はじめに
2023年12月、ニュースで大々的に取り上げられている、某党の政治資金パーティ収入の一部不記載の疑惑。
この件について、公開されている政治資金収支報告書を読み解くことで何か違和感に気づくことができないか試してみた。
データソース
政治資金収支報告書
総務省が公開している令和4年の政治資金収支報告書から該当する政治団体の頭文字(50音順)をクリックして、さらに政治団体名のリストの中から選択する。
今回の件に関係する派閥の政治団体は”その他の政治団体"に分類されているようだ(図1参照)。
政治団体の正式名称は、"⚪︎⚪︎派"などとWeb検索すれば特定することができる。
パーティ収入は、(その10)のページに記載されている。収入、支払った人数、開催日、開催場所などが確認できる。
パーティ券販売枚数の推定
ここで図2中のパーティ券の対価を支払った人数は、必ずしも販売枚数と一致しないことに注意が必要である。1人で複数枚購入したケースもあり得るためである。
各派閥の報告書の(その11)を観察していくと(図3参照)、一枚あたりの相場が20000円であることがわかり、これはテレビ報道されている内容とも一致している。
よって、今回は次式で販売枚数を推定することとする。
収入 ÷ 20000 = 販売枚数
派閥所属議員の人数
令和4年の報告書をベースにしているため、2022年4月現在の人数を以下のリンクから参照した。
Excelを使ったデータのまとめ
前述の内容を前提に、6派閥に対してデータを集めてExcelに入力した。
また、以下の計算式を使って、いわゆるノルマと言われている派閥所属議員1人あたりの平均販売枚数を算出した。(表1)
列Eに対して、Excelのデータ分析機能を使って基本統計量を算出した。(表2)
列B÷ 20000 = 販売枚数
列D ÷ 列C = 派閥所属議員1人あたりの平均販売枚数
表1
派閥ABの平均販売枚数
他の派閥と比較して、派閥ABの平均販売枚数が圧倒的に少ないことが分かる。
この数値が妥当かどうか検討してみる。
報道ベースでのパーティ券販売ノルマ
以下の報道によれば、1期目の議員で20-30枚、2期目で50-100枚と当選回数に応じて割り当てが増加するようだ。
派閥ABの平均販売枚数の妥当性
派閥所属議員の個別の販売ノルマについては知る術がないが、1期目で少なくとも20枚、ベテラン議員も所属しているはずなので、平均50枚程度というのは違和感がある。
さらに、他の派閥とのギャップも大きく収支報告書の妥当性について疑問を抱かさせる要因の一つとなり得るだろう。
実態はどうだったのか?
報道各社は、直近5年間で5億円の不記載があると報じている。
単純計算で1年あたり1億円と仮定する。
報告書に記載されている派閥ABの収入に1億円を上乗せして再計算してみる。
仮定に基づく収入実態:
100,000,000 + 94,800,000 = 194,800,000円
仮定に基づく販売枚数の実態
194,800,000 ÷ 20,000 = 9,740枚
仮定に基づく所属議員1人あたりの平均販売枚数の実態
9,740 ÷ 93 = 104.7枚
すると、104.7枚となり、他の派閥の傾向に近づくことがわかった。
これを言い換えると、所属議員の一人あたりの平均販売枚数が極端に少ない場合、妥当な平均販売枚数との差分を補正することで不記載分の金額をある程度推定できる可能性を示している。
まとめ
各派閥の政治資金パーティー券販売ノルマの傾向が概ね類似しているという前提で、特定の派閥の所属議員1人あたりの平均販売枚数が極端に少ないことが指摘できて、報道されている多額の不記載の疑惑がある派閥と合致していることがわかった。
一方で、すべての派閥が足並みをそろえていた場合は今回のようなデータ分析のアプローチでは違和感に気づくことはないかもしれない。
したがって、政治資金の収支に対してのさらなる透明性の確保が重要であることが再認識できた。
また、収支報告書が紙媒体のものをスキャンしてPDF化しているようで、データ処理に手作業が多く要求される。電子化を推進していただきたいと思う。