IT業界は本来、技術力とイノベーションが価値を決定する能力主義の世界であるべきだ。しかし、日本のIT業界は他の産業以上に年功序列制度に固執している。技術の進歩が激しく、若い世代が圧倒的に有利な分野でありながら、なぜこの時代錯誤な制度が維持され続けるのか。
──── 非技術系管理職の既得権益保護
日本のIT業界における年功序列維持の最大の理由は、技術を理解しない文系出身管理職の既得権益保護だ。年功序列という無能者の天国では、時間の経過が能力の証明として扱われ、実際の技術力は評価の対象外となる。
多くのIT企業の上層部は、プログラミングができず、システムアーキテクチャを理解せず、新技術のトレンドについていけない文系出身者で占められている。彼らにとって技術力による評価システムは自身の地位を脅かす脅威でしかない。
終身雇用制度の死が進む中でも、IT業界だけは意図的に古い制度を維持している。これは技術的無能な管理層が、自分たちの地位を保護するためのシステムなのだ。
──── SIer構造による階級制度の固定化
SIerという中間搾取システムは、年功序列制度と密接に結びついている。元請け、一次下請け、二次下請け、三次下請けという階層構造は、企業間の年功序列を体現している。
この構造では、実際にコードを書く若い技術者が最下層に置かれ、技術を理解しない上位企業の中年管理職が最高位に位置する。技術力ではなく「企業の格」や「営業年数」が序列を決定している。
各階層で中間マージンを抜く仕組みにより、技術者の技能向上が収入増加に直結しない。むしろ、技術力を磨くより営業力や調整力を身につけた方が昇進に有利な構造になっている。
──── 技術者のマネジメント忌避の悪循環
日本の技術者がマネジメント職を避けたがる傾向も、年功序列維持に貢献している。技術的純粋性への信仰と職人気質により、優秀な技術者ほどマネジメント職に就きたがらない。
結果として、マネジメント職は技術力の低い人間か、技術者としては二流の人材が担うことになる。彼らは技術力で勝負できないため、年功序列による地位保障を強く求める。
技術者が自らマネジメントを忌避することで、非技術系管理職の支配を許し、年功序列システムを温存してしまっている。これは技術者自身が作り出した自縛状態だ。
──── 転職タブーによる流動性阻害
日本社会の転職タブーは、IT業界でも強固に維持されている。技術者が他社に移ることを「裏切り」として捉える企業文化が、労働市場の流動性を著しく阻害している。
年功序列制度下では、転職により勤続年数がリセットされ、給与水準が大幅に下がる。特に中堅技術者にとって、転職による経済的損失は無視できない。この「転職すると損をする」システムが、技術者を現職に縛り付けている。
企業は意図的に「自社専用技術」の習得を推進し、他社では通用しないスキルを身につけさせる。オープンソースや標準技術ではなく、独自システムの専門家として育成することで、転職を困難にしている。
──── IT音痴経営陣の技術軽視
日本企業の経営陣は技術を理解していないため、技術者の能力を適切に評価できない。彼らにとって技術者は「よくわからないが必要な人達」でしかなく、その価値判断を年齢や勤続年数に委ねている。
「ITは難しいから専門家に任せる」という思考停止により、技術的判断を下請け企業に丸投げする。経営陣自身が技術を理解していないため、若い技術者の提案よりもベテラン管理職の意見を重視する。
この技術軽視の姿勢が、技術力ではなく年齢を重視する人事制度を正当化している。技術の価値を理解できない経営陣にとって、年功序列は最も理解しやすい評価システムなのだ。
──── ホワイトカラーの生産性低下の隠蔽
年功序列制度は、IT部門の生産性の低さを隠蔽する機能も果たしている。会議のための会議、稟議制度による意思決定の麻痺、能力と責任の不一致。これらの非効率性が年功序列制度により正当化されている。
本来であれば、生産性の低い管理職は淘汰されるべきだが、年功序列制度により彼らの地位は保護されている。「経験豊富」「調整能力がある」といった曖昧な理由で、実際の成果を出していない管理職が温存される。
技術者の生産性は個人のスキルに大きく依存するが、年功序列制度下では個人の能力差が給与や地位に反映されない。優秀な技術者と凡庸な技術者が同じ処遇を受けることで、組織全体の生産性向上動機が削がれている。
──── 海外企業との競争力格差の拡大
年功序列を維持する日本のIT企業と、能力主義を採用する海外企業との競争力格差は拡大の一途を辿っている。GAFAをはじめとする海外テック企業では、20代の技術者が重要なポジションに就き、巨額の報酬を得ている。
一方、日本のIT企業では、優秀な若手技術者も年功序列の枠内で「修行期間」を強いられる。この機会損失により、優秀な技術者の海外流出が加速している。
年功序列を維持することで、日本のIT業界は自ら競争力を削いでいる。グローバル市場では通用しない人事制度に固執し続けることで、国際競争から取り残されている。
──── スタートアップ企業との能力格差
年功序列制度の弊害は、スタートアップ企業との比較で顕著に現れる。スタートアップでは年齢に関係なく、技術力と成果に基づいて評価される。20代のCTOや30代のシニアエンジニアが当たり前に存在する。
一方、従来のIT企業では、同じ年代の技術者が「まだ若い」という理由で重要な判断から排除される。この機会の格差により、優秀な若手技術者はスタートアップに流れ、大手IT企業には相対的に能力の低い人材が残る。
年功序列制度を維持することで、日本の大手IT企業はイノベーションの源泉である若い技術者を自ら手放している。
──── 技術的負債の蓄積と責任回避
年功序列制度は、技術的負債の蓄積を正当化する装置としても機能している。「ベテランが作ったシステムだから」「長年使われている実績があるから」という理由で、陳腐化した技術が温存される。
新しい技術の導入を提案する若手技術者の意見は「経験不足」として退けられ、古い技術に固執するベテランの判断が「安全」として採用される。この保守的姿勢により、技術的負債が蓄積し続ける。
年功序列制度下では、技術的判断の責任も曖昧になる。失敗した場合、「組織として決定したこと」として責任が分散され、個人の技術的判断力が問われることがない。
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それでも、IT業界における年功序列制度の解体は技術進歩により不可避だ。クラウド技術、AI、Web3など新しい技術領域では、年齢に関係なく技術力が評価される。グローバル競争の激化により、能力主義を採用しない企業は淘汰される運命にある。
個人レベルでは、年功序列制度に依存しない技術力を身につけることが重要だ。オープンソース貢献、国際的な技術コミュニティへの参加、英語での技術発信を通じて、グローバル市場で評価される能力を獲得すべきだ。
年功序列制度が崩壊する過程で、多くの既得権益者が抵抗するだろう。しかし、技術の進歩は彼らの抵抗を無力化する。変化に適応できる技術者だけが、次の時代を生き残ることができる。
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※本記事は日本のIT業界の年功序列制度についての個人的見解です。特定の企業や個人を批判するものではありません。