はじめに
2024年2月20日に、東京で開催された「Microsoft AI Tour Tokyo」に参加してきました。このイベントはAI技術の最前線に触れる絶好の機会でしたので、その経験を共有したいと思います。
こんな方へ
この記事は、AI技術の最新トレンドに興味がある方や、これからAIツールを活用したい、勉強したいという方向けになります。
Microsoft AI Tour Tokyo とは
Microsoft本社主導のワールドツアーとして、2023年9月の米国ニューヨークで開催された後、世界13都市で展開されており、「一歩先を行くAIトランスフォーメーションの実現」をテーマに実施されたイベントです。
今回の東京での開催は、日本の都市としては唯一の開催地となり、意思決定者と開発者を対象に、Copilotを中心としたAIに関するセッションが行われました。
なぜ参加したのか
参加の目的は、単に技術を学ぶだけでなく、「わくわくする未来を作る」ためのアイデアを得ることでした。イベント参加を通じて、自分自身がわくわくする体験をし、それを仕事に活かすことが目的です。
僕の仕事に対する理念は、「わくわくする未来を作る」ということです。
しかし、「わくわくする未来」とは具体的に何を指すのか、その実現に向けてどのようなステップを踏めばいいのかを、はっきりと捉えられていませんでした。
「わくわく」とは何か? どこから手をつければいいのか? 専門書を読むべきか、それとも何か別のアプローチがあるのか? これらの疑問に対して、僕は「わくわくしそうな場所に自ら足を運ぶ」という選択肢を選びました。
新しい技術やアイデアに直接触れ、その体験から自分自身がインスピレーションを得られるのでは?と考えたわけです。
印象的だった内容
各種公演のうち、特に興味が引かれた内容をシェアします!
1. Microsoft Cloudの機能
まずは、Microsoftのほぼ全てのサービスにAIが搭載されていることに驚きました。
世の中のほとんどのサービスは、AIを導入するためにバックエンドシステムを別で構築して繋ぐ必要がある中、Microsoftは1つのプラットフォーム上でAIサービスを提供できます。
Microsoft社は、業界の一歩先を行っているなぁと感じました。
2. ベクトル検索
特に「ベクトル検索」についてのセッションが印象的でした。
今までは、「意味的に近いものを提示する機能」としか知らなかったのですが、この講義を通じてその仕組みがどのように成り立っているのかを知るきっかけになりました。
まずは、ベクトルとは何か?を説明します!
ベクトルとは
「ベクトル検索」の「ベクトル」とは、数学や物理学で使われる「ベクトル」から来ています。ベクトルとは、方向と大きさを持つ量のことを指します。コンピュータサイエンスの文脈では、通常、多次元空間における数値のリスト、もしくは配列を指します。
数学・物理の”ベクトル”
例えば、平面上での位置や移動を表すために「(3, 4)」のような2次元のベクトルを使います。このベクトルは、x方向に3、y方向に4の移動を示します。これは、始点と終点を持ち、方向と大きさを表します。
コンピュータサイエンスの”ベクトル”
<テキストの”ベクトル”表現>
自然言語処理では、単語や文をベクトルで表現する方法もあります。例えば、「猫」という単語は数値ベクトルで「[0.2, 0.8, 0.1, …]」のように表現されます。このベクトル化された単語同士を比較することで、意味的な類似性を計算することができます。
<画像の”ベクトル”表現>
画像認識のために、画像の特徴を数値ベクトルとして表現します。例えば、ある画像が128次元のベクトルで「[0.3, 0.1, 0.4, …]」というように表現されます。画像ごとに異なる数値が割り当てられ、類似度検索の際に使われます。
ベクトル検索とは
テキストやデータを数値のベクトルに変換し、これを用いて情報を処理・比較します。この変換により、AIは文書やデータ間の類似性を数学的に評価して、検索クエリに最も関連する内容を効率良く見つけ出すことができます。
流れ
- テキストの入力: ユーザーが検索クエリを入力する。
- テキストのベクトル化: 入力されたテキストは、自然言語処理を通じて数値のベクトルに変換される。
- データのベクトル化: データベース内の内容も同様にベクトル化される。
- 類似度の計算: クエリのベクトルとデータベース内の各ベクトルとの間で類似度が計算される。
- 結果のランキングと返却: 類似度の高い順にデータがランキングされ、最も関連性の高い結果がユーザーに返される。
ベクトル検索により何が実現できるのか?
「ベクトル検索の仕組みは分かったが、じゃ何が実現できるのでか?」を掘り下げていきましょう!
