⚠ 記事の内容は学生個人の見解であり、所属する学科組織を代表するものではありません。
はじめに
どうもこんにちは。某です。
アドベントカレンダー18日目となりました!毎日面白い記事が投稿されていて楽しいですね。
最近サークルに新しく経済学部の方が加わってくれました。物理は経済学などいくつかの文系分野にも応用できそうで面白いので、ぜひ文系ユーザーも増えていってほしいなと思います。
今回は「血液と数値流体力学」について書いてみました。
あまり物理の人間にはなじみのない医学について色々見ていけたらと思います。
1. 数値流体力学(CFD)とは
まず、数値流体力学(CFD)とは、流体の運動を記述するナビエ-ストークス方程式をコンピュータで解くことで現象をシミュレーションする手法です。これによって、空気の動きや恒星のガスの流れ、さらには微生物の体内での挙動など、さまざまな現象をシミュレーションし、可視化することが可能になります。
\rho \left( \frac{\partial \mathbf{u}}{\partial t} + \mathbf{u} \cdot \nabla \mathbf{u} \right) = -\nabla p + \mu \nabla^2 \mathbf{u} + \mathbf{f}
ナビエ‐ストークス方程式は一般的な解析解が存在しないことから、理論的な計算では解くことができず、現実の問題に対しては数値的に解くことで近似解を求める必要があります。そこで、コンピュータの計算力を利用して流体の領域を細かなメッシュに分割して近似解を求める数値流体力学が用いられます。
流体解析ソフト「Open FOAM」を用いた二次元流の解析例
2. 血液を解析する
近年、血液の流れを解析し、医学に役立てようという動きが活発になってきています。日本人の死因の三割は血管疾患(心筋梗塞、脳卒中など)ですが、これらの疾患の原因として血管の壁面せん断応力などが関係しています。また、心臓や大動脈などでは乱流が存在し、手術時などでは考慮する必要があります。このように、血流を流体力学の視点から解析することは重要といえそうです。
壁面せん断応力(WSS)とは?
壁面せん断応力は、血液が血管壁に及ぼす摩擦力のことです。この応力が低すぎると、血管の内皮細胞に異常が起こりやすく、動脈硬化や血栓形成の原因になると言われています。また、高すぎると、血管壁が損傷するリスクにつながったりします。
さらに、姿勢や運動の変化によって血流がどう変わるかを数値流体力学(CFD)でシミュレーションすれば、特異な環境に置かれた人が血管疾患を発症するリスクを予想できたりもします。
3. 血流解析の具体的手法
1. 血管形状のデータ取得(CT・MRI)
まず、CTやMRIを用いて患者の血管形状をスキャンし、3Dモデルとしてデータ化します。
2. メッシュ生成
血管形状データを元に、計算用の「メッシュ」(格子)を作成します。重要な部分は細かく、他は荒く設定することで効率よく計算します。
3. 数値シミュレーション
実際にシミュレーションを行い、結果を評価します。
4. 血流解析の課題
実際の血液の流れをシミュレーションするというのは簡単なことではなく、以下のような課題が存在しています。
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拍動流の再現: 血液は心臓の拍動に合わせて脈動的に流れるため、時間とともに流速や圧力が変化する「非定常流」として扱う必要があります。しかも拍動の挙動は一定ではないので色々と面倒です。
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血管壁の弾性: 血管は柔らかく、血圧に応じて変形する「弾性体」です。流体力学と構造力学を組み合わせた**流体-構造連成解析(FSI)**が必要です。
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赤血球や血栓の挙動: 赤血球や血栓などが血液中に含まれることから、血液は正しくは混相流ということになります。そのため、血栓の挙動や毛細血管の解析などは難易度がかなり高くなります。特に、赤血球に至っては血管を流れる際に柔軟に変形し、赤血球同士でも相互作用を起こすため、解析を一層難しいものとしています。
5. 実際の研究:動脈瘤のシミュレーション
実際の研究として、東京大学の大島先生が中心となって行われている脳動脈瘤の血流解析に関する研究は血流解析を用いた臨床応用への新たなアプローチとして注目されている。
背景
脳動脈瘤は、脳血管の分岐部などに生じる異常な膨らみであり、破裂するとくも膜下出血を引き起こします。動脈瘤の破裂リスクは大きさや位置によって異なり、その形成や破裂には 壁面せん断応力(WSS) を含む血行力学的要因が深く関与しています。
脳動脈瘤の流体構造連成解析
(東京大学生産技術研究所大島研究室公式サイトより引用)
内容
この研究では患者個別の血管形状にシミュレーションを行うことで、患者個人に対して、WSSの分布や圧力の局所的な集中を可視化し、動脈瘤の破裂リスクが高い部位を予測することが可能となりました。
臨床への応用
このシミュレーション結果は、動脈瘤の破裂リスク評価や手術計画の立案に活用されており、患者個別の最適な治療方針の提案を目指しています。さらに、手術後の血行動態予測にも応用が期待されており、臨床診断支援システムとしての実現が視野に入っています。
6. まとめ
血流解析面白そうだよね!
おわり!
参考文献
- 「血流解析のすすめ」CARDIO FLOW DESIGN
- 「脳動脈瘤の血行力学」大島まり,石上雄太,早川基治
- 「粒子法を用いた赤血球の変形シミュレーション」田中正幸,越塚誠一