日本評論社様から「因果推論の計量経済学」を献本いただきましたので、書評を書かせていただきます、大変遅れてしまい申し訳ございません。(隅から隅まで全部は読めていないので、読了したら更新するかもしれません)
私について
経済学研究科に所属するM2です。実証で修士論文を書きましたが、因果推論は使いませんでした。因果推論に関する知識は大学・大学院で授業を受けた程度です。4月からデータを扱う職種で企業にて働く予定です。
感想
私の思う一般的な因果推論手法は一通りカバーされているなと思いました。特徴的な点は第1部でRCT、第2部で疑似実験的手法を扱い、第2部では回帰不連続デザインと差の差法を章立てて扱っていることでしょうか。他の因果推論に関する本1と違うのは傾向スコアの手法を章立てて扱わず、IPW推定量などについて文中でところどころ触れるにとどめている点でしょうか。2あとは機械学習を用いたCausal Forestのような手法や、企業での実務でよく使われる(らしい)Causal Impact等はカバーされていません。
この本の一番の特徴としては、ビジネスや他分野への応用に重点を置かず、あくまで「経済学訛りの」3因果推論についての本にしようとしている点だと思います。経済学の実証家をターゲットに、因果推論を扱うのであれば必要であろう理論的背景を妥協せずに説明し、また実際の実証論文の例を付することで4、この本を読めば因果推論を用いた実証論文を書く理論的・手法的な基礎が、合成コントロール法のような最新の手法までカバーした形で得られるように思えます。その点でとても貴重な本だと思います。
対してあえて言うのであれば、恐らく経済学に全く興味がない人が読んだとしてもあまり得られるものはないかもしれません。理論的な説明を完全に理解するためにはおそらくコアコースレベルの計量経済学の知識がある程度必要だと思いますし5、例えばちょっと因果推論に触れてみたいなというビジネスマンが最初に読む本におすすめできるかというと、それはさすがに厳しそうです。
逆に言うと、経済学における実証分野の手法に少しでも興味のある方であれば手に取ってみて損はないと思います。特に、実証系の研究者を目指す学生にはとても価値のある本なのではないでしょうか。