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連続量量子計算におけるQAOA論文の紹介

Last updated at Posted at 2020-03-07

はじめに

今回は下記の論文で提案されている手法を通して、光連続量量子計算に登場する計算を学んでいこうと想います。
最近ハネウェルの話ばかりですしあえて。
A Quantum Approximate Optimization Algorithm for continuous problems
http://arxiv.org/abs/1902.00409

例によってXanaduが提案した連続量量子計算用NISQアルゴリズムです。
タイトルはQAOAですが式には勾配が現れます。
QAOAに近いのは変分パラメータを持つ量子ゲートを繰り返しかけることで最適解を探す点ですね。
ただ、そもそも"Quantum Approximate Optimization Algorithm"という言葉の守備範囲が広すぎてガバガバだと思います。

論文の構成では理論の紹介・説明とシミュレータによる多項式最小化のデモンストレーションを行っています。本記事では理論の中で一番重要な式のみピックアップして、計算過程を少し詳しくやってみたいと思います。

余談
Xanadu、最近Tシャツを売り始めたようです。日本のMDR社に続いてのTシャツビジネス参入ですね。意外と格好良くて危うく欲しくなります。
Qunasysはロゴ入りのパーカー?着てるのをよく見る気がしますが売ってるんでしょうか。

本題

※直交位相座標$\hat{\boldsymbol{x}}, \hat{\boldsymbol{p}}$についての基本は過去の記事で紹介しているので前提知識として扱わせて頂きます。

まず位置演算子$\hat{\boldsymbol{x}}$を用意します。

次にQAOAにおけるmixerにあたるハミルトニアン$\hat{H}_M = \frac{1}{2}\sum^{N}_{j=1}\hat{p}_{j}^{2} = \frac{1}{2}\boldsymbol{\hat{p}}^{2}$
を用意します。添字jはj番目のqumodeを表し、N qumodeでN変数の最適化が可能です。

先に用意した位置演算子$\hat{x}$をミキサーハミルトニアンで時間発展させます。

$e^{i\gamma \boldsymbol{\hat{p}}^{2}/2}\hat{\boldsymbol{x}}e^{-i\gamma \boldsymbol{\hat{p}}^{2}/2} = \boldsymbol{x} + \gamma \hat{\boldsymbol{p}}\tag{1}$

次にコストハミルトニアン$\hat{H}_C = f(\hat{\boldsymbol{x}})$を用意します。

関数 $f$は最小値を見つけたい関数です。

先程の状態にコストハミルトニアンを作用させます。

$e^{i\eta f(\boldsymbol{\hat{x}})}(\hat{\boldsymbol{x}} + \gamma \hat{\boldsymbol{p}})e^{-i\eta f(\boldsymbol{\hat{x}})} = \hat{\boldsymbol{x}} + \gamma \hat{\boldsymbol{p}} - \eta \gamma \nabla f(\boldsymbol{\hat{x}})\tag{2}$

結果、$f(\hat{\boldsymbol{x}})$の微分が出てきて値が更新されていき、最小値へ向かいます。

なんでこれでfの微分が出てくるんでしょうね。訳がわからない。計算してみましょう。
もしこの時点で微分が出てくる過程が当たり前にわかる人はこの先読むより原論文読んだ方が良いです。

まず式(1)ですが、以下の便利な公式があります[1]。
※以降、演算子は$\hat{\boldsymbol{x}}, \hat{\boldsymbol{p}}$を除きすべて大文字で書き、ハット(^)は省くものとします。
 また、簡単のため1 qumodeのみの場合を考えます。

$\exp(A)B\exp(-A) = B + [A, B] + \frac{1}{2!}[A ,[A, B]] + \frac{1}{3!}[A,[A ,[A, B]]] + \cdots \tag{3}$

ここではしませんが、証明は$\exp(\theta A)B\exp(-\theta A)$を$\theta=0$近傍でテイラー展開するようなイメージです。

以下のようにおくと式(1)にあてはめられます。
$A = i\gamma \frac{p^2}{2} \tag{4}$
$B = x \tag{5}$

すると交換関係は以下の通りです。$[x, p]=i\hbar$を用いています。

$[A, B] = \frac{i\gamma}{2}p^2 x - \frac{i\gamma}{2}x p^2=\hbar \gamma p$
$[A, [A, B]] = [i\gamma\frac{p^2}{2},\hbar \gamma p]=0$

