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本記事では、Skip FrameworkConvexという2つのリアクティブバックエンド技術について、機能やできること、開発のやりやすさなどの観点から比較します。対象読者はバックエンド開発経験者や中級フロントエンド開発者を想定しています。

Skip Frameworkとは何か

Skip Framework(以下 Skip)は、Meta社(旧Facebook)で開発されたオープンソースのリアクティブバックエンドフレームワークです (GitHub - SkipLabs/skip: Skip is a framework for building reactive services)。MITライセンスで公開されており、リアルタイムに状態が変化するサービスを効率的に構築・実行するために設計されています。Skipの最大の特徴は、状態変化に応じて必要な部分だけを増分的(インクリメンタル)に再計算する仕組みにあります (GitHub - SkipLabs/skip: Skip is a framework for building reactive services)。このおかげで、手動で依存関係を追跡したりアップデートするようなバグのもとになりがちな作業が不要になります。

SkipはTypeScript向けのインタフェースと抽象化を提供しており、開発者は普段使い慣れたTypeScript/JavaScriptのツールチェインでリアクティブなサービスを記述できます (GitHub - SkipLabs/skip: Skip is a framework for building reactive services)。実際に、npm i @skiplabs/skipで提供されるパッケージを使ってNode.js(あるいは高速な実行環境としてBun)上で動作させることができます (Skip, the reactive framework) (Skip, the reactive framework)。Skipは内部にSkipランタイムという独自実装のネイティブエンジン(またはWASMエンジン)を持ち、これがリアクティブ計算を効率的に行います (GitHub - SkipLabs/skip: Skip is a framework for building reactive services) (GitHub - SkipLabs/skip: Skip is a framework for building reactive services)。TypeScriptで書かれたユーザーロジックはこのランタイム上で動作し、ランタイムがトランザクショナルなヒープ(不変性と正確さを保証するメモリ空間)を管理して、変更があったデータだけ再計算するようになっています (Skip, the reactive framework) (Skip, the reactive framework)。

アーキテクチャとしては、Skipはクライアントと外部データソースの中間に配置されるバックエンドサービスとして機能します。開発者はまず外部のサービスやストリーム、データベースを 「コレクション」 としてSkipにインポートし、それに対して純粋関数(副作用のないマップ処理など で変換・集計ロジックを宣言的に記述します (Skip, the reactive framework)。SkipではこのロジックをMapperクラスなどを用いて定義し、ストリーム処理のような煩雑さなしに現在の状態に基づく計算を書くことができます(まるで現在のスナップショットに対する処理を書く感覚です)。このようにして定義されたリアクティブ計算グラフに対し、クライアントはHTTPのエンドポイント経由で問い合わせ(クエリ)たり、サブスクリプションして常に最新のデータをストリーム受信することができます (Getting started | Skip) (Getting started | Skip)。Skipのリソースマネージャは、実際にクライアントから必要とされているデータソースだけをポーリングしたり購読したりするため、無駄な計算やデータ取得を抑えることができます (Skip, the reactive framework) (Skip, the reactive framework)。

TypeScriptとの関係ですが、Skip自体はリアクティブな計算エンジン(一部C++やRustなどネイティブコードを含む)であり、その周辺をTypeScriptのAPIで包んでいるイメージです。したがって、サービスロジックはTypeScript(またはJavaScript)で実装し、型チェックやエディタ補完などの恩恵を受けながら開発できます (GitHub - SkipLabs/skip: Skip is a framework for building reactive services)。JSONも基本データ形式として利用でき、フロントエンドとの親和性も高くなっています (Skip, the reactive framework)。

特徴のまとめ(Skip):

