本記事では、ある市場を ゼロサムゲーム と仮定した場合の、市場の効率性と即時約定性(トレードの即時執行)がどのように関係するかについて、背理法(証明 by contradiction)を用いて議論します。なお、ここではスプレッドや手数料などの取引コストは存在しないものと仮定します。
前提条件
以下の前提条件を置きます。
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市場はゼロサムゲームである
各参加者の利益と損失の合計がゼロとなる。取引コストがないため、ある参加者が得をすれば必ず他の参加者が同額の損をする状況です。 -
「何の戦略も持たない参加者」の存在
ここでいう「何の戦略も持たない参加者」とは、市場から特に情報や優位性を活用せず、ランダムに取引を行うような参加者を指します。
証明の概要
背理法を用いて、次の論理展開を行います。
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ゼロサムゲームにおける期待値の性質
ゼロサムゲームでは、すべての参加者の期待値の合計が 0 であるため、もしある参加者がプラスの期待値を持つならば、必ず他の参加者がマイナスの期待値を持たなければならない(自明)。 -
戦略を持たない参加者の期待値はプラスになりえない
戦略を持たない参加者は、市場の情報や変動を利用することができず、プラスの期待値を得ることは不可能であると考えられます。(①)
→ つまり、何の戦略も持たない参加者は、理論上、プラスの期待値を得る可能性はゼロである。 -
戦略を持たない参加者がマイナスの期待値であると仮定
仮に、戦略を持たない参加者の期待値がマイナスであると仮定します。 -
逆の取引戦略の存在
もし、マイナスの期待値を生み出す戦略が存在するならば、その戦略の「逆の取引」を行えば、同じくゼロサムの性質により、プラスの期待値の戦略を容易に構築できるはずです。(②)
→ しかし、これは先述の(①)と矛盾します。 -
矛盾からの結論
(①)と(②)の矛盾から、戦略を持たない参加者の期待値は、プラスでもマイナスでもなく、ゼロでなければならないと結論付けられます。
さらに、ゼロサムゲームの性質上、プラスの期待値の参加者が存在しない場合、市場は効率的であると解釈できます。
議論のまとめ
以上の議論から、以下の結論を導くことができます。
- 戦略を持たず、即時約定が行われる市場においては、情報や取引コストが存在しない理想的なゼロサム環境では、どの参加者も長期的にプラスの期待値を得ることは不可能である。
- この性質は、市場が効率的であり、特定の参加者が一方的に優位に立つことができないことを示唆しています。
結論
今回の背理法による議論は、市場の効率性と即時約定性の関係性を、理論的な枠組みの中で理解する一助となります。実際の市場ではスプレッドや手数料、情報の非対称性などが存在するため、単純なゼロサムゲームの仮定は成り立たない部分もありますが、理論モデルとして市場の効率性を考察する際の基本的な視点として有用です。