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本記事の目的

この記事は、以下の企画に便乗する形で投稿している。

最近、AI/データサイエンス領域のエンジニアとして働くキャリアについて改めて考えていたので、これを機にアウトプットしたい。

自分が事業会社に所属していることもあり、事業会社のAIエンジニアは結構面白いと思っている。業務課題に軸足を置いて企画にも深く関わることが多い点は、AIの尖った専門性を磨きづらい面はあるものの、働き方として面白いと思う。

経歴

事業会社で、社内SEという立場で10年近く仕事をしてきた。
社内SEとしては、比較的幅広く経験を積ませてもらってきたと思う。

  • ドメイン知識をつけるための現場業務(非IT職として)
  • 数億円規模のスクラッチでのシステム開発
  • パッケージ製品の選定、導入と連携機能の開発
  • RPAやBIなど、EUCツールの導入や運用設計、普及
  • 長期的なデジタル技術活用計画の策定
  • PaaSを活用したデータ基盤構築、運用
  • AIやデータサイエンス領域のPoC遂行
    など

2020年1月にディープラーニング協会の「E資格」を取得した頃からは、自身の希望でAI領域の仕事の比重を増やしてきた。自ら手を動かしてコーディングをする仕事も、事業部門の担当者と企画を創り上げる仕事も経験してきた。

ここ最近は、自らをAIエンジニアと名乗って仕事することも増えた。

事業会社でのAIエンジニアの仕事

同じAI系の人材であっても、事業会社(Web系以外を想定)で働くのか、AIそれ自体で稼ぐSIerで働くのかによって、色々と違いが出てくるように思う。
※ SIerでの就労経験はなく想像を含むので、実態と違う部分もあるかもしれない。

# 観点 SIerのAIエンジニア 事業会社のAIエンジニア
1 社内での見られ方 プロフィットセンター コストセンター寄り
2 プロジェクトに関与する期間 契約期間のみ(数ヶ月) 企画から運用まで(数年)
3 役務範囲と専門性 限定的かつ専門的 広くなりがち
4 アプローチ 技術ドリブン 課題ドリブン
5 ユーザとの距離 遠い 近い

各観点について、事業会社のAI人材として働くことの特徴について少し深堀りして考えてみる。

1. 社内での見られ方

事業会社のAIエンジニアが社内で「主役」となることは少ない。前提として事業会社には稼ぎ頭である「本業」が主役としてあり、そこで高い売上をあげている部署が自然と力を持つ。AIエンジニアは事業部門を支え、並走してプロジェクトを進める立場になる。

AI/データサイエンス領域の仕事は、新規事業や既存事業のDX化という文脈で、いわゆる「攻めのIT」という括りで見られる。コストセンターとして見なされる従来型の「守りのIT」とは異なるものの、それでもやはり主導権を握るのは事業部門となることが多いと思う。

一方でSIerではAIそのものが売り物になり、稼ぎ頭になれるため、AIエンジニアは社内で主役としての立場になりうる。

2. プロジェクトに関与する期間

AIプロジェクトは大抵以下のような流れで進む。

■ 企画 → 要件整理 → PoC → 開発 → 導入 → 運用

事業会社に所属するAIエンジニアは、企画から運用までの全てのフェーズに参画する。一方でSIerに所属するAIエンジニアが関与するのは、開発を中心とした一部の(発注された)フェーズに限定される。

AIプロジェクトに長期的に関わりながらサービスを育てていくことができるのは、事業会社に所属することの醍醐味だと思う。

一方で、SIerは業界や組織を跨いで、短いスパンで数多くのプロジェクトを経験することができる良さがある。

3. 役務範囲と専門性

事業会社のAIエンジニアの役務範囲は広くなる傾向がある。よほど大きなAIチームを持つ事業会社でもない限り、個人がカバーすべき技術領域は必然的に広くなる。例えばデータ種別という観点でも、仕事の細かい選り好みは普通できず、時系列データから画像、自然言語まである程度幅広く担当することが求められる。

更に言えば、AI領域の仕事だけでなく、その周辺領域の役務まで担うことが期待されることも多い。自分の経験上も、AIで解決するには筋の悪い課題の相談に乗って適切な解決策を考えたり、かなり深いところまで業務側に入り込んで課題を抽出したりすることも多かった。