  • リアクティブ計算: データが変化した部分のみを再計算し、クライアントへ自動でプッシュ更新 (Skip, the reactive framework) (Skip, the reactive framework)。リアルタイム機能を過剰な再計算コストなく実現します。
  • 宣言的プログラミングモデル: 現在の状態に対する純粋関数としてロジックを記述し、非同期処理やイベントハンドリングの複雑さを隠蔽(“No async complexity”とされる) (Skip, the reactive framework)。
  • オープンソース & 自己ホスト: MITライセンスで公開されており、ローカル環境や任意のサーバーで動作。追加のマネージドサーバ不要で軽量に導入可能 (Skip, the reactive framework) (Skip, the reactive framework)。
  • データソース柔軟性: バッチデータ(静的データ)でもストリーミングデータ(継続更新されるデータ)でも扱え、両者を組み合わせたパイプライン構成も可能 (Skip, the reactive framework) (Skip, the reactive framework)。データベースや他のAPIとの接続も**「Externals」**機能で対応。
  • 堅牢性: 透過的な状態管理とエラー耐性を備え、障害時にも一貫性を保ちながら再接続・再計算が行われます (Skip, the reactive framework)。

Skipは特に読み取り中心(read-mostly) のユースケースに適しているとされています (Blog | Skip)。つまり、データの更新(書き込み)はそれほど頻繁ではないが、多数のクライアントが最新状態の集計やフィードを読むようなシナリオです。Metaでの開発背景からも、大規模SNSでのフィード表示やアクティブユーザリスト、ダッシュボードの統計表示など、「複数の状態の組み合わせに応じて常に結果を更新し続ける」ような機能を容易にする狙いがあります。

Convexとは何か

Convexはフロントエンド開発者向けに提供されるバックエンド・クラウドサービス(BaaS)的なリアクティブデータベースです。Convexは「リアクティブなデータベース」を掲げており、データベース内の変更に応じてクエリ結果が自動更新される仕組みを備えています (Convex Overview | Convex Developer Hub)。Convex上ではクエリがTypeScriptで記述され、まるでReactのコンポーネントがstateに反応するように、Convexのクエリはデータベースの変更に反応します (Convex Overview | Convex Developer Hub)。公式ドキュメントの表現を借りれば「Convexではデータベースクエリは単なるTypeScriptコードであり、データベース内で直接実行される」ものです (Convex Overview | Convex Developer Hub)。

Convexはバックエンドに必要な複数の機能をオールインワンで提供しています (Convex Overview | Convex Developer Hub)。具体的には:

  • データベース: JSONライクなドキュメントをテーブルに格納しつつ、リレーショナルな参照(他のテーブルのIDをフィールドとして持つことでリレーションを表現)も可能な「Document-Relational」データベースが自動提供されます (Convex Overview | Convex Developer Hub)。SQLを書く必要はなく、スキーマもコード上で管理できます(ORM不要) (Convex Overview | Convex Developer Hub)。トランザクションはACID特性を満たし、Serializableな一貫性レベルで提供されるため、常に整合したデータが得られます (Convex Overview | Convex Developer Hub)。
  • サーバー関数実行環境: フロントエンドから呼び出せるサーバーサイドの関数をTypeScriptで定義できます (convex-backend/README.md at main · get-convex/convex-backend · GitHub)。Convexプロジェクトではconvex/フォルダ以下に関数を配置し、これらはConvex側でホスト・実行されます(いわゆるサーバーレス関数のような役割) (convex-backend/README.md at main · get-convex/convex-backend · GitHub)。フロントエンドはConvexのクライアントSDK経由でこれらの関数を呼び出したり、クエリ結果を購読したりできます。
  • リアルタイム更新: ConvexのクライアントSDK(React用フックやVue/Svelte対応のライブラリなどがあります (Convex Overview | Convex Developer Hub))を使うと、クエリ関数に対する結果を購読でき、該当データが変化すれば自動的にクライアント側の状態も更新されます (Convex Overview | Convex Developer Hub)。開発者は明示的に通知処理を書く必要がなく、ライブアップデートが実現できます。
  • 認証・ファイルストレージ・スケジューラ: Convexプラットフォームにはユーザ認証統合、ファイル保存、定期実行タスクなどWebアプリに必要な周辺機能も用意されています (Convex Overview | Convex Developer Hub)。これらはオプション機能ですが、例えば認証を簡単に組み込みConvex内のユーザIDと関連付けたり、スケジュールされた処理で外部APIからデータ同期したりといったことが可能です。
  • ホスティングと管理: Convex社が提供するクラウドサービスとして利用でき、インフラ管理なしで使い始められます (convex-backend/README.md at main · get-convex/convex-backend · GitHub)。クラウド版ではAWS上のRDS(MySQL)を永続層として使っておりスケーラビリティも確保されています (Convex Overview | Convex Developer Hub)。加えてConvexはオープンソースでもあり、自前の環境にDockerでデプロイしてセルフホスティングすることもできます (convex-backend/README.md at main · get-convex/convex-backend · GitHub)(オープンソース版では内部でSQLiteやPostgreSQLを使用可能 (Convex Overview | Convex Developer Hub))。

