「算法」(アルゴリズムのこと)って言葉,簡潔でけっこう好きなんだけど,知らない人もいるだろうし,広く使われているとは言い難い。
そういうマイナーな漢語のコンピューター用語をいくつか並べてみる(網羅は意図しない)。
訳語 | 原語 |
---|---|
算法 | algorithm |
算譜 | program |
作譜 | programming |
算料 | data |
算帳 | file |
界面 | interface |
番地 | address |
電脳 | computer |
軟件 | software |
硬件 | hardware |
金物 | hardware |
網 | network |
算法・算譜・作譜とかは普通に使いたいね。
算料,算帳とか界面は知らなかった(この記事を書くために調べてて見つけた)。
data
data は哲学(?)方面だと「与件」て訳語もあるみたい。「感覚与件」(sense data)とか。
address
ワンボードマイコンの時代は,メモリーのアドレスのことを番地と呼ぶのが普通だったと思う。
computer
「電脳」は中国語。
一口に中国語といっても,中華人民共和国(以下「大陸」)と台湾では字体が違ったり,語彙そのものが違うことがある。香港もまた違ったりする。
大陸の字体をここでは「簡体字」と呼ぶことにする。
「電脳」は簡体字では「电脑」。台湾では「電腦」。
大陸では「电脑」よりも「电子计算机」あるいは単に「计算机」のほうがふつうの表現ぽい1。
「電脳」は,日本では坂村健さんが盛んに使われていたっけ?
『電脳都市感覚』NTT出版(1989)なんて本もあった(けっこう衝撃を受けた)。
日本語も「電脳」を使うときは何かちょっと面白く表現したり,格好をつけたり,といった意図を感じる。「電子計算機」やその略語の「電算機」のほうがメジャー。電算機は字数を減らしたい新聞で多用されたけど,今はどうだろうね。「電算化」「電算写植」なんて言葉もあった。
software, hardware
「軟件」「硬件」は中国語。「軟件」は簡体字では「软件」。
日本では,(使うかどうかはともかく)この言葉の存在自体はそこそこ知られていると思ってたけど,そもそもほとんど知られていないらしいと最近気づいた。
上の表には hardware の訳語として「金物」を入れておいたけど,これは古い記憶をたぐっても,一冊の本で見ただけのような気がする。入れないほうがよかったかと,あとで思った。
英語では,電算用語以前に,「hardware」には鍋・釜のようなちょっとした金属器などを指す用法がある。この語義は日本語の「金物」に近いので,電算用語として「金物」の訳語を最初に使った人は,おそらくそういうところから持ってきたのだろう。
network
網は,接尾辞としてなら「通信網」とかメジャーだけど,通信業界(?)の人は「網」だけでも使うぽい。ずーっと,これ,アミって読むんだと思ってたけど,どうやらモウらしい(?)
file
上の表では「算帳」と書いたが,この言葉をどこで見つけて表に入れたのか覚えていない。
以下の節の「島内の算譜」では「算帳」ではなく「算帖」となっている。
中国語では「算帳」は全く違う意味で使われるようなので,「算帖」のほうがよさそうな気がする。もしかすると「帖」が常用漢字に入っていないために代用漢字に差し替えたのかもしれない。
その他
JIS X 0007 には,deadlock の訳語として「すくみ」,breakpoint の訳語として「中断点」が載っている。
漢語系電算用語はどうやってできた?
漢語系電算用語は,日本や中国でいろんな人が考案してきたのだろう。
以下の貴重な証言を見つけた。津田塾大学の 石井博先生のサイト 内のページで,2004 年に公表されたもの。
「算譜」「算料」などの訳語ができた経緯や意図が生々しく書かれていて,たいへん興味深い。
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「计算机」の「机」は「機」の簡体字である。日本漢字の「つくえ」とたまたま同じ字形になっている(いわゆる別字衝突)。 ↩