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フリーランスになってみて

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はじめに

20年以上勤務した某SIerを昨年退職してフリーランスになりました。
開業届を出して青色申告事業者になり、半年ほど仕事をして、インボイス登録事業者にもなり、初回の確定申告を終えたところです。
実際にやってみての所感とか、会社に所属することとのメリット・デメリットの比較についてまとめてみました。

事務処理などのやることの違い

前職では自社がプライムで他社の要員を受け入れる側のこともあれば、他社案件にSESで参画する立場のこともありました。他社案件に参画する場合は顧客との面談(自分という要員を売りに行く)から契約手続とかも自分でやることがあったので、やることが増えたという印象はありませんでした。やることを大まかに比較してみると以下のとおりです。

会社に所属してSES案件参画 ITフリーランスとして参画
案件獲得 各社からの引き合いに対して自分を含む要員を提案
提案する案件は自分で決められない(個人的に面白そうと思っても売上拡大が望めなければ辞退するなど)
案件紹介してくれるエージェント会社に登録して紹介をうけて面談
複数候補がある場合は自分の希望で選択
契約 社内システムに案件や契約情報を登録
見積書を作成して顧客に提出、顧客との契約手続を実施(新規顧客の場合は法務チェックなどの社内手続もあり)
エージェント会社からの契約書を確認して指定された方法で手続
参画 顧客指定の手続(同意書提出や入館証発行など)を実施
常駐の場合は通勤経路変更の社内手続を実施
顧客指定の手続(同意書提出や入館証発行など)を実施
請求 顧客の締日(通常は月末)に合わせて社内システムで売上処理して請求書を発行 顧客の締日(通常は月末)に合わせて会計システム 1 で売上処理して請求書を発行
経費精算 交通費は経費精算システムに登録
備品購入や出張は事前承認+事後に精算が必要
備品等は何でも買えるわけではない
会計システムで経費計上(モバイルSuicaやカード明細からの自動連携機能あり)
自己判断で必要なものは何でも買える
評価 顧客の評価≠自社の評価
増員して売上拡大しないと評価が低いとか、案件継続は社内事情で決まるとか
顧客の評価が全て
教育 社内の指定研修受講が必要
自分が受けたい研修等がある場合は研修稟議を上げる(好きな研修が受けられる訳ではない)
書籍等は必要に応じて自費で購入
自己判断でe-ラーニングや書籍等を購入して経費計上ができる
確定申告 会社で給与から源泉徴収+年末調整
必要に応じて確定申告(私の場合はふるさと納税でワンストップ特例が使えなかったので毎年やっていました)
自分で確定申告(青色申告+消費税申告)

このように事務処理などを会社を通してやるか、全て自分でやるかの違いであって、やること自体が大きく変わるわけでは無い、というのが実際やってみての印象です。

フリーランスになる上で意識すべきこと

上記のように私の場合はフリーランスになって大変になったことは特に無く、案件以外の社内作業が減ったり収入が増えたりとメリットの方が大きかったです。
とは言え、必ずしも全ての人にとってフリーランスのメリットがあるという訳ではありません。働き方としてのフリーランスという選択をする上でいくつか意識すべきことがあると思います。

技術者としてのスキルが重要

当たり前のことではありますが、自分のスキルを市場で売りに出す以上、これが重要です。
会社に所属していれば、低スキル要員の作業を高スキル要員がサポートするとか、未経験者を経験者とセット売りすることで経験を積ませるとかがあります。また、売れない期間があっても社内の作業をするとか待機期間を利用して研修実施とかを会社が世話してくれます。
フリーランスの場合は自分自身に売り物としての価値が無ければ売れない、というだけです。会社という枠を抜け出しても継続的に仕事を獲得するスキルを持ち続けることが大前提になります。

契約内容を把握すること

会社に所属する技術者の場合、契約は営業など別の人が担当するのが普通で、自分がどういう契約でその案件にいるのかを知らないという人も多いと思います。
フリーランスになると、自分自身で顧客やエージェント会社と契約締結して仕事をすることになりますので、契約内容を把握してしている必要があります。自分が関わらない範囲でもセキュリティ事故やコンプライアンス問題、プロジェクトの遅延などのトラブルの話を聞いたことがある人も多いと思います。もしそのような問題が起きたときにどうなるか、契約に無関心だと大変なことになりかねません。
まあIT業界の契約は 情報サービス産業協会(JISA) とか 情報処理推進機構(JPA) がモデル契約書を出していて大筋は決まった内容が書かれているので、見慣れていれば恐れる必要も特に無いと思います。

事業主だということ

個人事業主として青色申告する場合でも、法人化する場合でも、自分で事業の経営者になるわけですから、自分の事業に責任を持つ必要があります。開業届や会社設立手続をするところから、日々の会計処理、社会保険等の手続や税務処理まで、基本的には自分で責任を持つ必要があります。
事務作業が面倒なら税理士に依頼するなど外注も可能ですが、最後に責任を負うのは自分なので、人任せで内容を知らないという訳にもいきません。基本的には全部自分でやるくらいに考えた方が良いと思います。
事務処理に関してはインボイス制度のことも知っておく必要があります。少し前、インボイス制度開始の頃に世間では反対の声が上がり話題になりました。ITフリーランスに関しては実はそれほど問題無いのでは、というのが私の所感です。少し詳しく説明します。

インボイス制度で収入が減る?