TypeScriptとの関係は極めて密接です。Convexではサーバー側のロジックからクエリ、データスキーマ定義、クライアントとの通信までTypeScriptで統一されています。TypeScriptでConvex関数を書くことで、フロントエンドからその関数を呼ぶ際にも自動生成される型定義によって型安全に利用できます(いわゆるエンドツーエンドの型チェックが効く)。ドキュメントでも「Convex provides automatic type safety all the way from your database schema to your React app」と述べられているように、スキーマからUIまで一貫した型の保証が得られる点はConvexの売りです (End-to-end TypeScript with Convex - Stack)。Convex CLIはプロジェクトのTypeScriptコードを解析し、型情報をクライアント用に生成してくれるため、データ構造の変更時もコンパイルエラーで検出でき、フロント・バックエンド間の不整合を防ぎます。

特徴のまとめ(Convex):

Convexは新規のWebアプリ開発に適しており、特に「リアルタイム性が要求されるが、バックエンドを一から構築したくない」場合に威力を発揮します (Tinkering With Convex - mikecann.blog)。FirebaseやSupabase、あるいはかつてのParseに近い感覚で使える一方、SQLレスでTypeScriptコードを書くという開発体験はよりモダンでフロントエンド寄りです。そのため、バックエンドの知識が浅いフロントエンド開発者でも比較的習得しやすく、逆に経験豊富なバックエンド開発者にとっても型安全なBaaSとして生産性を上げられるでしょう。

機能と提供価値の比較

両者とも「リアクティブ」「リアルタイム更新」というキーワードを持ち、共通してデータ変更時の自動更新による最新データ提供という価値を提供します。しかし、そのアプローチや周辺機能には大きな違いがあります。ここでは主な比較観点ごとに違いをまとめます。

リアクティブ更新の仕組み

  • Skip: 内部のリアクティブエンジンが依存関係グラフを管理し、入力データ(外部から取り込んだコレクション)が変化した際に、その変更に影響を受ける計算だけを再実行します (Skip, the reactive framework) (Skip, the reactive framework)。これにより無駄な再計算を避け、必要最小限の更新で結果を一貫性を持って更新できます。Skipのサービスロジック自体は宣言的で副作用を持たないため、一度組み立てた計算パイプラインは自動的に再評価され、結果が変わればその部分だけクライアントに送信されます。例えば複数のデータソースを結合してランキングを出すサービスで、一部のデータソースが更新された場合、その影響範囲のランキング部分のみ再計算して更新するイメージです。
  • Convex: クライアントが購読しているクエリ関数(サーバー関数)について、内部で追跡されたデータベースの読み取り内容が更新されるとその関数全体を再実行します (Convex Overview | Convex Developer Hub)。再実行結果がクライアントにプッシュされるため、常に最新のクエリ結果が得られます。Convexの場合、リアクティブ性はあくまでConvexデータベース内の変更に基づきます。そのため、クエリ関数内でデータベースから取得したドキュメントが変われば更新されますが、クエリ関数内で外部APIにリクエストした結果などは自動追跡されません。Convexのリアクティブ再実行は関数単位で行われ、細かな依存関係グラフを意識する必要はありません(Convexが裏で依存するデータを自動検知する形です)。シンプルさの一方で、Skipのような部分的な増分再計算というよりは、該当クエリを丸ごと再計算する挙動になります。

