補足(2020/05/26に追記)
3月12日に投稿した記事です。その後、明らかになった情報・データを適宜追加しています。
大意は変わっていませんが、PCR検査拡大否定論者をDisるような論調になっていたので中立的になるように語尾等を書き改めています。
はじめに
今回の新型コロナウイルス(covid-19
)の感染拡大により、
亡くなられた方のご冥福をお祈りいたします。
重篤な方のご回復をお祈りいたします。
感染リスクがある中、対応にあたってくださっている医療関係者の方に心から感謝いたします。(私の姉も看護師です)
様々な対応に忙殺されている役所職員の方に感謝いたします。病んだり、ご自身で命を絶ったりしないよう環境が好転することをお祈りしています。
自粛により大きな経済的困難に直面している方々に十分な保障が行き渡ることをお祈りいたします。
知見を惜しみなく共有してくださっている専門家、ジャーナリストのみなさまに感謝します。
民間の痛みを共有して休業保障等の政策実現につなげている政治家のみなさまに感謝します。焼け太り(危機に乗じて権限や規制の強化を企てる)を許さないように引続きよろしくお願いいします。
概要
今回の危機ではさまざまな専門家や有識者がそれぞれの知見や解釈を惜しみなく発信してくださっています。
私も状況を評価して自身と家族の行動を決定するにあたって、とても参考にさせていただいてます。
とはいえ、物足りない部分もあります。それは主張に「プロジェクトマネジメントの知見」が欠けている点と感じられる点です
修羅場をくぐり抜けてきた胆力のあるプロジェクトマネージャが、
好ましい文化を育み、プロジェクトマネジメントの手法・ツールを導入して、適宜介入すれば、
「対策が先手先手」になり、
検査拡大賛否の議論に見受けられる「不毛なコンフリクトや罵り合い」が「建設的な対話/第三案」になり、
データの開示がすすみ変な憶測・陰謀論や過剰な自粛ムードが抑制されて、
専門家や民間の叡智や公共心がフル活用されるようになるだろうに・・・。とモヤモヤします。
思うに私達のICT業界の業務は大半が「プロジェクト」として遂行されます。
プロジェクト遂行の知見(ベストプラクティスやアンチパターン)がもっとも蓄積されているのはIT業界と建設業界だと思います。
疫学、感染症について素人であっても、現場で奮闘する方々が最高のパフォーマンスを発揮することに貢献できるのではないでしょうか?
そのような思いで、この投稿では以下のトピックについてプロジェクトマネジメント的な視点で考察してみました。
- 中央官庁の20年前の働き方とデスマーチの類似性
- PCR検査数、感染者数が少ないことの解釈
- PCR検索拡大否定派の主張に欠けていること
- 「ただしく恐れてください。」という呼びかけとリスク管理
用語「プロジェクト」の定義
最初に「プロジェクト」という用語について私のイメージを記載しておきます。
PMBOKの定義ではプロジェクトは以下のように定義されます。
「プロジェクトとは、独自のプロダクト、サービス、所産を創造するために実施する有期性のある業務」
「独自性」「有期性」が肝です。これを持たない業務はプロジェクトには該当しないことになります。
独自性
独自性は「未知」「不確実性」「不透明性」を伴います。
今回の危機は「未知な部分が大きいウイルスへの対応」ですので該当します。
有期性について
今回の危機には「納期」がないのでプロジェクトではない。という考え方でも間違いではないと思います。
ただマイルストーン(直近1~2週間、暖かくなるまで、新学期まで、オリンピック開催可否判定日まで)は設定できると思うので、プロジェクトマネジメントの知見を活かせると思います。
その他
プロジェクト特有ではありませんが、以下のトピックはかならず付随してきますので、知見を活かせると思います。
- 資源マネジメント・・・医師・看護師、病床、機材など
- ステークホルダーマネジメント・・・国民、政治家、専門家、メディアとのコミュニケ-ション
- リスクマネジメント・・・不確実性への対処方法
まとめると
以下のような点で「新型コロナウイルス」対応と「プロジェクト」には類似性があります。
私達はプロジェクト推進になれているので、その知見を「危機克服」活かせるのではないでしょうか?
- 多様な立場・関心を持つステークホルダーが存在する状況で
- 限られた資源(時間、人、資金、モノ、技術)を使って
- 独自性・新規性を持つ成果物を求められる。
あと「ソースコード」という一般には見えづらいものを扱っている点も「ウイルス対策」との類似性があるかもしれません。
中央官庁の20年前の働き方とデスマーチの類似性
背景
先日、以下の記事が掲載されました。
厚生労働省の職員「多忙でメンタルをやられた人もいる」 新型コロナ対策の現場で何が起きているか?(2020年3月3日/buzzfeed)
記事からは現場で疲弊している職員さまの状況がまざまざと浮かんできます。
様々なステークホルダー(政治家、国民、検査機関、メディア)の声に翻弄されて、
まさに「デスマーチ」。無事を祈らずにはいられません。
普段からの話ですが、職員を呼んで、ただ怒鳴りつけて帰すだけの議員もいます
とか、
ここまで酷いステークホルダーには出会ったことがありません。
私が感じた問題点
メールで全部やっている?