インボイス制度に反対する理由として、それまでもらっていた消費税分の収入が減るという話がありました。この問題は、免税事業者 2 という制度に起因します。年間の課税売上高が1,000万円以下であれば消費税を納付する必要がありませんでした。例えば課税売上高900万円であれば消費税10%で90万円を顧客に請求して合計990万円が収入になるというものです。これに対して顧客側は課税仕入高900万円、仮払消費税90万円を計上していました。
インボイス制度が始まってからは、顧客側がこの90万円を仕入税額控除するためにはインボイス登録事業者からの適格請求書が必要になります。免税事業者からの請求書で990万円支払った場合には仕入税額控除できず、消費税の負担額が増えてしまいます(正確には経過措置があるので当初は90万円のうち80%は仕入税額控除できます)。なので、顧客としては仕入先に対して登録事業者になってもらうか、仕入税額控除できない分の仕入金額引き下げを求めることになります。
ただ、ITフリーランスの実態を考えると免税事業者ではない場合が多いと思います。
例えば月単価90万円×12ヶ月=1,080万円なので、それ以上の単価で仕事をする場合にはそもそも課税事業者で、インボイス制度によって収入が下がることはありません。

インボイス制度で事務処理負担が増える?

会社に所属する方でも、インボイス制度開始後は経費精算が面倒になったという方もいるかと思います。
面倒になる理由は仕入税額控除です。企業の場合は売上時の仮受消費税と仕入時の仮払消費税の差額を申告して納税するので、仕入先が登録事業者で適格請求書を発行しているかが重要になります。
では個人の場合はどうか。課税売上高が5,000万円以下の場合は簡易課税制度 3 というものがあり、みなし仕入率で消費税額が計算できます。物販業ならともかく、売上≒収入のITフリーランスで5,000万円を超えるようなことはほぼ無いでしょう。さらに今なら2割特例 4 という軽減措置もあります。
売上に関しても、ITフリーランスの場合は月単位での売上が多いと思います。単一案件への参画であれば年に12回請求書を発行するだけです。
そのように考えると、毎月月末に売上と経費の事務処理をするだけで、会社員に比べて特段手間がかかるということでも無いと思います。

教育研修は自分で考える

多くの会社で、年次や職位に応じて技術力やビジネススキルを向上させるための研修があります。
プロジェクトが多忙で目先の仕事に直結しないような研修だと面倒に思うこともあるかもしれませんが、有用な研修が多いと思います。
いつ何を学ぶべきかを会社が事前に考えて提供してくれるというのは、会社に所属することの大きなメリットだと思います。
個人だと自分の学習意欲や習慣に依存するので、楽をしたいだけになるとスキルが上がらず停滞します。長く仕事をしているベテランの人でも、数年前の知識で止まっている人を多く見かけます。
フリーランスになった当初はそれまでのスキルの貯金で仕事ができますが、意識的に自分の商品価値を維持することができる人でないと長く続けていくことは難しいように思います。

立場が変わると仕事の内容が変わる

会社に所属していたときには、自社のプライム案件で新規顧客を獲得するということをする機会がありました。提案書を書いてプレゼンをする、受注が決まったら案件立ち上げに向けた内外の調整をする、受注した案件を自分がプロマネとして推進していく、というようなことは、会社に所属していたからこそできたことで、貴重な経験だったと思っています。
そこまでの立場で無くても、プロジェクト体制においてプライムベンダとパートナー会社ではできる役割が異なりますので、リーダとして自社メンバを統括するような仕事がやりたいのであれば、会社に所属していた方が良いでしょう。

最後に

いろいろ書きましたが、私個人の場合は、事務処理負担などをデメリットに感じることがほとんど無く、結果としてはメリットが大きかったと思います。
もしかしたら将来的には気が変わって組織に所属したい、とかなるかもしれませんが、当面はその意思も無いので、フリーランスとして仕事を続けて行きたいと思っています。
この記事が皆さんの将来を考える際の何らかの参考になれば幸いです。

  1. 私はやよいの青色申告オンラインを使用しています。他製品でも同様の機能はあるようです。

  2. https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shohi/6125.htm

  3. https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shohi/6505.htm

  4. https://www.nta.go.jp/publication/pamph/shohi/kaisei/202304/01.htm

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