データ管理と永続化

  • Skip: 永続データストアを内蔵しません。Skipはあくまで外部のデータソースとフロントエンドの仲介・計算エンジンです。そのため、データ自体は外部のデータベース(例: PostgreSQL等)、他のサービスAPI、メッセージキューなどから供給されます。SkipにはPostgreSQL用のアダプタ@skip-adapter/postgresがあるように、外部DBと接続して変更を取り込む仕組みを提供しています (Getting started | Skip) (Getting started | Skip)。しかし書き込み(データ更新)に関してはSkip自体が処理するというより、外部データソース側で行われた更新をSkipに伝える必要があります (Getting started | Skip)。典型的には、ユーザからの操作でデータを変更する際は、まず外部のDBやサービスに書き込み、それに対応してSkipの入力コレクションを更新または再取得させます (Getting started | Skip)。このため、SkipはCQRSパターン(Command Query Responsibility Segregation)のクエリ側に特化したフレームワークとも言えます。書き込み部分(コマンド側)は別途実装し、それをSkipのリアクティブ機構に繋ぎ込む形です。ただし、Skipの利点は複数のデータソースをまたいだ集約既存システムへの非侵入なリアルタイム拡張が可能な点です。既存のデータベースやサービスをそのまま活かしつつ、その上にリアルタイム更新の読み取りAPIを構築できます。
  • Convex: 独自のデータベースをプロジェクトごとに提供し、データの読み書き双方を扱います。ConvexではAPI経由でミューテーション関数を呼び出すことでデータベースに書き込みができます。またスケジュールやWebhook等で外部からConvexのデータベースに取り込むことも可能です (Type-safe, data-driven apps, even if databases freak you out - CodeTV)。つまり、Convexを使う場合、アプリのメインデータはConvex内に保持されることが想定されます。外部サービスとの連携も、必要であればConvexのサーバー関数内でHTTPリクエストをしたり、外部DBからデータ移行してConvexに保存するといったパターンになります。データはConvex内にあるので、Convexのクエリはその変更をすぐ捉えてリアクティブに反映できます。永続性もConvex側で担保され、クラウド版では自動的にスケールされたRDS(MySQL)上に、セルフホスト時でもSQLite/Postgres/MySQL上に格納されるため、開発者はスキーマとデータ操作に集中できます (Convex Overview | Convex Developer Hub)。