ただ、同情だけでよいかというと、以下の発言は気になりました。
『メールで全部やっています。』
え? と思いました。
なぜなら『コロナ対策本部があり、そこに常に100人程度が常駐している状態』とも記載されており
メールで処理できる規模ではないからです。
そこで、何度かその前後を読み返しましたが、
やはり「課題管理」を「メールで全部やっています」と解釈して間違いないと思います。
デスマーチプロジェクトの見抜き方は簡単です。
典型的なのが課題管理が破綻していることです。具体的には以下です。
「メールで全部やっています」は完全に該当します。
- 課題が一覧になっていない
- まとまっていても優先度(重要度、緊急度)が考慮されていない。
- 優先度欄はあるが全てが「優先・重要・緊急」になっている。
- 対処状況がわからない。などなど
その他、以下のような非効率性さも指摘されていました。
外でパソコンを使う時は、トークンというパスワードを入れる機械が必要で、それが1人1台支給されていません
スカイプが最近使えるようになりましたが、そういうので会議するのは失礼だという雰囲気が専門家の先生にも政治家の方でもある。
国会議員とのテレビ電話での打ち合わせも事前の手続きが面倒なのでほとんど使われていません。
対策として「人を増やす」という愚
現状を改善するために『とにかく人を増やして欲しい』という職員さんの要望(というより悲鳴。涙)もありました。
気持ちは痛いほどわかりますが、これもデスマーチあるあるです。
「人を増やす」と短期的には全体の生産性を落とします。
チームがスケールするようにローカルルール、手順、ツールが整備されていれば短期間で戦力化できますが、
非効率な現場で問題解決や進捗改善を狙って人を増やすのは「愚策」でしかありません。
理由は以下のとおりです。
- 戦力化するために追加のコストが必要
- 混乱した現場では手順やルールが文書化されていないので、先にいる人が口頭で説明します。
- 口頭の説明では認識違いや抜け漏れが頻発します
- コミュニケーションコストが増える(ノードが増えると経路が増えるため)
このため、さらにミスと遅延が増えて、負のスパイラルに陥ります。
- ミス・遅延について説明と対策を求められる時間が増える
- ミスを防ぐための過剰な手順が追加される
- さらに遅延する
- さらに批判が増えて、説明と対策を求められる
- 現場の人が自分を守るために保守的になり過剰なバッファを抱える
- 私が火消しに関わったプロジェクトでは、あるエンジニアが1時間くらいのタスクを3日と申告していて絶句しました。
- このエンジニアは善良な人でした。マネジメント層に絶望してこのような態度になっていたのです。
- 私が火消しに関わったプロジェクトでは、あるエンジニアが1時間くらいのタスクを3日と申告していて絶句しました。
- さらに遅延する
- 病んで脱落する人が続出
- プロジェクトマネージャ交代 ー> 息を吹き返すことも中止になることもある。
対策
プロジェクトマネジメントに長けたマネージャが参画して、その知見をフルに活用すれば、人を増やすまでもなく、劇的に状況は改善すると思います。
腕に覚えのある人や、官庁に知り合いがいる人はどんどん提言してはどうでしょうか?(識見だけでなく政治家とやりあえるだけの胆力がないと難しいとは思いますが)
以下は、厚労省にパブリックコメントを投稿できるフォームがあったので、提言した控えです。
件名「劇的に業務効率を改善して厚労省職員のみなさまの心身を守るためのご提案(プロジェクト管理手法/ツール導入)」
ご担当者様
以下の記事を拝見しました。新型肺炎への対応、誠にご苦労さまです。m(_ _)m
心を病んだり、自分で命を絶ったりする方が出ないことを心からお祈りしております。
厚生労働省の職員「多忙でメンタルをやられた人もいる」 新型コロナ対策の現場で何が起きているか?
https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20200303-00010001-bfj-soci
ただ、率直に申し上げて「無駄に頑張っておられる」という印象を拭えませんでした。
(タスク管理を『メールで全部やっています。』ということですが20年以上前のやり方です。)
私は過去20年で30以上の情報システムやWebサービスの開発プロジェクトに携わってきました。
記事中で描写されている状況はIT業界で「デスマーチ」として揶揄されるプロジェクトと全く同じ。
という印象を受けました。
以下のチェックリスト形式の質問をご確認ください。大半が「YES」ではないでしょうか?
