はじめに
「エンジニアとして学習を進めていると、もっとPCのスペックが欲しくなる...」
「Dockerで複数のコンテナを動かしたら、PCが悲鳴を上げ始めた...」
駆け出しエンジニアや学習中の方なら、一度はこんな悩みにぶつかったことがあるのではないでしょうか。
移動中やカフェでも開発したいからノートPCは必須。でも、性能を求めるとMacBook Proのような高価なモデルに...。
この記事では、高性能なデスクトップPCと安価なノートPCを組み合わせることで、場所を選ばずに高性能な開発環境を手に入れるための具体的な方法を紹介します。
ターゲット読者
- MacBookは高くて買えないけど、高性能な開発環境が欲しい方
- Dockerなど、PCスペックを要求される技術を快適に使いたい方
- すでにデスクトップPCを持っているが、外出先でも活用したい方
なぜこの構成なのか? 4つの大きなメリット
今回提案するのは、「処理は全て自宅のデスクトップPCに任せ、外出先からは安価なノートPCで遠隔操作する」というスタイルです。
この構成には、高価なノートPCを1台で運用するのに比べて、以下のような大きなメリットがあります。
1. 圧倒的なコストパフォーマンス 💰
最大のメリットはコストです。
例えば、高性能ノートPCの代表格であるMacBook Proが25万円以上するのに対し、この構成なら同等以上の性能を持つデスクトップPCと、持ち運び用の安価なノートPCを合わせても、はるかに安価に構築可能です。
構成 | 参考価格 | 備考 |
---|---|---|
高性能ノートPC | 250,000円〜 | 持ち運びは楽だが高価。性能向上に限界。 |
デスクトップPC + 廉価ノートPC | 180,000円〜 | デスクトップ12万~、ノートPC6万~ |
2. デスクトップならではの高い性能と拡張性 🚀
同じ価格なら、ノートPCよりもデスクトップPCの方が圧倒的に高性能です。CPUやメモリの増設、ストレージの追加も簡単。将来的に「もっとスペックが欲しい!」となっても、パーツ交換だけで柔軟に対応できます。
3. 外出先での快適性 ☕
重い処理はすべて自宅のデスクトップPCが行うため、手元のノートPCは熱くならず、ファンの音も静かです。カフェで周りの目を気にすることなく、集中して作業に取り組めます。ノートPCは画面とキーボードの役割だけなので、軽量でバッテリー持ちが良い安価なモデルで十分です。
4. 物理的なリスク分散 🛡️
万が一、外出先でノートPCを落として壊してしまったり、紛失してしまったりしても、大切なデータや開発環境は自宅のデスクトップPCにあるので安全です。ノートPCを安価に買い替えるだけで、すぐに元の環境に復帰できます。
どれくらいのスペックのパソコンが必要か
デスクトップPCの推奨スペック
Dockerや仮想環境を複数使う場合、以下のスペックを基準に選ぶと良いでしょう。BTO(Build to Order)サイトでこの構成を見積もれば、12万円〜15万円程度で十分射程圏内です。
CPU: Intel Core i5 / AMD Ryzen 5 の最新世代以上
コア数が多いとコンテナの並列処理やビルド時間の短縮に直結します。
メモリ: 32GB(最低でも16GB)
複数のコンテナ、IDE、ブラウザを同時に起動しても快適に動作させるための最重要パーツです。
ストレージ: NVMe SSD 500GB以上
NVMe SSDにすることで、OSやアプリの起動はもちろん、Dockerイメージの読み書き速度が開発体験を大きく左右します。
デスクトップPCの具体例
例えば、MacBook Pro M4と同等レベルの処理性能(CPU・メモリ)を持ったものだと、以下のようなデスクトップPCがあります。
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ノートPC(リモート端末)の推奨スペック
こちらはあくまで「画面とキーボード」。処理はしないので、性能はあまりこだわる必要がないと思います。中古なら4万円台~、新品でも6万円台~で見つかります。
CPU: こだわらなくてOK
最新世代の場合、Intel Core i3 / Ryzen 3程度で十分。
メモリ: 8GB
ブラウザのタブを複数開いても固まらないための最低ラインです。
ストレージ: SSD 128GB以上
HDDだとPCの起動が遅くなります。
画面: フルHD (1920x1080) 解像度のIPSパネル
リモート先の広いデスクトップを鮮明に表示でき、作業効率が上がります。
ノートPCの具体例
新品だと、以下のようなノートPCが最低限のスペックを満たしていると思われます。
構築に必要なものリスト
この環境を実現するために必要な要素は以下の4つです。
-
自宅に置くデスクトップPC
- OS: Windows 11 Pro / Mac / Linux どれでも可能
