LoginSignup
5
2

More than 3 years have passed since last update.

Swift の乱数生成が遅い?

Posted at

問題

自作アプリでシミュレーションシステムを開発する時、こんな要件がありました:
カードの特技がある確率で発動することにして、実際に発動するかどうかをシミュレートしてください。だが、シミュレートの回数が合計ほぼ百万回に近い。

言い換えると:
ある事象が発生する確率は rate であり、その事象の発生状況を百万回シミュレートしてください。

最初は Swift 4.2 から提供された Random API を使いました:

class LSSkill {
    // 発動確率(0.8 => 80%)
    let rate: Double

    // 小数を [0,1) の範囲で生成して、rate より小さい場合、発動したと判定。
    func simulatePossibility() -> Bool {
        Double.random(in: 0..<1) < rate
    }
}

理屈はもちろん大丈夫ですが、Instrument で profile したところ、乱数生成が、スコアシミュレーション全体時間のほぼ四分の一を占めました。

ins.jpg

シミュレーション自体が 0.3s 未満とはいえ、改善の余地があれば見逃すわけにはいけませんね!!(神経質)

改善策

代わりに見つけたのはdrand48()という少し Low-Level な関数。drand48 がちょうど [0,1) 範囲の乱数を生成してくれます。

func simulatePossibility() -> Bool {
    drand48() < rate
}

注意:ここで省きましたが、drand48()を使う前に必ず srand48()によって一回初期化してください。

drand48に入れ替わっただけで、時間が先程の方法よりだいぶ縮みました:

ins2.jpg

まともに測ろう

実機ではちゃんと整理できなかったので、テスト環境でmeasureを使って様々な方法の実行速度を比べましょう。

測定コードはこのよう、なるべく無関係要素を除きたいので、範囲と乱数 Generator を for…in 循環の外に置きます。

let total = 200_0000
func testDoubleRandom() throws {
    measure {
          let range = 0..<1.0
        var gene = SystemRandomNumberGenerator()
        for _ in 0..<total {
            let _ = Double.random(in: range, using: &gene)
        }
    }
}
// 他の5つを省略

測ったのは、[0,1) での小数生成と、[100, 200) での整数と小数の生成。Random API とその以前の方法を比べました:

ran.jpg

Random API が範囲・型に関わらず大体同じ速度に保っていて、すべて Low-Level 関数に上回っていますね、やはりちょっと遅い気がします。

なぜ?

Random API が公式が実現してくれたもので、本来から言うと最適化されたはずですが、もともと存在した関数より遅いのはなぜ?

それを究明するには、ソースコードを覗く必要がありました。
Intの乱数方法は swift/Integers.swift に書いてあります。簡単に説明するため、半開区間だけを切り抜きます:

public static func random<T: RandomNumberGenerator>(
    in range: Range<Self>,
    using generator: inout T
) -> Self {
    // ...
    let delta = Magnitude(truncatingIfNeeded: range.upperBound &- range.lowerBound) // 1
    return Self(truncatingIfNeeded:
      Magnitude(truncatingIfNeeded: range.lowerBound) &+
      generator.next(upperBound: delta) // => 次のコードブロック
    ) // 2
  }

1: 与えられた範囲の長さを計算。メモリリークにならないためビット演算とtruncatingIfNeededによる初期化になります。Magnitude は数値の絶対値部分を表す。
2: その長さ delta を上限として乱数 Generator に渡して、[0, delta) の範囲の乱数を生成し、その乱数を最初に与えられた範囲の下限に足して、最終乱数になります。

では、その乱数 Generator がどのように乱数を生成したのですか?デフォルトとしてSystemRandomNumberGeneratorが使用されていますが、上限付きのnext()はプロトコルRandomNumberGeneratorのデフォルト関数として書いています:
(次の2つブロックは swift/Random.swift から)

public protocol RandomNumberGenerator {
  mutating func next() -> UInt64
}

extension RandomNumberGenerator {
  public mutating func next<T: FixedWidthInteger & UnsignedInteger>(
    upperBound: T
  ) -> T {
    _precondition(upperBound != 0, "upperBound cannot be zero.")
#if arch(i386) || arch(arm)
    let tmp = (T.max % upperBound) + 1
    let range = tmp == upperBound ? 0 : tmp
    var random: T = 0
    repeat {
      random = next() // => 次のコードブロック
    } while random < range
    return random % upperBound
#else
    // ...
#endif
  }
}

正直ここの乱数生成のアルゴリズムを理解していませんが、とりあえずSystemRandomNumberGeneratornext()使ったので、続きます:

public struct SystemRandomNumberGenerator: RandomNumberGenerator {
  public mutating func next() -> UInt64 {
    var random: UInt64 = 0
    swift_stdlib_random(&random, MemoryLayout<UInt64>.size) // => 次のコードブロック
    return random
  }
}

続きはswift_stdlib_random。ついに Swift 言語を実現した cpp の領域に踏み入りました。
swift/Random.cpp から

#if defined(__APPLE__) // APPLE のプラットフォームでしたら
SWIFT_RUNTIME_STDLIB_API
void swift_stdlib_random(void *buf, __swift_size_t nbytes) {
  arc4random_buf(buf, nbytes);
}
// ...他のプラットフォームでの実現

遠回りして、結局 arc4random に辿り着きましたか…ここまでにするともう次に探索する必要がありません。小数の実現 swift/FloatingPointRandom.swift を探ると同じくSystemRandomNumberGeneratorを使っていることがわかりました。

つまり、Random API がarc4randomを使った上で、他の操作を加えて今のInt.random関数になりました。生のarc4randomに比べると遅いのは当たり前のことです。

しかし、これまでのコードを見た結果、Low-Level 関数にいくつ欠点があります:

  • 具体的な型に制限されています。arc4random系の関数がUInt32に、drand48Doubleに。実際色んな場面で使うと型変換しなければなりません。
  • 違う関数の範囲の指定がバラバラで、紛らわしい。例えばarc4randomが上限しか指定できなくて、[100, 200) 範囲にしたい時、上限を100にして、その後乱数に100を足す必要があります。
  • Swift が様々なところで実行しています。違うプラットフォームでは違う乱数生成の方法があって、クロスプラットフォーム開発者に対してはかなりの苦痛でしょう。

実際、Random API に関する最初の提案では Proposal Random Unification - Discussion - Swift Forums、同じことが言われたようです。

Swift コミュニティは、これらの欠点を解消するため、型・範囲・プラットフォームに対して汎用化した乱数 API を実装し、統一したことで開発に大きな利便性が持たされました。

まとめ

この記事は Swift の乱数生成の中の仕組みを探索し、ちょっとだけ遅い原因を究明しました。

遅いとは言え、短時間で百万回実行する要件ではなく、一回二回だけでしたら全然気にすることはありません。そんな無視できる程度の性能改善より、コードの統一性と可読性が遥かに重要だと思います。

以上です。なにか間違えたことがあれば気軽にコメントお願いします!

5
2
0

Register as a new user and use Qiita more conveniently

  1. You get articles that match your needs
  2. You can efficiently read back useful information
  3. You can use dark theme
What you can do with signing up
5
2