アーキテクチャと導入モデル

  • Skip: ライブラリ/フレームワークとして提供され、自分のNode.jsプロジェクトに組み込んで使用します。したがって自己ホスト前提であり、実行するサーバー(またはサーバーレス関数環境など)を自分で用意します。Skip自体は軽量でシングルプロセスでも動作しますが、スケールさせたい場合は自前でクラスタリングやシャーディングを検討する必要があるでしょう。公式にはDocker Composeを用いたデプロイ例なども提示されています (GitHub - SkipLabs/skip: Skip is a framework for building reactive services)ので、マイクロサービスの一部やBFF(バックエンドフォーフロントエンド)として組み込むイメージです。例えば既存のExpress/Next.jsサーバーにSkipを組み込んで、/api以下の特定エンドポイントだけSkipが管理するリアクティブAPIにする、といった柔軟な統合も可能でしょう。またSkipは現在アルファ版(2024年末時点でアルファリリース)であり (Blog | Skip)、導入には多少最新技術を試すリスクも伴います。逆に言えば、既存システムにリアクティブ機能を追加したいケースや、インフラを制御できる環境で部分的にリアルタイム計算エンジンを導入したいケースに適しています。
  • Convex: フルマネージドなクラウドサービスとして利用でき、インフラセットアップ不要で使い始められます (convex-backend/README.md at main · get-convex/convex-backend · GitHub)。ConvexのCLIでプロジェクトを作成しデプロイすれば、Convex社のクラウド上に自動的にデータベースとサーバーが用意され、ダッシュボードからデータの状況や関数ログを確認できるようになります。スケーリングや冗長化もクラウド側が担います。一方、企業ポリシーや要件でクラウドを使えない場合にはセルフホストも可能ですが (convex-backend/README.md at main · get-convex/convex-backend · GitHub)、まだオープンソース公開から日が浅いため細かな運用ノウハウは発展途上かもしれません(Postgres対応が追加されたばかり等 ([Release] Convex - self-hosting open-source reactive database))。Convexを導入する場合、アプリ全体のバックエンドをConvexに任せるアーキテクチャになります。他のBaaSと同様、既存システムとの統合よりも新規開発向けです。既存サービスからの移行はデータをConvexに移す必要があるなどハードルが高いケースもありますが、小規模な部分に限ってConvexを使うハイブリッド構成も可能です。しかしConvexはデータベース込みの一体型なので、Skipほど粒度細かな組み込みはできません。

TypeScriptサポートと開発体験

  • Skip: TypeScriptでロジックを書けますが、開発体験としてはバックエンド寄りです。リアクティブ計算を行うためにSkip特有のクラスやパターン(例:ResourceEagerCollectionMapperなど)を学ぶ必要があります。これはReactなどフロントの状態管理になぞらえれば、新しいフレームワークのAPIを学習するのと似ています。学習コストは多少ありますが、裏を返せばReactでstate管理を学んだことがある人には「なるほど、バックエンド版のReactのようなものか」と理解しやすい面もあります。実際、Reactの共同創作者が「SkipはバックエンドにおけるReactだ」とコメントしているように (Skip, the reactive framework)、状態の差分更新という思想が通底しています。開発中のデバッグに関しては、自分のローカルで動かせる分、コンソールログを仕込んだりNodeのデバッガを使ったりといった従来のバックエンド開発と同じ感覚でできます。Skipは非同期処理を隠蔽していますがNode.js上のシングルスレッドで動くため、ステップ実行やブレークポイントも比較的扱いやすいでしょう。また、外部システムとの連携部分(Externals)で不具合が起きた際も、自前の環境で原因を追いやすい利点があります。
  • Convex: フロントエンド開発者にもなじみ深いTypeScriptでバックエンド処理を書け、しかもSQLなど特殊な言語を覚えずに済むため、学習コストは低めです。基本的なCRUD処理やビジネスロジックはすべてTypeScriptの関数で書けるので、「Next.jsのAPIルートを書く」のに近い感覚でサーバー側が実装できます。Convex独自の概念としては、クエリとミューテーションの区別、Convex由来の型ガイドライン(例えばConvexのId型など)がありますが、ドキュメントやチュートリアルも整備されているためキャッチアップしやすいでしょう。開発体験として特筆すべきはエンドツーエンドの型安全で、Convex CLIが自動生成する型定義により、サーバーで定義したデータ構造・関数シグネチャがフロント側にも伝播します。これにより、「クライアントから存在しないフィールドにアクセスしていた」といったミスがコンパイルエラーで炙り出せます。またConvexはダッシュボードUIやCLIコマンドで、関数ログの確認、データベースの中身の参照、スキーママイグレーションなどが行えるため、クラウド上のデバッグ/運用も支援されています。とはいえクラウド上で実行されるコードをステップ実行でデバッグすることはできないため、必要に応じてログ出力やエラー内容を手掛かりにする形になります。この点は他のサーバーレス環境と同様で、ローカル開発用にconvex devコマンドでエミュレート実行し、挙動を確認することも可能です。総じて、Convexは**「データベースを意識せず関数を書く」**ことに集中でき、フロントエンド開発者でも違和感の少ない体験を提供します (convex-backend/README.md at main · get-convex/convex-backend · GitHub)。