- 推奨: Windows 11 Pro (後述するリモートデスクトップのホスト機能が標準搭載されているため)
-
持ち運び用のノートPC
- OSは問いません。軽量でバッテリーが持つものがおすすめです。
-
RDP (リモートデスクトッププロトコル)
- デスクトップPCの画面を、手元のPCに転送・操作するための技術です。Windowsには標準搭載されています。
-
tailscale(仮想プライベートネットワーク)
- 外出先から自宅のネットワークへ安全に接続するためのソフトです。
構築手順 (3ステップ)
それでは、実際に環境を構築していきましょう。
Step 1: デスクトップPCでリモート接続を許可する
まず、自宅のデスクトップPCが、外部からの接続を受け付けられるように設定します。
Windows 11 Pro の場合
これだけで準備は完了です。Windows 11 Pro版をおすすめする最大の理由が、この手軽さです。
※Windows Home版では外部からの接続を受け付けられないため、別のソフトウェア(Chromeリモートデスクトップ など)が必要になります。
Step 2: VPNで安全な接続経路を確保する
次に、外出先から自宅のPCへ安全に接続するために、VPNの設定を行います。
おすすめはtailscaleです。他のソフトでも代替可能です。
tailscaleを使った設定例
1. tailscale公式サイトでアカウントを作成します。(GoogleアカウントなどでOK)
2. デスクトップPCとノートPCの両方に、tailscaleのアプリをインストールします。
© 2025 Tailscale Inc.
3. それぞれのアプリで、作成したアカウントでログインします。
たったこれだけで、2台のPCが仮想的なプライベートネットワークで接続され、お互いに通信できる状態になります。各PCに100.x.x.x
から始まるIPアドレスが割り振られるので、それをメモしておきましょう。
Step 3: ノートPCからデスクトップPCへ接続する
最後に、持ち運び用のノートPCから、自宅のデスクトップPCにリモート接続します。
Windows の場合
-
リモート デスクトップ接続
アプリを起動します。 -
コンピューター
の欄に、Step2で控えたデスクトップPCのtailscale IPアドレスを入力し、接続
をクリックします。
-
デスクトップPCのユーザー名とパスワードを求められるので、入力します。
接続に成功すると、ノートPCの画面に自宅のデスクトップPCの画面が表示され、まるで目の前にあるかのように操作できるはずです!
実際に使ってみてどう?(メリット・デメリット)
ノートPCではありませんがミニPCで試してみました。
使ったミニPCの性能は上記で紹介したノートPCより低性能です。
CPU | メモリ | ストレージ | ネット環境 | 回線速度(下り) | 回線速度(上り) | |
---|---|---|---|---|---|---|
自宅デスクトップPC | Ryzen7 3700x | 32GB | NVMe SSD 480GB | 有線LAN | 約600Mbps | 約500Mbps |
出先ミニPC | N95 | 8GB | M.2 SSD 256 GB | Wi-Fi | 約50Mbps | 約30Mbps |
👍 良い点 (メリット)
- コーディングやブラウジングは快適。 遅延はほとんど感じませんでした。ミニPCを有線LANで接続すると、全く遅延を感じなくなりました。
- Dockerもサクサク動く。 ビルドや複数コンテナの起動も、デスクトップPCのスペック次第でストレスフリーです。
- 手元のPCが静かで熱くない。 処理はデスクトップPCで行っているので、手元のPCは静かです。これだけで作業の集中力が上がります。
👎 気になる点 (デメリット)
- 安定したインターネット回線が必須。 自宅・外出先ともに、ある程度の速度と安定性が求められます。(特に自宅のデスクトップPCは有線接続をおすすめします)
- オフラインでは作業できない。 ネットに繋がらない場所では何もできません。
-
使いたい時はデスクトップPCの電源も常時ONにする必要がある。
- Wake-on-LAN (WOL) という仕組みを使えば、外部からPCの電源をONにすることも可能ですが、設定が少し複雑になります。
まとめ
初期設定の手間は少しだけかかりますが、一度環境を構築してしまえば、低コストでパワフル、かつ快適なモバイル開発環境が手に入ります。
特に、以下のような方には強くおすすめできる構成です。
- コストを抑えたい学生や学習中の方
- すでに高性能なデスクトップPCを持っている方
- 自宅と外出先で、完全に同じ環境で作業したい方
この記事が、皆さんの快適なエンジニアライフの一助となれば幸いです。