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【初心者必読】Ruby の誤解あるあるAdvent Calendar 2020

Day 17

Ruby の "1101".to_i(2) は 2 進数を 10 進数に変換している,わけじゃない

Last updated at Posted at 2020-12-16

Ruby の記事によく見られる誤りとしてこれがある。
本題に入る前に少し用語を整理しておこう。

まず

a = 17

という何の変哲もないプログラムを考える。
これはローカル変数 a数値 17 を代入している。
まず,この 17 のことを「数字」と表現した記事が非常に多い。

「数値」と「数字」は違う。(「数」と「数値」は基本的に同義1なので,この記事では区別しないことにする)

数字と言うのは,数を書き表すときに用いる記号のこと(ただし,負符号〔マイナス記号〕とか小数点などは数字に含めない)。
10 進法という記数法であれば,0 から 9 までの記号が「数字」だ。
上の例でいうと,ソースコード上の 17 は数字だが,a に代入されるのは数字ではなく数である。

非学術的な言語使用では比喩表現で数のことを「数字」と呼ぶことがある。
決算書を見て「いい数字が出たね」というように。
しかし,プログラミングの話をしているときは,数と数字をはっきり区別したい。

さて,本題に入ろう。

2 進法で「1101」と書かれた数は 10 進法ではどうなるだろう。
以下のプログラムで簡単に分かる。

p "1101".to_i(2) # => 13

答えは「13」。

このプログラムは String#to_i というメソッドを用いている。
文字列オブジェクトを整数オブジェクトに変換するものだが,引数で基数を指定することができる(基数というのは,N 進法の N のこと)。デフォルト値は 10 だ。
いまの場合,引数に 2 を与えているので,レシーバーの文字列を 2 進数とみなして整数オブジェクトを作る。

ここまではよいのだが,どうやらかなり多くの人がこの "1101".to_i(2) を見て「2 進数を 10 進数に変換している」と勘違いしているぽい。
いやまあ,誤解するのも無理はない。だって,上のプログラムを実行したら「13」て表示されるんだもんね。「13」は 2 進数「1101」に対応する 10 進数で間違いないもの。

ではいったい何が「誤り」だというのか?
もう一度「N 進法」「N 進数」という言葉について考えてみよう。
N 進法は N 種類の数字を用いる位取り記数法だ。記数法というのは数の表記方法のこと。
N 進数は N 進法に基づいて数を表したもの。

しかるに,to_i メソッドの返り値は文字列ではない。Integer オブジェクトだ。よって,「数字を並べたもの」ではない。2 進数でも 10 進数でもないのだ。だから to_i は「10 進数に変換するメソッド」ではない。

Integer オブジェクトは処理系内部では 2 進法に基づく表現となっているが,それは処理系の都合であって,ユーザーの知ったことではない2

では,一体なぜ上のプログラムは 10 進数の「13」を表示したのだろうか。
それは,こういう仕組みだ。

"1101".to_i(2) は 13 という数に対応する Integer オブジェクトを返す。
筆者がいま「13 という数」と書いたのは,とくに断りがない限り我々は数を 10 進法で表す習慣があるからそう書いたまでのこと。くどいようだが,この Integer オブジェクトは何らかの意味で「1」と「3」を並べたものでは断じてない。

さて,その Integer オブジェクトが p メソッドの引数として渡される。
p メソッドは,与えられたオブジェクトを inspect メソッドで文字列化して出力する。
Integerinspect メソッドは,引数を与えない場合,自身を 10 進法に基づく数字列(つまり 10 進数)という String オブジェクトに変換する。だから,今の場合,"13" という文字列が得られる。

要するに,to_i によって 10 進数に変換されたのではなく,それを表示するときに 10 進数になったというわけ。

  1. 「数の体系」とは言うが「数値の体系」とはあまり言わない気がする。「数値」は個々の具体的な一つの数について使われるとか,計算機の世界でよく使われる,といったことは言えそう。

  2. 原理的には Integer オブジェクトを 10 進法に基づく内部表現で扱う Ruby 処理系があったっていいし(誰も作らんだろうけど),CRuby なんかが Integer を 2 進法に基づいて扱っているといっても,13 の内部表現が 1101 というビット列になっている,なんて単純なわけではない。

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