1. はじめに
2023年10月22日に投開票された、徳島・高知選挙区の参議院議員補欠選挙と高知県内の土佐市長・土佐清水市長選のデータを使って、投票率の地域差などに注目した個人的見解について述べたいと思います。
投票率の低い地域を非難するものではありません。
また、有権者の投票行動に関わる心理的要因は様々であり、単純に投票率だけで分析できるものではないと考えています。
2. 使用したデータ
極力該当する選挙管理委員会が公式に公開したものを引用した。
公式データが見つからなかったケースにおいては、選挙ドットコムなどのデータから引用した。
3. 分析の動機
近年、投票率の低下に対する懸念が高まっている。
行政や民間団体によって、投票所に足を運んでもらうための様々な施策が採られているものの、顕著な成果は見られないようだ。
具体例:
- 商業施設への期日前投票所の設置
- 出張所の開設時間の延長
- 若者向けの啓発動画の作成など
(参照) "投票環境の向上に関する方策", 北九州市選挙管理委員会 (令和4年7月)
個人的には、投票に行けば飲食店で割引サービスが得られるといった施策の意義に疑問を感じている。
一方で、複数の地方自治体で若者を対象にした選挙についての意識調査が実施されている。
(引用元) 前橋市明るい選挙推進協議会、前橋市選挙管理委員会
今回の選挙の特徴の一つは、国政選挙(補欠選挙)と市長選挙が同日に行われるというものである。
国政選挙単独だった場合と比較して、投票行動に何らかの変化があるのか分析してみることにした。
この分析結果から、従来にはない投票率向上の施策を導き出せれば幸いである。
4. 先行研究
”市区町村というミクロ的視点から投票率の実態を探る” , 林 蔚欣(茨城県⽴並⽊中等教育学校)
*2022年度 統計データ分析コンペティション 統計数理賞[⾼校⽣の部]
https://www.nstac.go.jp/sys/files/static/statcompe/files/2022/2022H3-suri.pdf
その他、衆院選のデータを使った研究が複数確認できた。
5. 2000年以降の高知県・土佐市・土佐清水市で実施された選挙の投票率のまとめ
Excelを使って、時系列ごと、選挙の種類ごとにまとめた(表1、表2のとおり)。
データの考察
表1から、
- (1) 土佐清水市は高知県全体の平均より投票率が高い傾向にある。一方、土佐市は県全体平均より低い傾向にある。高知県内ではあるが、図1のように土佐市と土佐清水市は地理的に離れているため、それぞれの有権者全体の選挙に対する考え方などが異なっている可能性がある。
- (2) 2007年は、4月、7月、11月にそれぞれ異なる選挙が実施されている。土佐清水市においては時間経過とともに投票率が下落傾向にある。趣旨は異なるが、選挙が約4ヶ月おきに実施されると有権者が面倒だと感じやすくなるのだろうか。
表2から、
- (1) 参院選の投票率が最も低い傾向にある。
- (2) 土佐市長選のデータは、無投票が多く投票率データの標本サイズが小さいため、平均値の考察対象から除外する。
- (3) (2)を考慮した上で、市長選・市議選・県議選・衆院選の投票率は比較的高い傾向にある。
- (4) 土佐清水市について、参議院選の平均投票率は65.9%であることに対して、今回は73.21%であり、前回比15.64ポイントアップであった。表1でもわかるとおり、参院選の直近で実施された地方選挙は投票率が高い傾向にある。今回は、市長選と同日実施したため、参院選の投票率も地方選挙並みに底上げされた可能性がある。
以上のことを総括すると、
- 参院選の投票率が低く、地方選挙の投票率が高い。ただし、他の都道府県でも同様のことが言えるか調査する必要がある。
- 市町村レベルでは、投票率の格差が大きい。
- 1年間に何度も選挙があると、投票に行くモチベーションが低下する懸念がある。実際に、この理由で投票しなかった有権者の規模を調査できていないので、断言できない。
- 無投票が多い選挙区分では、評価が難しい。
投票率向上に向けての施策
(1) コストパフォーマンスの高い、選挙PR予算の投入
参院選の投票率が低いという傾向が見られたことから、全ての選挙に対して同様の選挙PRをするよりは、投票率が低い選挙に対してはフルスペックの選挙PRを実施し、他方については効果が高い選挙PR施策に限定し、予算を有効活用するというものである。
特に、参院選は3年おきに入替え選挙が行われるので、選挙PR活動を計画的に実施しやすいと考えられる。
ただし、どの施策が効果が高いのかという検証がこれまで十分になされていないかも知れないので、施策の優先順位付けができない可能性がある。
(2) 参議院そのものについての理解を深める教育
参院選の投票率が低い原因を深掘りする必要があるが、徳島・高知選挙区が合区になった背景も含めて、参議院の役割りについての理解を深める教育の必要性を感じる。
(3) 市町村ごとの特性を見極めるためのデータ分析手法の確立
今回は、特定の地域に限定した分析を行った。
一方で、他の地域のデータを観察することで新たな知見が得られる可能性があり、アクセス可能なデータをフル活用して効果的な施策の立案につなげるための分析手法の確立が必要だと考える。
まとめ
今回は、極めて限定的な視点での分析を試みました。
地域が限定しましたが、2000年以降の全ての選挙を時系列にまとめてみるという手法でした。
これは、各自治体が公表している投票結果のデータ形式がPDFなどであり、データを集約するための手間がかかってしまいます。今回は、手入力でした・・・。
なかなか個人レベルでは全国規模を対象に同様のデータ分析をするのは難しいと思っています。
もう少し簡単なデータ取得方法などを模索してみて、分析手法の改善ができればと考えています。
参考資料
高知県庁
NHK ( 2023年10月22日 )
朝日新聞電子版 (2023年10月22日 12時00分)
選挙ドットコム
土佐市選挙管理委員会
土佐清水市役所