これを利用すると、なんと式(3)の右辺3項目以降は消えます。やったね!
時間発展全般に使えそうなテクニックですね。

3項目以降が消えた式(3)と式(4), (5)を使うとそのまま式(1)が示せます。
ついでに原論文が$\hbar=1$を採用してることがわかりました(正直、明示してほしい)。

次に式(2)です。
$x$はまず変化しないです(原論文の式ではそもそも省略されています)。
$[x, x]=0$(同じ演算子同士は可換)なので、$f$がテイラー展開可能なら$[f(x),x]$が成り立ち、$e^{i\eta f(x)}\ xe^{-i\eta f(x)}=e^{i\eta f(x)}\ e^{-i\eta f(x)} x=x$
と考えれば良いのかなと。
(ここは正直お気持ちですし、テイラー展開できない場合にどう扱うべきかはわかりません)

$\gamma$も定数なので一旦省略し式(3)をあてはめると

$\exp(i\eta f(x))\ p\exp(-i\eta f(x))=p+[i\eta f(x),p] + \cdots\tag{6}$

よって以下の式を示せれば良いことになります(1qumode=1変数のみ考えているのでナブラは微分に書き換えています)。

$p+[i\eta f(x),p] + \cdots = p-\eta \frac{d}{dx} f(x)\tag{7}$

左辺第二項を計算していきます。さっき可能と仮定したテイラー展開によって微分が出てきます。

\begin{align}
[i\eta f(x),p] &= i\eta (f(x)p -  pf(x))\\
&= i\eta\ (\sum_{l=0}^{\infty} \frac{f^{(l)}(0)}{l!} x^{l}p-\sum_{l=0}^{\infty} \frac{f^{(l)}(0)}{l!} px^{l}) \\
&= i\eta\ (f(0)p + \sum_{l=1}^{\infty} \frac{f^{(l)}(0)}{l!} x^{l}p-f(0)p-\sum_{l=1}^{\infty} \frac{f^{(l)}(0)}{l!} px^{l}) \\
&= i\eta\ (\sum_{l=1}^{\infty} \frac{f^{(l)}(0)}{l!} x^{l}p-\sum_{l=1}^{\infty} \frac{f^{(l)}(0)}{l!} px^{l}) \tag{8}
\end{align}

さらに、計算すると以下の式が成り立つことが確かめられます。
$[x,p]=i\hbar$を使ってごりごりやります。

$x^{l} p - p x^{l} = i\hbar l x^{l-1} \tag{9}$

よって式(8)は

\begin{align}
[i\eta f(x),p] &= i\eta\ (\sum_{l=1}^{\infty} \frac{f^{(l)}(0)}{l!} x^{l}p-\sum_{l=1}^{\infty} \frac{f^{(l)}(0)}{l!} px^{l}) \\
&=i\eta \sum^{\infty}_{l=1} \frac{f^{(l)}(0)}{(l-1)!}i\hbar x^{l-1} \\
&= -\eta\hbar \sum^{\infty}_{l=0} \frac{f^{(l+1)}(0)}{l!}x^{l} \\
&= -\eta \hbar \frac{d}{dx}f(x)
\end{align}

$[i\eta f(x),-\eta \hbar \frac{d}{dx}f(x)]=0$は先程の議論から成り立つとすれば、式(7)の左辺第3項以降は消えます。
以上から式(7)が示せ、式(2)が成り立つことを確認できました。
振り返ってみるとそんなに難しくないですね。

まとめ

可換則が成り立たない計算に最初は慣れませんでしたが、交換関係とテイラー展開とそれらに基づいた公式を使えるようにしておくことが近道だと感じました。

参考

[1]:Walls, Daniel F., and Gerard J. Milburn. Quantum optics. Springer Science & Business Media, 2007.

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