ARオクルージョンで「メッシュ」が必要になるのはなぜでしょうか?
特に大規模な建物の場合、メッシュがなければ現実とCGの融合に違和感が生じてしまいます。
本記事では、なぜメッシュが重要で、どのように活用すれば効率的にオクルージョンを実現できるのかを解説します。
ARオクルージョンとは?
オクルージョンとは 遮蔽 という意味の英単語で、ARにおいては、実写映像とCGの前後関係の違和感を軽減する技術を指します。
左がオクルージョン適用例、右が未適用例 |
図出典 : https://styly.cc/ja/manual/occlusion/ |
上図の場合、オクルージョンを適用していないARでは、象の足が手前のカラーコーンで隠れていないため、前後関係に強い違和感が発生しています。
それに対しオクルージョンを適用したARでは、 手前のカラーコーンを遮蔽物と認識し、奥にいるゾウの足が隠れています。
このような処理が行われることで、AR体験が一層リアルに感じられます。
2種類のARオクルージョン
ARオクルージョンには、大きく分けて以下の2つの種類があります。
- 深度センサーを利用したARオクルージョン
- メッシュを事前準備するARオクルージョン
深度センサーを利用したARオクルージョンとその限界
深度センサーを利用したARオクルージョンとは
たとえば、iPhoneに搭載されたLiDARセンサーのように、カメラの前にある物体の深度(距離)情報をリアルタイムで取得できるセンサーがあります。
これを活用して、CGが現実の物体の後ろに隠れるように処理するのが、 深度センサーを利用したARオクルージョン です。
LiDARセンサー |
---|
図出典 : https://time-space.kddi.com/ict-keywords/20201204/3020.html |
この方法には以下のメリットがあります。
- 即座に周囲の状況を把握するため、 事前のスキャンが不要 です。
- 形状が変化する対象にも柔軟に対応できます。
- たとえば、人や動物が動く場合にも、その形状や位置の変化を即座に反映し、リアルタイムに追従します。
深度センサーを利用したARオクルージョンの限界
しかし、この方法には大きな制約があります。
それは、 遠くにある物体には対応できない ということです。
最新のスマートフォンに搭載されているLiDARセンサーの 最大範囲は約5メートル程度 です。
そのため、 建物全体をカバーできません。
大規模ARオクルージョンの実現には「メッシュ」が必要
上記の理由から、 建物のような大規模なARオクルージョンを実現する場合には、 メッシュを事前準備する手法 が採用されます。
メッシュを事前準備するARオクルージョンとは
あらかじめ現実の物体や建物を再現したメッシュ(ポリゴンモデル)を用意し、それをARオクルージョンの遮蔽物として活用する方法です。
Step1. 建物モデルでキャラクターを遮蔽 |
Step2. 遮蔽したキャラクターを実写映像と合成 |
上図の場合、以下の2ステップでARオクルージョンを実現しています。
- Step1: 左側にある建物モデルで、右側にいるキャラクターを遮蔽します。
- Step2: 建物モデルを非表示にし、そこに実写映像を合成します。
これによって、建物の向こうにキャラクターがいるかのような表現を実現しています。
この方法には以下のメリットがあります。
- 深度センサーの測定距離を超える 大規模なスケール(建物)に対応できます。
- 深度センサーの測定解像度を超える精密なオクルージョンに対応できます。
しかし、この方法には以下のデメリットもあります。
- 動くものに対応できません。
- たとえば、 動いている船やバス等でARオクルージョンはできません。
- 2024年時点のスマホやゴーグルでは、 大規模かつ動的なARオクルージョンの実現は困難です。
- 現実世界の物体と形状の近いメッシュを用意する必要があります。
ここからは、どうやってメッシュを用意するのか?という話をします。
PLATEAUを活用しよう!
図出典 : https://www.mlit.go.jp/plateau/about/ |
日本の主要な都市であれば、国土交通省が主導する PLATEAU から、建物のメッシュを無料でダウンロードできます。
これを活用することで、ARオクルージョンの実現が大幅に簡略化されます!
ただ、いくつか気をつけるべきことがあります。
LOD2モデルが必要
LODとは、Level of Detail (詳細レベル)の略です。どこまで細かく建物を再現するかの段階を指します。
(いわゆるCG用語としてのLODとは別の概念で、PLATEAU固有の用語です。)
ここで、気をつけないといけないことがあります。
建物メッシュでのARオクルージョンには、 LOD2以上が必須です!
LOD1 | LOD2 |
---|---|
屋根が再現されていない | 屋根が再現されている |
LOD1では屋根の形が再現されていないため、ARオクルージョンに利用できません!
すべての地域がLOD2に対応しているわけではないので、ご注意ください!
図出典 : https://berise.co.jp/topics/plateau/ |
地域によっては、LOD3のデータが存在する場合もあります。
LOD3ではフェンスや細かい構造物まで再現されていて、とても素晴らしいです。
(これを制作した方々には頭が上がりません!)
しかし、これらの細かい構造物はデータ量が多く、ARコンテンツのダウンロード時間を増やしてしまうという問題があります。
このような理由から、建物規模のARオクルージョンには LOD2が最適 だと私は考えています。
宣伝: STYLYの都市テンプレートについて
ここからは宣伝です!
ここまで説明した通り、ARオクルージョンの準備には、建物メッシュの入手や位置合わせなど、意外と手間がかかります。
そこでおすすめなのが、STYLYの都市テンプレートです!
以下の特徴があります。
- オクルージョンに最適化済みのメッシュデータが組み込み済み。
- 全国11都市(東京、大阪、新潟など)に対応。
- 位置合わせ不要で即利用可能。
詳しくは以下をご覧ください。
(実は本記事を書いている「せぎゅ」こそ、この都市テンプレート機能の開発者だったりします!)
さいごに
ここまでお読みいただきありがとうございました。
建物規模でのARオクルージョンを実現するには、現時点の深度センサー技術だけでは不十分であり、 あらかじめ用意したメッシュ を活用するのが現実的な解決策です。
STYLYの都市テンプレートを活用すれば、ARコンテンツ制作がよりスムーズになります。ぜひ、PLATEAUと併せてご活用ください!