結果として、事業会社のAIエンジニアは技術面のスキルセットも広く浅くなりやすい。SIerのAIエンジニアの方がAIの技術的な専門性は高くなる傾向があるように思う。

4. アプローチ

AIプロジェクトに取り組む時のアプローチにも違いがある。

事業会社では解決すべき事業課題が先にあり、AI活用はそのための手段という位置付けとなる。つまり解決したい課題ありきで、適切な技術を探しにいく、というアプローチになる。

一方、SIerでは自社で提供できる技術や強みが先にある。社内のリソース(人材やツール)で提供できる技術を踏まえた上で、それを適用できそうな課題を持つ顧客を探しにいく、というアプローチになる。

5. ユーザとの距離

AIを活用するユーザとの距離感も大きな違いになる。事業会社の中でも外部向けAIを扱うか内部向けAIを扱うかによって変わるが、いずれにせよ事業会社にいた方がユーザとの距離は必然的に近くなる。

  • 外部向けAI: 事業会社のビジネスに付加価値的に組み込むためのAI
  • 内部向けAI: 事業会社の社員が利用し効率や生産性を向上させるためのAI

ユーザのフィードバックを頻繁に得ながら企画や開発が進められるのは、事業会社に所属することのメリットであると言える。

事業会社に所属する理由

自分が事業会社のAI人材として仕事を続けるのは、以下の理由がある。

1. 企画寄りの仕事がしたい

組織ごとの「AIエンジニア」の定義にもよるが、AIエンジニアの仕事にも事業サイド寄り(企画)の仕事から技術寄り(研究・開発)の仕事まで幅がある。AI人材として仕事をする中で、AIの企画系の仕事に魅力を感じている。

実務の中で、ROIが300%ありそうな課題を放置しながら、ROIが100%の課題に一生懸命取り組んでいるような状況が世の中に数多くあるように感じる。どの課題に取り組むかは、「どんなソリューションを使うか」「どれだけの精度を出すか」よりもはるかに影響力があり、重要だ。ビジネス課題をうまく技術課題に落とし込むプロとして働きたい。

AI企画の仕事をするのであれば、SIerの立場より事業会社の立場の方が深くビジネスに入り込み、面白い仕事ができそうだと思っている。

2. 技術一本で戦っていく自信はない

AI領域の技術進歩はあまりにも早い。先日の人工知能学会にも参加したが、「自身がずっと進めていた研究がGPTの登場で見直さざるを得なくなった」といった声も聞き、技術に尖り続けることはやはり相当な努力が必要だと感じた。

AzureのCognitive Serviceといったクラウド系のAIサービスにも、使い勝手の良いAPIが多く出ている。このようなツールの活用ハードルはどんどん下がっており、タスクやドメインに独自性が薄い課題であれば、汎用的なAIで十分対応可能になっている。AIのエンジニアとしては、中途半端な技術力はどんどん価値がなくなってくると感じた。

技術そのものも重要だが、それを「どのように現場適用するか」が重要で、ここに真剣に向き合っていきたいと考えた。

3. 自分の好きな事業領域で、時間をかけてサービスを育てたい

事業会社では、長期に渡ってその事業領域のドメイン知識を身につけながら、サービスを育てていくことになる。

これまでの仕事の中で、AIプロジェクトで成果を出すためにはある程度長い期間が必要だと感じている。いわゆるPoC死は現実的に不可避なのでMVPを高速に作ってトライ&エラーを繰り返すことが必要だし、ようやく導入したAIシステムもコンセプトドリフトやデータドリフトとうまく付き合いながら育てていく必要がある。ひとつのAIプロジェクトを実行すると色々と気づきが得られて、次はあれをやってみよう、次はこれをやってみようと発想が広がる。

自分が導入したソリューションが、もしも誰にも使われずに終わったら悲しすぎる。なるべく現場に近いところでAIサービスを育て、それが価値を生むところまで腰を据えて取り組みたい。

おわりに

上記で挙げたような違いは、AIに関わらず従来のITでも同様のことが言えると思う。ただAIではソリューションの中での学習データの重要性が高く、よりドメイン知識に根差した企画力が重要だと感じている。

これからもAI領域の勉強は地道に続けながら、事業会社の事業領域の知識も組み合わせて面白い企画を世の中に仕掛けていきたい。

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