はじめに
限界処置効果(MTE: Marginal Treatment Effect)に関するメモ書きです。内容に誤りがありましたら、ご指摘いただけますと幸いです。
MTEとは
MTEとはMarginal Treatment Effectの略で、観察可能・観察不可能な要因で条件づけた介入効果を表します。数式で表現すると次のように定義されます。
$$
MTE(x, u_D) \stackrel{\mathrm{def}}{=} E[Y_1-Y_0|X=x, U_D=u_D] \tag{1}
$$
ここで、$Y_1$は介入がある場合のポテンシャルアウトカム、$Y_0$は介入がない場合のポテンシャルアウトカムを表します。また、$X$は観察可能な変数を、$U_D$は観測不可能な変数を表し、$U_D$はその値が小さい個体ほど介入を選ぶ確率(傾向スコア)が高い個体であることを表します。
介入群で嫌ならば介入を受けず、対照群で望めば介入を受けるという選択が許された両側非承諾型実験データを用いて推定することが可能で、効果の異質性(Heterogeneity)を検証することができます。
MTEは「介入を受けることと受けないこととが無差別である個体の介入効果」とも解釈されます。また、政策評価の文脈ではしばしば政策関連介入効果(PRTE: Policy Relevant Treatment Effects)などとも呼ばれます。
MTEのメリット
MTEを推定するメリットは以下の3つが挙げられます。
- 効果の異質性(Heterogeneity)を検証することができる
- 観察不可能な要因による介入効果の異質性を検証することができる
- さまざまな介入効果のパラメータをMTEの荷重和として求めることができる(e.g: ATE = $\int_{0}^{1}MTE(x, u_D)du_D$)
MTEの概要
観察されるアウトカムを$Y$、ある介入の有無を$D$(介入を受けると$D=1$、介入を受けないと$D=0$)とします。すると、アウトカムは次のように表すことができます。
$$
Y = DY_1 + (1-D)Y_0 \tag{2}
$$
ここで、$Y_1$は介入がある場合のポテンシャルアウトカム、$Y_0$は介入がない場合のポテンシャルアウトカムを表します。これらは下記の通りに決定されるとします。
$$
Y_i = \mu_i(X, U_j), \ j \in 0, 1 \tag{3}
$$
ただし、$\mu_j$は任意の関数であり、$X$は観察可能な変数、$U_j$は観察不可能な変数を表します。MTEの分析の枠組みでは、次のように個体が介入を受けるかどうかを決定します。
$$
D=I(D^* \geq 0), \ D^* = \mu_D(Z) - U_D \tag{4}
$$
ここで$I(\cdot)$は指示関数、$\mu_D$は任意の関数を表します。$Z$は$X$と$X$に含まれない除外変数を含む観察可能な変数を表します。$U_D$は観察不可能な連続変数であり、[0, 1]に一様分布するように基準化されたものです。ここで、$(U_1, U_D)$と$(U_0, U_D)$は$X$で条件づけたとき、$Z$と独立であることを仮定すると、MTEは(1)式のように定義されます。
(再掲)MTEの定義(1)式
$$
MTE(x, u_D) \stackrel{\mathrm{def}}{=} E[Y_1-Y_0|X=x, U_D=u_D] \tag{1}
$$
MTEの推定方法
MTEを推定する方法には局所操作変数法(LIV: Local Instrumental Variables)と呼ばれる方法があります。具体的には$E[Y|P(Z)=p|X=x]$を傾向スコア$P(Z)=p$で偏微分することでノンパラメトリックにMTEを推定することができます。
$$
\frac{\partial E[Y|P(Z)=p, X=x]}{\partial p} = \textrm{MTE}(x,p)
$$
ただし、この際、$P(Z)$が限られた値しかとらない、すなわち、操作変数がニ値変数であるようなケースではMTEを識別することができません。操作変数が離散的である場合でも、Brinch, Mogstad, and Wiswall(2017)で紹介されているアプローチを用いることで線形MTEを識別することが可能になります。
おわりに
最後まで読んでいただきありがとうございました。
zennにて「Python×データ分析」をメインテーマに記事を執筆しているので、ご一読いただけますと幸いです。
また、過去にLTや勉強会で発表した資料が下記リンクにてまとめてありますので、こちらもぜひご一読くださいませ。
参考文献
- 依田(2023): データサイエンスの経済学
- Brinch, Mogstad, and Wiswall(2017): Beyond LATE with a Discrete Instrument