#はじめに
千葉大学/Nospareの米倉です.今回は統計学の研究・実務を行う上で今でも僕が参照している教科書を10冊ほど紹介します.日本語の教科書のいいところは結構ニッチな部分をカバーしてたり,あとはやっぱり読むのが早いので,解説の文章が多くなりがちなトピックほど,僕は日本語の教科書を参照しています.有名な教科書の邦訳版ではなく,あくまで日本語で書かれた教科書をここでは取り上げます.
#10冊の紹介
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松浦 StanとRでベイズ統計モデリング
この教科書は主にベイズ統計学を実務で使うときに用いています.実務ですと自分で1からフルスクラッチすると大変なので,僕はR上でStanを動かして行っています.この教科書はそのStanを用いた分析を丁寧に分かりやすく解説していて,とても役に立っています. -
清水 統計学への確率論、その先へ―ゼロからの測度論的理解と漸近理論への架け橋
この教科書は測度論についてです.測度論の優れた教科書は多数存在しているのですが,統計学への応用を意識したものは和書・洋書含めて数少ないです.この教科書のいいところは,確率論や測度論の文脈ではこの定理の証明は重要だけれど,別に統計学なら内容さえ知ってればいいよ,って感じで取捨選択をプロの目からしていて,統計学者としてストレスなく測度論の知識の勉強・確認を行えるところです. -
須山 ベイズ深層学習 (機械学習プロフェッショナルシリーズ)
この教科書は,ベイズ統計学を用いた機械学習的なテクニックをある程度網羅的に解説しています.まったくの初学者がこの教科書で1から学ぶのは難しいのかなと思いますが,ある程度バックグラウンドがある人がこの分野のことをある程度のレベルで学ぶときや,論文を読む際の副読本みたいな感じで僕は用いています.特に変分ベイズについて詳しく,この文脈で読むことが僕は多いです. -
久保 データ解析のための統計モデリング入門――一般化線形モデル・階層ベイズモデル・MCMC
ベイズ統計学の実務で一番使うモデルは階層ベイズなのですが,この教科書はこのモデルについて焦点をあてて手際よく解説しています.階層モデルを用いた分析の勘所を抑えているので,実務で階層モデルを用いる際は適宜参照しています. -
井出・杉山 異常検知と変化検知
実務上でよく出くわす課題の一つが異常検知・変化点検知なのですが,正直提案されている手法が多すぎて,どういう時にどのような手法が提案されているのか・用いるべきなのかが押さえきれてません.この教科書はこの文脈で提案されている主だった手法の解説が異常・変化の種類ごとにまとまっているので,とても重宝しています.実用例があまりないのが少しネックですが,それを踏まえても手元に置いておきたい一冊です. -
竹村 新装改訂版 現代数理統計学
今更解説する必要もないくらいに,この分野の名著です.測度論に基づかない統計学の教科書では最高峰だと思いますが,解説も丁寧で今読み返しても味わい深いです.僕は特に講義で頻度論的統計学に触れる際に参照をしています. -
佐和 回帰分析(新装版)
タイトルにある通り,回帰分析についての教科書です.特に最小二乗推定量の幾何的性質や,どのような仮定のもとで何が成立するのかが詳しく書かれており,今でも重宝している教科書です.学生の時にこの教科書をよんで,非常に感銘を受けたのを今でも覚えています. -
沖本 ファイナンスデータの計量時系列分析
この教科書は,特に時系列分析でベクトル自己回帰モデルを用いる際に参照をしています.洋書でもっと詳しいものは存在しているのですが,この教科書は簡潔にトピックが説明されており,また理論だけではなく解釈の仕方にも触れられているのでバランスが良い1冊だと思います. -
三宅 入門微分積分
いわゆる微積分の教科書です.微積分にまつわる基本的な計算方法や,定理が証明付きでコンパクトにまとまっているので,この分野のちょっとした確認を例題つきでできるので今でも重宝しています. -
三宅 線形代数学―初歩からジョルダン標準形へ
同じ著者がかいた線形代数の教科書で,上と同じくこのトピックが手際よく証明付きで解説されています.線形代数は統計学・機械学習回りで良く出てくるのですが,僕はいつも細かい部分を忘れてしまうので,この教科書で必要な所を良く確認しています.
#おわりに
株式会社Nospareでは統計学の様々な分野を専門とする研究者が所属しております.統計アドバイザリーやビジネスデータの分析につきましては株式会社Nospare までお問い合わせください.