・課題一覧が存在しないのでは?
・課題一覧があったとしてもExcelでやりとりしてるのでは?
・重複した課題が多数あるのでは?
・課題に、優先順位が付与されてないのでは?もしくは全て「重要・緊急」になってるのでは?
・課題に、期限が設定されてないのでは?
・課題に、担当者が設定されていないのでは?
・誰が何を担当しているか即座に把握できないのでは?
・課題の状況(未着手、進行中、対応済、完了など)が即座に把握できないのでは?
・ステークホルダー一覧がないのでは?
記事中で「とにかく人を増やして欲しい」という声がございましたが、残念ながら人を増やしても改善されません。
新しい人を戦力化するための導入コストやコミュニケーション経路の増加により遅延や混乱が増すばかりです。
遅延の増大やミスにより、さらに批判が高まり、そのたびに説明を求められて、
管理層の保身のための作業が増えて、本来の仕事にさける時間が減り、
さらに遅延がまし、ミスが増え、という負のスパイラルに陥ります。
終盤が近づくと保身に汲々とする管理層に絶望した現場からは声があがらなくなり、
各自が自分を守るために大きめのバッファ(例えば1時間で終わることを3日かかるといったり)を確保しようとします。
当然さらに遅延が増します。
最終盤では多くの人が病んで脱落して、、、というのがデスマーチです。
対策は簡単です。
IT業界ではごくごく普通のプロジェクトマネジメント手法とツールを導入するだけで劇的に状況が変わると確信しています。
私達の業界では声の大きな様々な立場のステークホルダーがいて、
不透明な状況とタイトな日程で数百の課題を管理しながら進行するプロジェクトはさして珍しくありません。
著名なWebサービスを提供している会社に相談してください。
たとえばメルカリ、クックパッド、Freee、LINE、DeNA、Gree、...などです。
(くれぐれもNTTデータ、富士通、NECさんといった重厚長大なやり方に慣れた
ベンダーさんに相談しないようご注意ください。(仕事は確実ですが「遅い」ので))
プロジェクト管理の手法・ツールの相談とあわせて
「国難を突破するためにプロジェクト管理に長けた胆力のあるプロジェクトマネージャを出して欲しい」
と打診してください。
クラウドベンダ(例えばAWS)からITインフラを提供してもらってください。
10分あれば強力でセキュアなサーバを立ち上げられます。
30分後にはプロジェクト管理ツールが利用できます。
セキュアなシンクライアントを何百台でも即座に導入できます。
押し付けがましくかつ上目線の内容になっているかもしれません。
不快に思われたら申し訳ありません。
批判ではなく、これが厚労省の職員のみなさまを守り、
ひいては国難を突破する方法の一つだと信じて記載させていただきました。
何かしら参考になれば幸いです。
最後になりましたが職員のみなさまの奮闘に心から感謝いたします。
くれぐれもご自愛ください。
PCR検査数、感染者数が少ないことの解釈
Twitterやヤフコメ(情報ソースが貧弱ですいません。汗)では、海外(韓国、イタリア)と比較して、感染者数・死者数が少ないことを「称賛」する声が少なくありません。また、称賛する人達の多くが分母となる検査数を考慮していない(もしくは意図的に無視)です。
私達が試験の初期段階で「エラー件数が0でした!問題ありません!安心してください」という報告を受けたらどのように反応するでしょうか?
「素晴らしい!!」「さすが選りすぐりのチーム!!」ではないですよね。
- は?そんなわけないだろ。オレを騙そう(ためそう)としている?
- 試験の方法が間違っているのでは?
- そもそも試験していないのでは?
という反応が当たり前だと思います。
感染者数は品質管理の初歩の初歩である信頼度成長曲線のようになるはずです。
私達は、こうなっていてはじめて安心できるのですが、こういった知見がない方は「韓国=失敗、日本=成功」と主張に疑問を持たないようです。
【引用元】信頼度成長曲線を使って品質管理をする! | ITの学び
参考情報/2020年6月6日追記ここから
ジョン・ホプキンス大学の新型コロナウイルスリソース・センターの2020年6月6日09:40(日本時間)のグラフ
2020年6月6日追記ここまで
日本と世界の比較
This version includes South Korea. They were on the same growth curve til 7 days ago - ahead of Italy. The measures they adopted then (subject to the lead time in measurements) seem effective - still exponential growth, but similar doubling period to Japan now. pic.twitter.com/CKvgABlQXJ
— Mark Handley (@MarkJHandley) March 9, 2020
感染者数・死者数が少ない理由として「日本の医療は優秀」「個人の衛生意識が違う」という面もあるのかもしれませんし、
私もそう願いたいですが、実際には「暗数化」が進行している可能性が無視できないと思います。
私達は、「データに基づいた分析・意思決定」とそのために必要となる手法や手順・ツール(例.データマート、クレンジング、各種BI)の提言で貢献できるのではないでしょうか?
