はじめに
経済学のテキストで出てくる「構造形」と「誘導形」という用語のメモ書きです。
構造形と誘導形
- 構造形(構造型): 経済理論に基づいたモデル
- 誘導形(誘導型): 内生変数を外生変数の関数として表したもの(経済理論上の意味が明確ではない)
構造推定と誘導形推定
構造形を推定することを構造推定、誘導形を推定することを誘導形推定と呼び、(あくまでも一般的には)下記の分析を得意としています。
- 構造推定: 因果関係のメカニズムの定量的解明や政策の事前評価
- 誘導形推定: 政策の事後評価や探索的・記述的分析
もっと具体的には
- 構造推定
- 説明変数として明示的に考慮された要因のうち、検証に使用された標本外の効果予測
- 説明変数として明示的に考慮されていない仮想的要因の因果効果の検証
- 誘導形推定
- 理論予測の検証
- 説明変数として明示的に考慮された要因のうち、検証に使用された標本内の効果予測
を得意としています。
構造形と誘導形の例
構造形と誘導形という用語は、同時方程式を考える際によく出てきます。
同時方程式体系のモデルは、経済変数の関係を経済モデルに基づいて数式化した式(構造形)からなっているものの、その回帰式は内生変数と外生変数を含むためそのままOLSで推定できません。
そこで、構造形からなる連立方程式を変形し、
- 被説明変数: 内生変数
- 説明変数: 外生変数
とする連立方程式(誘導形)を導出します。そして、誘導形の回帰式をOLSにて推定します。
例えば、次のようなモデルを考えます
$$Y_i = \beta_0 + \beta_1 X_i + u_i \tag{1}$$
ここで、興味のあるパラメータは$\beta_1$であり、$Cov(X_i, u_i) \neq 0$($X_i$は内生変数)とします。このとき、回帰式(1)のパラメータの解釈は背後にある経済理論に依っているとします(構造形)
しかし、内生性が生じているため$\beta_1$を識別することはできません。
そこで、$Cov(Z_i, X_i) \neq 0$かつ$Cov(Z_i, u_i)=0$となる操作変数$Z_i$を利用することで
$$\hat{\beta^{IV}_1} = \frac{\sum_i (Z_i - \bar{Z})(Y_i - \bar{Y})}{\sum_i (Z_i - \bar{Z})(X_i - \bar{X})}$$ と推定することができます(導出は割愛)
上記の推定方法を「操作変数法(IV法)」と言います。
同様の推定量は別のアプローチでも得られます。まず
$$X_i = \pi_0 + \pi_1 Z_i + v_i \tag{2}$$
を考え、2段階の手順で推定するアプローチです。ここで、$v_i$は$E(v_i)=0$かつ$E(Z_i v_i)=0$を満たすとします。このとき、内生変数$X_i$を外生変数$Z_i$の関数として表しています(誘導形)
- (2)のモデルをOLSで推定し、$X_i$の予測値$\hat{X_i} = \hat{\pi_0} + \hat{\pi_1} Z_i$を求める
- (1)の$X_i$を$\hat{X_i}$で置き換えて、OLSで$\beta_1$を推定
という2段階の手順でパラメータを推定すると
$$\hat{\beta^{2SLS}_1} = \frac{\sum_i(\hat{X_i} - \bar{\hat{X}})(Y_i - \bar{Y})}{\sum_i (\hat{X_i} - \bar{\hat{X}})^2}$$という推定量が得られます(導出は割愛)
このように2段階の手順による推定方法を「2段階最小二乗法(2SLS法)」と言い、操作変数と内生変数の数が同じ場合には、$$\hat{\beta^{2SLS}_1}=
\hat{\beta^{IV}_1}$$となります。
終わりに
最後まで読んでいただきありがとうございました。
zennにて「Python×データ分析」をメインテーマに記事を執筆しているので、ご一読いただけますと幸いです。
また、過去にLTや勉強会で発表した資料が下記リンクにてまとめてありますので、こちらもぜひご一読くださいませ。
参考文献
- 小西(2020)「EBPMにおける構造推定と誘導形推定」 『環境経済・政策研究』 Vol.13, No.1, 1‒11
- 末石(2015)「計量経済学」日本評論社
- 西山他(2019)「計量経済学」有斐閣