはあります。
基礎の fun
- Pros
- 掘り下げることで仕組みがわかる
- 応用しやすくなる
- Cons
- 時間が掛かる
- 抽象度が高くなるので、つまづきやすい
楽しさの fun
- Pros
- 楽しく継続しやすい
- 短期集中でも完了できる
- Cons
- Tips になってしまいがち
- ツール依存する
ただ、新人研修においては基礎の fun が採用されることが多く、部分的に 楽しさの fun が取り入れられています。
基礎の fun 重視の弊害
pros / cons を整理したところで、新人研修特有の事情から 基礎の fun を重視すると弊害が起きがちである、というのが今回の趣旨です。
-
苦手意識を生みがち
- 未経験者向けではボトムアップで技術スタックが積まれるため、一度つまづきの連鎖が発生すると苦手意識に繋がり、その払拭にはとても時間が掛かります
-
最新 (いま自分たちが普段使っているIT) までの距離が長い
- 2進数からボトムアップすると、いくら高速道路でショートカットしても、クラウドやモバイルなど普段新人たちが使っている技術までたどり着けず、ほとんどは何らかのWebアプリケーション開発までです
-
楽しさの fun が生まれにくい
- 苦手意識がついて、普段自分で使っているようなITまで辿り着けないと、楽しさの fun が生まれにくい
楽しさの fun は自律的な学習を生み出すエンジンなので、これが阻害されると、配属されたあとで見つける必要があり、SIのような分業体制では難しいと言えるでしょう。
好子と嫌子をもとに新人研修を説明
ここでもう少し弊害を具体的にすべく、行動分析学における好子と嫌子をもとに新人研修を考えてみます。
なお、好子と嫌子については下の記事が2分程度で読め、とてもわかりやすくまとまっています。
- (参照) 行動分析学 | 脳と心の科学について学ぼう http://www.fun.ac.jp/~hanada/kokoronokagaku/concept6.html
好子と嫌子がわかると、例えばソーシャルゲームにおけるログインボーナスがなぜ重要なのか説明できます。
- 好子 (ログインしてゲームが楽しめるものを獲得)
- 嫌子 (ゲームの難易度があがり、ゲームが難しくなる)
- (好子の体験からもう一度ゲームを楽しみたいという欲求が生まれる)
もう一度ゲームを楽しみたいという欲求が課金や次のアクションを生み出すトリガーになります。
逆にこれが嫌子から始まるとゲームを離脱する可能性が高くなるのがわかります。
この好子と嫌子をもとに新人研修を考えると、
- 嫌子 (新人研修: 技術に対して苦手意識が芽生える)
- 嫌子 (現場配属: 技術がわからず現場で苦手意識が加速する)
となり、離脱の可能性がとても高くなります。
このため、これまでの嫌子を上回る、何らかの好子が生まれる体験が現場で必要になります。
楽しさの fun 重視の新人研修プログラム
結論となりますが、
- 好子 (新人研修: 技術が楽しいと感じる)
- 嫌子 (現場配属: わからない技術が出てきて壁ができる)
- (好子の体験からもう一度技術を楽しみたいという欲求が生まれる)
こういった体験をデザインするためには、新人研修において 楽しさの fun を重視した研修プログラムが必要です。
楽しさの fun を生み出す工夫
楽しさの fun を生み出す研修プログラムは、何もガラガラと研修プログラムを変える必要はありません。ちょっとした工夫で変えられます。
よくある新人研修のプログラムを例に考えてみましょう。
ex. 従来の研修プログラム
- コンピュータの仕組み
- アルゴリズム
- Javaプログラミング
- データベース
- HTTP
- HTML/CSS
- JavaScript
- ...
ex. 楽しさ fun 重視のプログラム
- HTML/CSS
- JavaScript
- ...
HTML/CSS などフロントエンド技術は書いて動かすコストがとても低く、プログラミング未経験者にはとてもいい題材です。実際、私の経験上、楽しく取り組んでいることが多いです。
このように 既存の研修プログラムを 好子 / 嫌子 で分けて、好子からスタートするだけで楽しさの fun 重視の研修プログラムに変えられます。
ちなみに、そう考えるとプログラミング未経験者にとって、Call To Action が速い、直感的に書ける、という要素はとても重要であることが分かりますね。
特に小学生向け研修プログラムでは LEGO(R) の教材を取り入れたり、マインドストームを取り入れたり、とにかくスグに動かすことができる要素が入っていますので、新人研修プログラムでも参考になりそうです。
私自身は RailsGirls のプログラムが特に新人研修ではマッチしそうと考えています。
まとめ
- 新人研修では2つのfunがある
- 基礎のfunと楽しさのfunの2つ
- 新人研修において基礎のfunを重視しすぎると苦手意識を生みがち
- 新人研修が嫌子の体験になると離脱可能性が高まる
- 楽しさのfunを重視した新人研修プログラムに変える
- 新人研修プログラムの順番を変えるだけでも楽しさの fun 重視になる
新人研修プログラムで技術が楽しいと思える体験を生み出したいと思う方が増えることを願っています。