(もちろん「やってみないとわからないこと」は、試行錯誤しながら正解を模索することになりますが、その場合でも入手できる限りのデータや過去の類例を使って検討することは「悪手をつぶす」のに有効です。)
補足/暗数化について
新型コロナウイルスとEBPM(証拠に基づく政策作り)
https://www.rieti.go.jp/jp/special/special_report/111.html?id=nl
暗数化は「実際には感染しているが把握されない」ことです。
上記レポートでは弊害として、以下の3つが指摘されています。
- 重症化リスクが軽減されるであろう人たちの命を救えなくなる
- 感染者と未感染者の接触の確率が高まり、感染者を増やしてしまう
- 実態が正確に把握できず、将来同じような感染が起こった時への有効な対策の指針となるデータが得られない
私はさらに以下の弊害も付け加えたいと思います。
- 疑心暗鬼や憶測を生む。過剰な自粛ムードや陰謀論につながる。
- 不信感を持つ人と大本営発表を盲信する人との間で分断(罵り合い)が生まれてしまう
- 誤った認識と対策につながる。既に政権を支持する側の政権擁護の材料として使われている印象です。
PCR検査拡大は「できない」「してはいけない」という主張に対して質問することで第三案を導く方法
PCR検査の拡大を望む声とそれを否定する人の議論(もはや罵り合い?)が発生しています。
(私はデータがないと安心できないので「医療崩壊させずに検査拡大を望む」派です。なるべく第三者的に記載しようとつとめましたが、後述する内容にはそのようなバイアスがかかっていると思うのでご留意ください。)
「できない」と主張する方々があげる理由は以下のような感じです。(感情論や陰謀論は無視してます)
- 医療資源は有限、拡大したら医療崩壊する
- 検体採取は簡単ではない/インフル検査とは違う
- 検体採取者に感染リスクがある
- 病院にいったら感染者を増やすだけ(待合室で感染)
- 検査費が無駄
- PCR検査の精度は低い(偽陰性、偽陽性)
- 本当に陽性でも治療方法がない(ので無駄)
一つ一つは合理的なように見えますが本当にそうでしょうか?
私は違和感を感じます。
専門家の「できない」は鵜呑みにしてはいけない
私自身が陥りやすいので自戒していることですが、
その分野に精通した「専門家」であればあるほど、視野狭窄というか常識にしばられやすくなります。
なぜでしょうか?
それは、精通していると無意識のうちに「方法」や利用できる資源(例えば人、モノ、カネ)といった平時の制約が頭に浮かんで、その結果「できない」と言ってしまうのです。(平時はこれで間違いないのですが、非常時には間違った結論となることがあります。なぜなら非常時では平時の制約が緩和されるからです。たとえば「資金」はその代表格です。)
例をあげます。
「病院にいったら感染者を増やすだけ(なのでPCR検査拡大に反対)」という主張に含まれる暗黙の前提とは?
この主張には無意識のうちに「検体採取には病院にいく必要がある」という制約を設けています。
この場合、
『韓国ではドライブスルー方式を採用しているみたいなんですけど、あれってどうなんですか?』
と聞いてみます。
(【閑話休題】こういった質問をした際に「え?それありですか。ちょっと再検討します」といった前向きな反応をする人は、自分のプライドよりも問題解決を重視している人なので信用できます。中には質問を「批判された」と感じて精髄反射的に「ケチをつける」人がいます。こういう人は問題解決より保身(=自己の過去の主張の正しさを維持したい)が目的になっているので要注意です。))
「病床が不足する(からできない)」という主張であれば、『イタリアでは、発症者を多く受け入れている病院を新型コロナウイルス専用病院にするというアイデアが検討されているようですが、それってありでしょうか?』と聞いてみます。
まだまだあります。日経新聞が以下の記事を配信しました。
私が気になったのは以下の記述です。
感染者が急増した理由に挙がるのが医療現場の混乱だ。
イタリアは、これまでに新型コロナの検査を5万4千件以上してきた。
感染者を確定させる狙いだったが、軽症の患者も徹底的に検査したため、病床が満杯に。
医師や看護師の不足に拍車がかかり、
感染が一気に広がった可能性がある。
「軽症者も検査 → 病床満杯 → 医療者不足 → 感染拡大」という論理展開です。
前半はいいのですが、最後の「医療者不足 → 感染拡大」という論理が飛躍しています。
「医療者の不足により重症者の治療が滞って死者が増えてしまう」という主張であればわかりますが、感染拡大と因果関係がなりたっていないと思います。
記者さんは忙しいので、あらかじめ記載したいことを決めてから取材する傾向があります。PCR検査否定派の記者さんが結論ありきで書いたのかもしれませんね。
こういう明らかな間違いの場合でも「因果関係が成り立ってないですよ」と指摘すると相手が「攻撃された」と身構えてしまうので、質問します。例えば以下のような感じでしょうか。
「たぶん自明なのかもしれませんが、私には、医療者不足と感染拡大の間にある因果関係がわからないので、教えてくれませんか?」
上述してきたように、質問を通してよりよりアイデア(第三案)を導いていくことができます。