実際の使用感と導入のしやすさ

  • Skipの使用感: Skipはまだ新しいこともあり、ドキュメントやコミュニティ事例は徐々に充実しつつある段階です。Meta発の技術という安心感はあるものの、実プロジェクトに適用するにはアルファ版ゆえの慎重な評価が必要でしょう。しかし、実際に例に沿って小さなサービスを作ってみると、宣言的にデータフローを書くだけで自動更新される体験は非常に強力です。特に、従来ならSocketやPollingで実装していたようなリアルタイム更新ロジックが、Skip上では差分更新込みで面倒を見てくれるので、コード量が少なくて済む利点があります。デバッグ時には自分でデータソースを変更してみて、curlなどでエンドポイントに接続するとイベントストリームで結果が流れてくる様子を確認でき、挙動を追いやすいです (Getting started | Skip)。導入のハードルとしては、ネイティブランタイム利用時の環境構築(Nodeモジュールのビルド)や、既存DBとの連携設定などがあります。しかし一度セットアップしてしまえば、手元のマシンで全て完結する開発が可能で、インターネット接続のない環境やオンプレミス要件のプロジェクトでも活用できる柔軟性があります。
  • Convexの使用感: Convexは公式サイトでサインアップしてすぐに使い始められ、チュートリアルに沿って進めれば短時間で動くリアルタイムアプリを作成できます。「とりあえずデータベースとAPIを用意する」作業が不要なのはとても快適で、スキーマ定義からフロント実装までコード中心で完結します。たとえばReactプロジェクトでConvexを導入し、npx convex devでローカル開発を始め、Reactフック(useQueryなど)でデータを取得すれば、それだけでリアクティブにUIが更新されるのを確認できます。Firebaseなどに近い手軽さですが、違いとしてエンドツーエンドの型が効いているために、IDE補完が有用でタイプミスも減ります。導入しやすさの面では、クラウド版ならインフラ知識ゼロでも良い反面、Convexに合わせたアプリ設計が求められる点には注意です。つまり、既存のREST APIやSQLを多用したバックエンドからの移行は直線的ではなく、Convex流のアプローチに置き換える必要があります。しかし新規開発で採用するなら、バックエンド部分の多くをConvexが肩代わりしてくれるため、スピード重視のプロジェクトやプロトタイピングには最適と言えます。運用面でもクラウドに乗せておけばスケールやバックアップを意識しなくて済みます。ただしサービス依存になるため、サービス継続性や料金体系には注意する必要があります(無料枠以上の負荷がかかるプロダクトではコスト試算も重要です)。

どのような用途に適しているか

以上を踏まえ、SkipとConvexそれぞれに適したユースケースを整理します。

Skip Frameworkに適した用途:

  • 既存システムの上にリアルタイム集計レイヤーを設けたい場合(例:既存DBのデータを加工してリアルタイムダッシュボード提供)。
  • 複数のデータソースを統合してクライアントに配信するBFFを構築する場合。社内のマイクロサービス群の出力をまとめて常時更新されるUIを作る、といったケースで威力を発揮。
  • オンプレミス環境や独自クラウド上でリアクティブ機能を実現したい場合。外部サービスに頼れない環境で、自前ホスト可能なライブラリとして活用できる。
  • データ更新頻度はそれほど高くないが、読むクライアント数が多く最新性が重要な機能。Skipは読み取り最適化されているため、更新が少ない前提なら効率よく多数クライアントに配信できます(株価配信など高頻度更新は試験的領域かもしれませんが、SNSフィード程度なら想定内でしょう)。
  • フロントエンド開発者がバックエンドのリアクティブ処理を学びたい場合にも、Skipの概念は良い教材となります。React的発想をバックエンドに適用するデザインパターンに触れられます。