例えば、カスタマーサポート。
<ベクトル検索導入前の業務フロー>
- 顧客からの問い合わせが電話、メール、ウェブフォーム、チャットなどを通じて受け付けられる。
- オペレーターが問い合わせ内容を確認し、手動でナレッジベースを検索する(キーワードやフレーズでの検索)
- オペレーターが過去の対応履歴やFAQから関連する回答を探し、顧客に返答する。
- 顧客の問題が解決しない場合、次の担当者にエスカレーションする。
<現状の課題>
- 手動検索では関連情報の検索に時間がかかる
- オペレーターごとに回答の質にバラつきが生じる
- ナレッジベースの使い方や内容に関する社内トレーニングが不足
- 適切な回答が得られないため、エスカレーションが多発
<ベクトル検索を導入する業務>
- 顧客からの問い合わせ内容を分析し、意味的に類似する過去の問い合わせに基づく回答を自動提案
- 新たな問い合わせデータを自動で取り込んでベクトル検索のモデルに反映
<ベクトル検索導入後の業務フロー>
- 顧客からの問い合わせ内容を受け取る
- 自動的にナレッジベースをベクトル検索でスキャンし、意味的に類似した回答を提案
- オペレーターが提案された回答を確認し、必要に応じてカスタマイズ
- 顧客に回答を返答し、問題が解決する
- 新たな問い合わせ内容がモデルに追加され、今後の問い合わせに活かされる
<ベクトル検索を導入したことによる効果>
- 適切な回答が迅速に提案されるため、顧客対応時間が短縮したり、エスカレーションが減少する
- オペレーターのスキルレベルに関わらず、一貫性のある回答が提供できる
- スムーズな対応により、顧客の満足度と信頼が向上する
- 新人オペレーターでも効率的に業務をこなせるようになる
ベクトル検索の導入のイメージがつきましたでしょうか。
こんな感じでベクトル検索を導入することにより、顧客サポート業務全体の効率と品質が向上し、顧客満足度の向上に繋げられそうですね!
3. 開発ツール Prompt Flow
Prompt Flowとは
Prompt Flowは、Microsoft Azure AI Studioの一部として提供される、プロンプトを活用したAIアプリケーションの設計やオーケストレーションのためのツールです。プロンプトエンジニアリングにおいて、複雑なプロンプトの組み合わせや条件分岐を直感的にデザインでき、AIモデルのパイプラインを効率的に構築できるようサポートしてくれます。
Prompt Flow導入により何が実現できるのか?
<Prompt Flowを導入しない場合>
全体のワークフローをコーディングにより実現させるため、実装に時間がかかり、変更やテストに手間がかかります。さらに、異なるAIモデルやロジックの組み合わせが煩雑で、パフォーマンスやエラー管理が困難です。プロンプトや応答内容の最適化にも時間がかかり、反復作業が必要です。そして、問題箇所の特定と修正が難しいため、全体のデバッグが非効率になるという課題があります。
<Prompt Flowを導入した場合>
まず、顧客からの問い合わせ内容を分析・分類し、その内容に適したプロンプトの設計とテストをPrompt Flowで行います。
次に、条件分岐やワークフロー全体のオーケストレーションをGUIでデザインし、各AIモデルやAPIへの接続とテストを行います。ワークフロー全体のデバッグを実施し、最終的にAzure AI Studioから直接デプロイができます。
導入により、プロンプトやワークフローをビジュアルで設計できるため、手作業でのコーディングが大幅に減り、迅速なAIサービスの構築が可能となります。
さらに、AIモデルの実験や評価に関して、CSV形式のテストデータを利用し簡易的に実施することができるため、問題箇所の特定と修正が迅速に行えることでデバッグの効率も向上します。
個人的には、「直感的なUIになっておりGUI上からワークフローを組める」ということと、「デバッグをボタン操作で行える」ということがこのツールの強みと感じました(高度な知識がなくても構築できる)
4. 津坂美樹社長のメッセージ
代表取締役社長の津坂美樹さんの基調講演の最後の言葉でAI技術を「筋トレ」に例えられていたことが印象的でした。
「皆様には今日から始めていただきたいことがあります。それは AIの筋トレです。私も毎日続けることでどんどん自分の筋肉量がついてきたと感じ、皆様と一緒にトレーニングを続けていきたいと思っています」
まさに筋トレと一緒!と感じました。
いくら知識を頭に入れても、実際に何度も使ってみなければ、その知識を活かす「筋肉」は鍛えられませんよね。
AIの理解と活用への第一歩として、実際に手を動かしてみることの大切さを再確認しました。
これを受け、僕のネクストアクションは、とにかく「AIを利用したおもちゃを作る」ということに取り組んでいき、取り組んだことを記事にしていきたいと思います。
おわりに
Microsoft AI Tour Tokyoに足を運んで、一番感じたことはAIへの注目度を間近で感じ取れたことです。
最後の津坂社長のメッセージや、Microsoftの社員の方々の講演ももちろんですが、会場に集まった参加者の数や、施設の大規模なキャパシティを目の当たりにして、AI技術がどれほど注目を集め、期待されているかを肌で実感しました。
新しい技術や知識に触れることで、学習意欲が湧きます。もし、勉強を始めたいけど一歩が踏み出せないと感じている方がいれば、ぜひこういったイベントに参加してみることをおすすめします。
こんな感じ↓
1. 自分がわくわくする
直接的な体験から感じる興奮(わくわく)が、モチベーションを生む。
2. もっと知りたいと思う
その体験が新たな興味に繋がり、さらに深く学ぶ意欲を高める。
3. 知見が増える
体験から学んだ知識や技術が、専門性を高める。
4. お客様/仲間に提案する
新たに得た知見をもとに、お客さんや仲間への提案が可能になる。
そして、学んだことを実際に使ってみる、つまりAIの「筋トレ」を始めることが重要です。
これから、様々なAIおもちゃを作り楽しい記事をたくさんシェアしていくので、お楽しみに!
(ベクトル検索を用いたおもちゃを作りますので近々シェアします!)