こういった場面はプロジェクト推進中にはよくあることですので、私達はその知見を活かして貢献できると思います。
孫正義さんの提案を批判する人の主張を考えてみる
昨日(2020年3月12日)、孫正義さんが「PCR検査100万件を無償提供する」とツイートして大きな話題になりました。
新型コロナウイルスに不安のある方々に、簡易PCR検査の機会を無償で提供したい。まずは100万人分。申込方法等、これから準備。#コロナ検査有志
— 孫正義 (@masason) March 11, 2020
孫さんは「常識にしばられない」「(中国、韓国、台湾はもちろん)世界のテクノロジーエリートから知見を得られる」「日本の後進性を理解している」「データに基づく議論・意思決定を重視している」稀有な経営者だと思います。(「データ重視」の根拠 => 筆者は広告代理店が大手企業に提供しているBIツールの開発・保守に関わっていましたが「ソフトバンクが一番データを重視している。孫さんがうるさいから。回帰分析を当たり前にやっている」とおっしゃってました。)
そんな孫さんですから、日本でデータが積み上がってこないことに危機感を覚えると同時に肯定派・否定派の議論に嫌気がさしたのかもしれません。
残念ながら批判が高まって撤回される?雰囲気が出ているようですが、批判の中には以下のような主張があり一定の支持を得ているのが気になりました。
PCR検査の感度は99.9%。100万人やると1000人の偽陽性が出る。
その人達を入院させたら医療崩壊して、
本当に治療な必要な人が治療を受けられなくなる
この主張には「見落とし掘り下げたい主張」と「(克服可能な)暗黙の前提」が含まれています。
訂正前)見通しは「複数回検査すれば偽陽性・偽陰性になる確率は限りなくゼロに近づく」ということです。
03/15訂正)掘り下げたい主張は「複数回検査すれば偽陽性・偽陰性が出続ける確率は限りなくゼロに近づくのでは?」ということです。
99.9% の可用性を持つサーバを2台並列で実行させれば、可用性は99.99%になるのと似ています。
AWSのS3が99.999999999%(トリプルイレブン)の可用性を実現しているのもこの論理です。(6つのリージョンに複製)
これは、私達の業界にとっては初歩の初歩の知識(基本情報処理試験の頻出問題レベル)だと思います。
この考え方をPCR検査に適用してみると、検査を3回すれば、99.999% となるので、100万人に対して偽陽性になる人は 10人におさまります。(偽陽性が出る人は何度も偽陽性になる確率が非常に高いのであれば別ですが)
「IT業界ではこうやって精度を高めてます。複数回検査すれば偽陽性を減らせるというアイデアはどうでしょうか?」
と質問すれば建設的な議論のきっかけにできると思います。
「暗黙の前提」は「指定感染症だから軽症者も隔離入院させなければいけない
」というものです。
この際、指定を外すか特例をつくって「軽症者は自宅隔離ホテル借り上げて隔離」でいいのではないでしょうか?
(当然、厚労省ではこのような検討が始まっていると信じたいです)
以下のツイートは03/19に追加
来週から、オンライン診療を初診でも解禁して欲しい。
— くすみん(内科医・久住英二)@駅ナカクリニック (@KusumiEiji) March 19, 2020
同時に、新型コロナウイルス感染症を感染症法第2類から第5類にして、入院必須を外す。
ドライブスルー検査も進めて。 https://t.co/niM9fFIwQQ
あと否定派の方がこのんで使う表現に「医療資源は有限」がありますが、多くの人は「なんとなく」使っているだけのようです。
Twitterで「ボトルネックになる医療資源とは具体的に何でしょうか?医療者?病床?資金?(人口呼吸器等の)機材?(検体の)物流?でしょうか?」
と質問させていただきましたが、人によって答えがまちまちで、コンセンサスが確立されていないようです。
(人的資源以外は、資金投入や規制緩和で克服できる可能性を検討すべきだと思います。)
PCR検査拡大否定材料として以下を引用している人も見受けられました。
ここでボトルネックになっている資源は「人工呼吸器」で、PCR検査が多いことと因果関係はないのですが、もはや「危機を克服するアイデアを模索するのでなく自説強化~ある種の保身~」が目的化しているようです。
なおTwitterでのやりとりでは、丁寧に解説してくださる人もいらっしゃる一方で、質問を批判と受け取って怒り出す人(=表現が非常にきつい)もいらして、これも「あるある」だなぁと思いました。汗
これくらいにしておきます。(否定派の発言ばかりをDisってるような感じになってますが、肯定派の主張にも首をかしげるものがあるとは思っています。)
私達が貢献できそうな事
上述したようなシチュエーション(最初はできないと専門家が主張していても、対話を通じて、制約を外すことで、前向きなアイデアが出てくる)は、システム開発プロジェクト遂行中にはよくあります。
こういった知見を活かせば、お互いに相手を罵るだけの非生産的な議論に陥ったり、
曖昧もしくは非論理的な「バズワード」で思考停止(なんとなくわかったつもり)に陥るのを防いで、
前向きな第三案(PCR検査でいえば「医療崩壊させずに検査数を増やす」)に昇華させることに貢献できるのではないでしょうか?
