いよいよ、今春から5Gが本格化します。開始当初は、使用可能なエリアはかなり限定的で、発表されたスマートフォンもまだまだ高額ですが、今後のエリア拡大と低価格モデルの端末に期待しています。
一方、5Gを自前で構築できるように制度化されました。これはローカル5Gと呼ばれるもので、昨年末、総務省で免許申請の受付が開始されました。ローカル5Gの目的、役割として、地域で比較的小規模な通信環境を構築し、5Gの特徴である、①高速大容量、②超高信頼・低遅延、③多数同時接続、これらを生かして、様々な通信ニーズ、ローカルニーズに対応することにあります。現時点でローカル5Gに使用可能な周波数帯は28.2-28.3GHzの100MHz幅であり、このようなミリ波帯は直進性が強く、伝搬距離も100m程度と思われます。今後、4.6-4.8GHzも制度化される予定ですが、伝搬距離はさほど伸びないと思われます。
なお、全国キャリア(以下、キャリア)に割り当てられた商用の5G周波数帯も28GHz前後なので、キャリアが広範囲に5Gサービスを展開するには、5G基地局(スモールセル)の設置が大量に必要になります。一方、ローカル5Gの場合、エリアが局所的なので、基地局の数は少なくて済みます。
因みに、ローカル5Gではありませんが、現在、4Gバンドの5G共用化の取り組みが進行中で、近い将来、既存のLTE基地局で5G通信が可能になることが期待されます。この件を含む意見募集が、2020年1月~2月にかけて総務省で実施されました。また、エリクソンの発表によると、このための技術**DSS(Dynamic Spectrum Sharing)**を使用して、エリクソン製のLTE基地局のSWを更新することで5G NRとLTEの両方に同時対応し、かつ、スマートフォン等の端末もDSS対応のもの(例えば、Qualcomm Snapdragon X55/X60等のSoCを搭載)にすることで、5Gのエリアを一気に拡大させられるとのことです。
ローカル5G開始当初はNSA(Non-StandAlone)方式
同じく、今春のキャリアの5GサービスもNSA方式で開始されます。NSAはSA(StandAlone)と異なり、制御信号の送受信のためにLTEをアンカーに使用する方式です。ローカル5Gの場合は、2.5GHzを使用する地域BWAや自営BWAとの連携が考えられます。
実は、総務省はローカル5G導入に関するガイドラインにおいて、キャリアの設備もアンカーの候補に上げているのですが、キャリアが自社の設備をローカル5Gに提供する場合、
- 既存のサービスに影響を与えないように細心の注意を払って、設定、検証する必要がある。(手間がかかりそう)
- 当面の間、キャリアはローカル5Gの免許を受けられない。
上記の事情から、キャリアにとって、自社設備をローカル5Gに積極的に提供するメリットは感じられないかもしれません**(推測)**。となると、ローカル5Gのアンカーのために、地域BWAとの連携(手間な事情はキャリアと同様かも)、あるいは、自営BWAを構築する等の対応が必要になります。ただ、キャリアの設備を利用させて頂ければ、ローカル5Gの普及に弾みが付くと思います。
このような事情から、ローカル5Gの本命はSA方式かなと思います。また、現時点で5Gの機材(HW/SW)はキャリア仕様であり、ローカル5Gを検討している組織(自治体、企業等)からすれば、かなり高額なのではと思います。
プライベートLTE(sXGP)の場合
一方、ローカル5G以外で、自営の携帯網を構築する方法に、プライベートLTEがあります。今まで出て来た2.5GHz(20MHz幅)の自営BWAがプライベートLTEに該当します。また、この2.5GHzとは別に、PHSの1.9GHzがプライベートLTEの選択肢に加わりました。
昨今のPHSの状況として、公衆PHSは今年7月にサービスが終了します1。更に、スプリアス規格が旧規格の機器の場合、病院や職場等、構内/自営のPHSは2022年11月に使用できなくなります。このPHSバンド(1.9GHz)が、プライベートLTEで使用できるようになりました。これはsXGP(5MHz幅、TD-LTE準拠)と呼ばれていて、XGPフォーラムで規格化されました。免許不要の周波数帯(1.9GHz)を使用して、自前で携帯網を構築することができます。現時点では、公衆PHSとの干渉を避けるため、5MHz幅で運用されますが、将来、20MHzに拡大されるかもしれません。
sXGPの主な特徴は、以下のような感じです。
- 免許不要で構築可能(ただし、現時点では公衆PHSとエリアが被る場合、公衆PHSが優先)
- 伝搬距離は数10~数100m程度
- ローカル5Gと比較して機材が安い。
また、一般に携帯網の特徴である、
- 接続の安定性
- SIMによる高いセキュリティ
上記を享受することができます。なので、ローカル5Gで5Gの三大特徴を追求した利用を求めなければ、sXGPでもイケる用途が十分あると思います。sXGP対応の低価格なスマートフォンやモバイルルータも既にあります。なお、既存のスマートフォンの中には、1.9GHzに対応した製品もありますが、そのままでsXGPで使用できるかは、(キャリア?メーカ?)要確認と思います。
ローカル5G NSAのアンカーバンドにsXGPって使えるの?
ここまでの流れから、それなら、ローカル5GをNSAで構築する際、アンカーバンドにsXGPが使用できれば、LTE設備を抱える組織(地域BWA/キャリア等)との調整が不要で自由に構築できそうだけど?、と思ってしまいます。
実際、総務省のローカル5G導入ガイドライン案に係る意見募集において、sXGPをアンカーバンドにとの要望が数社から出ています。これが可能になれば、比較的安価なsXGPの設備をアンカーに採用して、構築の自由度が高く、ローカル5Gのコストを少しでも低減できるのではと思います。
ここまでの内容で、コアネットワークについては触れてきませんでしたが、上記が制度設計され、かつ、
- eNodeB for sXGP
- gNodeB
の両方に対応した option 3 のEPC(Evolved Packet Core:コアネットワーク)、ならびに端末がリリースされれば、ローカル5GをNSAで考えている人には朗報になると思います。(そうは言っても、いずれ、NSA→SAに移行と思いますが…)
[2020.06.29] 追記
総務省 情報通信審議会 情報通信技術分科会(第149回)配付資料・議事概要・議事録の資料149-1-1 陸上無線通信委員会報告 概要の「検討の背景等-sXGP方式の帯域拡張の必要性①、②-」において、ローカル5Gのアンカーとして、sXGPの活用の検討について触れられています。
最後に
ローカル5G/プライベートLTE(sXGP)について、気になっている点をつらつらと書いてみました。現時点で5Gの機材はキャリア仕様が大半で、とても高額なようです。ただ、ローカルな携帯網の視点からは、ローカル5G/プライベートLTE(sXGP)ともに、潜在的に多様な適用対象があるのではと思います。
近い将来、ローカル5Gを低価格で手軽に導入できるようになることを期待しています。