Convexに適した用途:

  • 新規のWebアプリ/モバイルアプリ開発全般。バックエンドを包括的に任せて、フロントとビジネスロジックに集中したいプロジェクト。特にリアルタイム性(チャット、コラボレーションツール、ライブフィードなど)が求められるもの。
  • 開発リソースが限られており、フルスタックを一人や小チームでまかなう場合。ConvexならDB管理やサーバ実装のボイラープレートが削減でき、迅速に開発できます。
  • プロトタイピングやMVP開発。アイデアを素早く形にしてユーザテストしたい場合に、インフラ構築の手間なくリアルタイム機能付きのバックエンドが用意できます。将来的にスケールしたら専用バックエンドを構築し直す前提でまずConvexで試す、といった使い方も。
  • フロントエンドエンジニア主体で開発を進めるサービス。馴染みのあるTypeScriptでデータ層を扱えるため、学習コストが低くすみます。複雑なSQLクエリを書いたりスケーリング戦略を考えたりすることなく実装可能。
  • マルチプラットフォーム対応のクライアントアプリ(Webだけでなくモバイルやデスクトップ)で、リアルタイム同期が必要な場合。ConvexはReact, Vue, Svelte, React Native, Swift, Kotlin, Rustなど多様なクライアントSDKを公式提供しており (Convex Overview | Convex Developer Hub)、一貫したデータ同期を各プラットフォームで実装できます。

学習コストや開発体験の違い

学習コストについて、Skipは新しいプログラミングモデル(リアクティブサービスの設計)を学ぶ必要があり、Reactの経験があるかどうかで理解のしやすさが変わるかもしれません。一方Convexはバックエンドレスに近いサービスで、習得しやすい反面「Convex流のやり方」に沿う必要があります。以下にポイントをまとめます。

  • Skipの学習ポイント: リアクティブプログラミングの概念、Skip特有のAPI(リソース、コレクション、マッパー等)、外部データソースとの連携方法。ドキュメントやサンプルコード (Getting started | Skip) (Getting started | Skip)を読み解きながら小さなサービスを作って慣れるのが良いでしょう。中級以上のバックエンド開発者であれば、概念自体は理解しやすいですが、実装スタイルが従来の命令的プログラミングと異なるため慣れが必要です。
  • Convexの学習ポイント: Convex CLIとプロジェクト構成、クエリ関数とミューテーション関数の使い分け、Convexが提供するAPI(データベース操作や認証連携など)の習得。これはFirebaseやSupabaseの学習に近く、ウェブ上のチュートリアルやガイドが豊富なので、それらを辿ることで短時間で主要機能を把握できます。TypeScriptに慣れていれば、ドメイン固有言語を覚える必要がない分スムーズです。スキーマ定義もコード上でJSONスキーマ or Zod等で行うため、コードを書きながらデータモデルを作る流れになります。

開発体験の違いは、自由度と統合度のトレードオフと言えます。Skipは自由度が高く、自分で環境を構築する分カスタマイズも自在ですが、逆に言えばフレームワークとしての境界が明確でその外側(例:HTTPサーバとの接続部分やデータソースそのもの)は自力で組み合わせます。Convexは統合された体験で、認証ひとつ取ってもConvex推奨の方法に乗るのが簡単でしょう。以下、開発体験の違いを箇条書きで示します。