※文中で引用した韓国やイタリアの対処例は、第三案を得るためのマネジメントスキルが役立つのでは?という具体例として使わせて頂きました。最適かどうかはわかりません。
「正しく恐れてください。」という呼びかけとリスク管理
プロジェクトマネジメントでは「リスクマネジメント」が必須です。(ここでは負のリスクに限定して考察します)
リスクへの対処を考えるときは、以下の観点を個別に検討した上で総合的に判断します。
- 顕在化した時のインパクトの大きさ
- 顕在化する可能性
- 顕在化した場合の対応方法(回避、軽減、許容)の有無、コストの多寡
たとえば極端な例として「隕石が落ちてきて死ぬ」というようなリスクについて検討してみます。
インパクトは大きいですが、可能性は極めて小さく、対応方法も存在しないので「許容(=対処なし)」するしかありません。
「外出して事故で死ぬ」であれば、以下のような感じでしょうか。
- インパクト=大
- 可能性=小
- 対処方法=軽減。完全に避けると他の損失が大きい
=>「交差点では道路から離れて待つ。信号変わってもすぐに歩き出さない。という程度の対処にとどめて、それ以上は許容=>でかける」
ここでコロナウイルスに感染(する、させる)リスクを考えています。
- インパクト=★やや不透明★ => 小~大 (年齢や既往症により異なる。2回目の重症化説)
- 可能性=★不透明★ 今だに無症状で感染する・させる可能性の程度について結論がでていない
- 対処方法=ある。ひきこもりコストの多寡は個人差・家庭差あり
ポイントは、不透明なことが多いです。
この場合、どのように対処すべきでしょうか?
- 状況が見えてくるまで様子を見る・・・現状維持 or コストの低い対処方法を実施
- リスクを過剰に見積もる・・・対処方法があるなら積極的に対処
インパクトが小さいなら、様子見で、インパクトが大きいなら、積極的に対処 が正解でしょうか。
我が家の場合は、以下の評価・検討を行い、
1月末から人混みを避けて、2月中旬からは子供に休校してもらい自主隔離状態にはいりました。その後、なかなかデータが増えずに困っていたのですが韓国がデータを開示してくれたのでインパクト評価を下げて、自主隔離体制を緩和しました。
- インパクト=大 50歳で呼吸器系にやや不安あり。子供も本当に安全なのか中国だけのデータでは判断できない
- 可能性 = 不透明
- 軽減方法 = 夫婦とも在宅勤務。通販便利な地域。引きこもりの経済的損失なし。
※リスクを過剰に見積もりのは過去の体験も影響していると思います。私は、東日本大震災直後に気象庁が報じた「津波の高さ予想6m」という楽観的な予報がどれだけ多くの方の判断を誤らせたか? という思いが今もある一人で、「過剰なくらいがちょうど良い」かなと。
リスクコミュニケーション
今回の危機では「正しく恐れてください。」というメッセージをよく聞きますが、残念ながら機能していません。響いてきません。反発しか覚えません。
最大の原因は「政府が一次情報の収集・開示・共有」に消極的だからです。
前述した、試験結果として「エラー件数は0でした!問題ありません!安心してください」という報告を受けたときと同じです。
そんな主張を真に受ける人はいるのでしょうか?
むしろ「何か隠している ー> 危険」と考えるほうが正しい(≒安全、より確実の意味)反応だと思います。
実際、今回は以下のような楽観的な主張、正常バイアスが覆りました。
- ヒトヒト感染はない(認められていない)
- 新型インフルと同じで暖かくなれば収束する ※期待してます!
