はじめに
久保川達也氏著「現代数理統計学の基礎」の4章を勉強していて、私が個人的に気になったところである
・ヤコビアン
・多項分布
について説明します。
ヤコビアン
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ヤコビアンは、変数変換をして(異なる座標系を考えて)積分するときに出てくることが多いです。例えば2次元極座標系から直交座標系に座標系を変換する場合、極座標系での微小面積は$rdrd\theta$と近似できて、直交座標系での微小面積は$dxdy$で、$$\iint f(x,y) dxdy=\iint f(r,\theta) rdrd\theta$$とし、3重積分の場合は$$\iiint f(x,y,z) dxdydz=\iiint f(r,\theta,\phi) r^2\sin \theta drd\theta d\phi$$として計算すると思います。実はこのときの$r$や$r^2\sin \theta$がヤコビアンというものです。私はヤコビ行列式をヤコビアンと呼んでいて、それは
$$|J|=|\frac{\partial (x,y,z)}{\partial (r,\theta,\phi)}|$$と表されます(左右の||は分数全体にかかります)。行列式の中身は、変数$r,\theta,\phi$が増加したときに直交座標系ではどの方向に増加するように見えるかを表すベクトルです。それらの変化を表すベクトルに挟まれた図形の大きさがヤコビアン、つまり2次元だと平行四辺形の面積、3次元だと平行六面体の体積を表していることになります。ヤコビアンを拡大率と考えることもできます。$$dxdydz=r^2\sin \theta drd\theta d\phi$$と等号でつないでもそれぞれの微小体積の大きさは全く関係がないので、積分記号も含んで等号で結んだほうが良いと思います。
多項分布
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1変量や2変量の確率分布を一般化したものが多変数の確率分布で、多変数の場合の方が現実的で使用例も多いです。では多項分布は何を一般化したものかというと、例えば2項分布を一般化したものです。二項分布はコインを例にして考えることができました。1枚のコインには'裏'と'表'の二つの面があり、それぞれが出る確率を$p_1,p_2$とすると$p_1=0.5,p_2=0.5$で、コインを$n$回投げたとき確率変数$X$を'表が出る回数'として一次元の確率関数で表すことができました。これを一般化するために、サイコロを例にして考えます。$k$個の面からなるサイコロを$n$回投げて1から$k$の面が出る回数をそれぞれ$X_1,X_2,...,X_k$とするとき、$(X_1,X_2,...,X_k)$が従う分布が多項分布となります。このとき、$$X_1+X_2+...+X_k=n$$$$p_1+p_2+...+p_k=1$$です。コインは$k=2$の場合であることが分かります。定義を引用しますと、
(X_1,...,X_k)の(x_1,...,x_k)における同時確率関数が$$f_{1,...,k}(x_1,...,x_k|n,p_1,...,p_{k-1})=\frac{n!}{x_1!\cdot\cdot\cdot x_k!}p_1^{x_1}\cdot\cdot\cdot p_k^{x_k}$$となる形で与えられるとき、これを多項分布といい、$Multin_k(n,p_1,...,p_k)$で表す。
同時確率関数とは、すべての確率変数を固定(例:$1\le x_1 \le 3$ )せずに考える確率関数という意味です。多項定理を用いてこれを積分すると1になることから正当性が確かめられます。コインは2次元ではないのかと思われるかもしれません。実際には2次元ですが、$X_2=n-X_1,\ p_2=1-p_1$と表せるので一次元の確率関数で表せます。
参考文献
「現代数理統計学の基礎」久保川達也氏著