  • Skip:
    • 長所: Node.jsのエコシステム内で完結するため、他のライブラリやフレームワークと組み合わせやすい。ローカルで完結する開発サイクル、馴染みのデバッグ方法(console.logやChromium DevToolsリモートデバッグ等)が使える。
    • 短所: 周辺のセットアップに知識が要る(例:PostgreSQLアダプタ利用時はDB自体の準備や接続設定が必要)。またフレームワークが新しいため情報が少なく、ハマりどころは自力で対処する場面もある。IDEの型支援はあるがConvexほど包括的ではなく、自前で型定義管理が発生する場合も。
  • Convex:
    • 長所: クラウドとローカル開発がシームレス。convex devでローカル実行→convex deployで即クラウド反映といった流れでデプロイが簡単。ダッシュボードでデータ閲覧やログ確認がGUIで行え、モニタリングも容易。何よりバックエンド実装をTypeScriptに集中できるため、チーム内でフロントとバックの言語統一による生産性向上が見込める。
    • 短所: BaaSゆえの制約もある。例えば特殊なデータベースチューニングやクエリ最適化はConvexにブラックボックスな部分が多く、自前DBほど細かな制御はできない。また、ローカルでの包括的なテスト(Convexの機能をモックする)は工夫が必要になる。サービス更新時にConvex側のアップデートに追随する必要もある(OSSなので重大変更はコミュニティで議論されるでしょうが、サービス依存である以上無視できません)。

どちらを選ぶべきか?指針

最後に、SkipとConvexのどちらを選ぶべきかについて一般的な指針を述べます。どちらも魅力的なアプローチですが、プロジェクトの性質やチームのスキルセットによって適性が変わります。

  • 既存システムへの追加機能や特殊要件がある場合はSkip: 例えば、「現在運用中のデータベースにリアルタイムAPIを追加したい」「オンプレ環境で完結させたい」「既存のマイクロサービス群を横断するリアルタイム集計を入れたい」等の場合、Skipの方が柔軟に対応できます。必要な部分だけ導入でき、他の部分は今まで通りの技術スタックを維持できます。また、バックエンドに精通したメンバーがいて新技術の検証に前向きであれば、Skipのユニークなモデルは試す価値があります。学習コストを払ってでも高度な制御とカスタマイズ性を求めるケースで選択肢になるでしょう。

  • ゼロから構築する新規サービスやプロトタイプにはConvex: フロントエンドメインのチームでバックエンドを迅速に構築したいならConvexが有力です。リアルタイム対応のチャットや通知システム、コラボアプリなど、Convexが想定するユースケースに合致するなら開発スピードが飛躍的に上がります。インフラ管理を気にせずスケールさせられる点もスタートアップや小規模サービスには魅力です。また、TypeScriptフルスタックでやりたいチームにも適しています。Convexは**「とりあえず動くものを早く作る」**のに向いており、もし将来的にスケールや要件複雑化で限界を感じても、その時に専門的なバックエンドに移行する戦略も取れます。

  • 学習コストとリスク許容度: チームが新技術採用に慎重で、実績のあるものを好むならConvexの方が情報も増えてきており安心感があります(すでにGitHubで数千スターを獲得しコミュニティが形成されています (convex-backend/README.md at main · get-convex/convex-backend · GitHub) (convex-backend/README.md at main · get-convex/convex-backend · GitHub))。Skipは将来有望ですがまだコミュニティ規模がこれからです。逆に「他にはない革新的な仕組みを試したい」「Meta発の技術をキャッチアップしたい」といった探索的姿勢があるならSkipは魅力的です。

  • 機能の必要性: 認証やファイルストレージなど包括的なバックエンド機能まで必要ならConvexが即戦力です。Skipではそれらは自前で補う必要があります。一方、特定のリアルタイム計算ロジックだけ実装したいのであれば、余分な機能がないSkipの方がシンプルで導入しやすいでしょう。

まとめると、Skip Frameworkは「バックエンドにおけるReact的発想」で既存環境にも統合しやすいリアクティブエンジン、Convexは「フロントエンド開発者でも扱いやすいBaaS的リアクティブデータベース」と位置付けられます。それぞれの強みを踏まえて、プロジェクト要件に合致する方を選ぶと良いでしょう。

参考文献:

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