- クルーズ船は適切に対処されている
厚労省が
- 我々は粛々と業務を遂行して、そのデータを収集・開示することに徹する。
- 解釈や提言は民間の有識者・専門家に任せる。
という考え方で業務をしていれば、職員の負担も減るでしょうし、変な憶測も産まず、批判されることもなかったでしょう。
今回のような国家的な危機であれば、民間の有識者がその知見やスキルを対価なしで社会に還元してくれます。
(例えば、CSVを公開すれば、エンジニア有志があっという間にビジュアル化してくれるでしょう。)
提言
いわゆる「モダンな企業」では情報開示・共有は文化として根付いています。
(私が取引している会社は、その会社とクライアントとの契約書~金額とかまで開示してくれたりします。いや、そこまで開示してくれなくても。と思いますが、信頼してくれてる。裏切れない。頑張ろう
と思います。)
ICT関係者は、リスクマネジメントと情報開示・共有の手法、ツール、文化について、官庁とは20年、非IT系企業と比較してもかなりすすんでいるようです。
積極的に提言していくとよいのではないでしょうか?
さいごに
今回の危機では日本という国の後進性や脆弱性が顕著に可視化されたと思います。
政治、経済、教育、医療、メディア、ICTの利活用、...
以下のツイートを見て、笑ったあとに憂鬱になりました。
台湾のIT大臣:IQ180の天才でPerl6開発者
— ラッコ改メばかちん社長🦦経営者の子育てと小ネタの人 (@RaccoClub) March 9, 2020
日本のIT大臣:スマホでSNS投稿ができる
🙄 pic.twitter.com/X84ou9PYDs
この危機が終息した後は「かわらなきゃ」という機運が生まれると思います。
少子高齢化、インフラ老朽化、生産性の低迷等で劣化・疲弊が加速する一方の日本が、活力を取り戻せるラストチャンスだと思います。
その時にICTの利活用や私達が普段慣れ親しんでいる「プロジェクト(マネジメント)」の知見は役立つと思います。
この仕事で長年食べさせてもらっている一人として何かしら貢献していければと思います。
ポエム。失礼いたしました。m(_ _)m
参考
関連サイト
本投稿内で利用した記事の一覧です。
- 厚生労働省の職員「多忙でメンタルをやられた人もいる」 新型コロナ対策の現場で何が起きているか?(BuzzFeed Japan) - Yahoo!ニュース
- RIETI - 新型コロナウイルスとEBPM(証拠に基づく政策作り)
- 「国民の皆様の声」募集 送信フォーム|厚生労働省
- 韓国にドライブスルー方式の検査施設、結果は3日以内に通知 新型肺炎
-
母の付き添いで実際コロナPCR検査を見てたけど
- 日本で検体採取するために必要な準備(防護服やマスク)と後処理の手順書。写真で付与されていてわかりやすい
-
新型コロナが襲う医療格差 日本と並ぶ長寿国イタリアの感染者5883人、死者233人に(木村正人)
病院を新型コロナウイルスの発症者を治療する専門病院にすることを考えています。
- イタリア、医療現場混乱で感染急増か 全土で移動制限 (写真=AP) :日本経済新聞
- 新型肺炎でイタリア医療崩壊「60代以上に人工呼吸器使わず」
-
都内の最新感染動向 | 東京都 新型コロナウイルス感染症対策サイト
- 元データが開示(CSVがダウンロード可能)されて、サイトもオープンソースになっています。
- 東京都公式の新型コロナ対策サイトはオープンソースで作られた!
