はじめに
大学と共同研究開発中の医療分野のプログラム(AI)の一部について、特許出願を行ったので、その過程で調査したことや考えたことをまとめます。
特許化の位置づけ
- 大学では、知財収入確保の観点から、論文化の前に特許化を検討することを大学内で奨励しています。
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AMEDでは、基礎研究の成果を新しい医薬品・医療機器等の開発などの社会実装に結びつける橋渡し研究の予算を提供していますが、標準プロセスに特許化が組み込まれており、特許申請が出口評価である「シーズA」という予算を毎年公募しています。
- 橋渡し研究支援機関として認定されているのは、11拠点
- 上記11拠点でなくても、橋渡し研究支援機関の公募に申請することで橋渡し研究予算に申請できます。
- 特許化は医療機器などの製品化に必須ではありませんが、研究予算公募時に申請者の実績としてアピールできます。
- 対象疾患など適用範囲を拡大できる可能性がある製品の場合特に、特許化すると、2匹目のどじょうを狙った類似競合製品から守ることができます。
- 自分自身が2匹目のどじょうの場合にどうすればよいか、は後述します。
特許の7要件
技術者のための特許実践講座(森北出版株式会社)によると、特許の審査では以下の7つの要件を満たしているかを見られます。
- 産業上利用できるか・自然法則を利用した技術的思想か
- 新規性はあるか
- 非容易性はあるか
- 最先の出願か
- 実施可能な開示をしているか
- 特許請求の範囲は明確か
- 先願に開示されていないか
上記7つのうち、特に重要な「新規性」と「非容易性」について後述します。
新規性はあるか
同じ課題を解決したものがあるか、関連キーワードを指定して、国内・海外の先行特許調査を行います。
- 国内 特許情報プラットフォーム J-PlatPat
- 国際・国内特許データベース WIPO
先行特許が無い=新規性あり、とはなりません。次に申請内容が「公知でないか」、先行研究論文等の確認を行います。出願内容について特許出願前に学会発表や論文発表すると新規性を喪失した、とみなされるので注意が必要です。
特許事務所の「先行特許調査」は、関連キーワードを指定する検索式を用いて、広めに特許調査をしてくれる一方で、対象が特許のみで論文等の調査は対象としていないこともあるようですので注意が必要です。
自分が2匹目のどじょうの(同じ課題解決に向けた先行特許・論文がある)場合
- 期待効果や精度、方法に違いはないかを検討をします。「改良特許」という領域もあります。
- 違いを見つけるために、特許化する範囲を絞ったり、逆に拡大したりなどの検討を行います。
非容易性はあるか
- 非容易性とは、その分野において通常の知識を持っている者(当業者)が、公知例から容易に考えつくものでないことをいいます。
- 今回のAIでも、学習データをモデルに投入しているだけじゃないのか、それで特許をとれるのか、という非容易性についての指摘をシーズA審査で受けました。
- 目標精度を達成するために工夫をしたことを整理し、請求項に落とし込むのが有効です。工夫したこと=非容易性です。
特許出願書類の作成・出願
- 特許事務所に発明概要を説明し、出願書類の作成・出願を依頼しました。発明概要のアジェンダは以下のとおり。大学へ提出する発明届と同様の内容となっています。
- 発明等の概要(処理フロー図)
- 従来技術
- 今回の発明
- 実験方法とデータ
- 出願書類の作成・出願費用は約40万円でした。
特許の請求範囲
- 本製品のみを想定した個別化しすぎた範囲にならないよう注意します。横展開を想定し範囲を検討します。
- インプットを限定しすぎず、上位互換品を排除できるとなおよいです。
おわりに
- 学会発表や論文化(新規性)が見えていて、工夫したことがあり(非容易性)、製品化の可能性がある技術内容でしたら、特許化の検討をおすすめします。
- シーズAへの予算申請は新規性が見えた段階で検討してよいかと思います。開発しているなかで非容易性は出てくると思います。