- 東京都 新型コロナウイルス対策サイトへの貢献方法を解説 - Qiita
筆者の属性
私は以下のような属性を持っています。前述した解釈や主張にはこの属性からくるバイアスがかかっているのでご留意いただけるようお願いいたします。
- フリーランスのプログラマ兼11期目の法人代表
- 業界歴20年。自営歴13年。在宅メインで仕事
- 参画したプロジェクト数30以上。
- 様々な立場(末端の1メンバ、リーダ、プロジェクトマネージャ、オーナー)を経験
- 小規模から大規模(1000人月以上)まで
- 炎上プロジェクトの火消し貢献複数回あり
- その他
- 今回の危機で経済的損失はない
- 比較的、おちついて思考できていると思います。
- 自営で小売や飲食やってる友人がいるので痛みは共有しているつもりです
- ワイドショー視聴時間はゼロ
- 「ワイドショーが危機感を煽っている・誤報流している」という批判があるようですが、それが事実かどうかに関わらず影響されていません
- ただしツイートやYahooニュースで目に飛び込んでくる程度は把握
- 都市部在住。二児の父。2月中旬から自主休校させていたので一斉休校には困ってないが、飽きは来てる
- たぶん感染してない。知人に感染者いない。姉は看護師(マスクより手袋がないと嘆いてます)
- 比較的、高齢(50歳)で呼吸器系に自信がない(小児喘息であった)ので不安はある
- 韓国のPCR検査、情報開示の姿勢・国民や海外メディアとのコミュニケーション、IT活用はお手本だと考えています。
- 中国で4年間仕事していました。親中ですが、中共は恐怖です。
- 政治傾向
- アベガー、パヨク、バカリベラル、お花畑 と罵られる側だと思います。笑
- 支持政党なし。投票は棄権しない。
- 今回の危機で経済的損失はない
予測/孫正義さんがPCR検査100万件をするかしないか。
一部で「撤回?」というニュアンスで報道された孫正義さんのツイートですが、これって、「ネガティブな声をいったんうけとめてガス抜き」「賛成者に声をあげさせる」ポーズですよね。孫さんは「医療崩壊させずにPCR検査拡大」という成案を得て、既に決意していると思います(というかそう願いたい)。
検査したくても検査してもらえない人が多数いると聞いて発案したけど、評判悪いから、やめようかなぁ。。。
— 孫正義 (@masason) March 11, 2020
====6月10日追記ここから====
前述したPCR検査100万件のわたしの予測(=孫さんはやる)は見事に外れました。が、孫さんはやはりやってくれました。
意思決定でデータを重視する孫さんの面目躍如です。GJ!
これがベースラインとなって、今後の感染の拡大・収束状況を客観的に判断できます。
より適切な準備・対策が実施できるし、効果の評価も可能となります。(いわゆるPDCAが回せるようになります)
何よりも対策の納得感がまるで違ってきます。
納得感というのは対策が適切かどうかと並んで非常に重要な観点です。
科学的指標と納得感がないと対策への賛否が割れて社会の分断が深まってしまいますので。
====追記ここまで====【SBGが4万人検査 陽性率0.43%】https://t.co/8COB5K6tCl
— Yahoo!ニュース (@YahooNewsTopics) June 9, 2020
ソフトバンクグループは9日、同社の従業員や医療機関の関係者を中心とする4万人以上を対象に新型コロナウイルスの抗体検査を実施した結果、陽性率が0.43%だったとの速報値を発表した。
--- 9月24日追加ここから ---
孫さん、さすがです。
====追記ここまで====唾液PCR検査をいつでも誰でも何度でも提供します。
— 孫正義 (@masason) September 24, 2020
2000円+送料のみで。
本日東京PCR検査センター開設説明会 https://t.co/PrWp1HSQRk プレスリリースは→ https://t.co/HLnZQNDlUm
PCR検査の感度(真陽性率)と特異度(真陰性率)について
- 新型コロナウイルス感染症との闘い ー 知っておくべき検査の能力と限界 | キヤノングローバル戦略研究所(CIGS)
- 続・新型コロナウイルス感染症との闘い ー 感染拡大とPCR検査の保険適用 | キヤノングローバル戦略研究所(CIGS)
検査全般/一般論としての検査精度
残念ながら、感度100%、特異度100%の完全な検査が存在しない。
通常の臨床検査では感度60~90%、特異度80~95%程度である。
PCR検査の精度
PCR検査は、検体から得られた遺伝子を増幅し、遺伝子レベルでウイルスを特定する方法である。
そのため、一般には、感度も特異度もかなり100%に近い値になるのではないかと考えられる。
しかし、新型ウイルスの遺伝子の安定性や検査技術の精度管理に不確実性があるため、
ここではリスク分析上の通例としてやや低めに見積もり、感度95%、特異度99.9%と仮定してみよう。
偽陽性について
表2から明らかなように、事前確率が高いほど偽陽性者数を減らすことができる。
従って、強く感染を疑う状況になって初めて、PCR検査を行うほうがよいとなるが、それでも1000人の偽陽性者は出てしまう。
これだけの検査エラーを生じるにもかかわらず、より良い治療につながらない検査を、
保険適用して大規模集団で実施することが果たして妥当であろうか。
この点はもっと論議すべきであろう。
もちろん、検査の感度・特異度の如何によっては試算の絶対数は異なってくるが、
エラーの大きさのスケール感は表2から伝わるはずだ。
国民に広がる感染への不安を少しでも減らすことができるように、
検査希望の高まる声に対応するといった社会的・倫理的要因に大きな配慮がなされたようだ
PCR検査結果=陽性 が意味すること
国立感染症研究所 SARS:診断検査法より抜粋(SARS(SARS-Cov)の場合です。新型コロナウイルスはSARS-Cov2です。)
陽性結果の意味するところは、SARS-CoVの遺伝子断片(RNA)が検体中に存在するということである。
この結果は、生きたウイルスがいるということではないし、
他の人に感染を生じるのに十分な量いるというわけでもない。