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CNAB(Cloud Native Application Bundle)の概要と詳細

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近年、クラウドネイティブ技術の発展に伴い、CNAB (Cloud Native Application Bundle) と呼ばれる新しいパッケージ仕様が注目されています。CNABは2018年末にMicrosoftやDocker、HashiCorp、Bitnamiなど複数社の協力により発表されたオープンソースの仕様で、分散アプリケーションを環境に依存せずに1つのバンドルにまとめて配布・インストールすることを目的としています (Dockerとマイクロソフトが推進する新仕様「CNAB」とは? |ビジネス+IT)。本記事では、CNABの基本概念と目的、アーキテクチャ、実装例、既存ツールとの比較、メリット・デメリット、そしてユースケースについて、Kubernetesに精通したエンジニア向けに技術的な観点から詳しく解説します。

CNABの基本概念と目的

CNABはクラウドに依存しない汎用的なパッケージ形式の仕様です。複数コンポーネントからなる分散アプリケーションをひとまとめにし、環境に関係なく同じ方法で配布・インストールできるように設計されています (Cloud Native Application Bundles: A Simple Way to Install Software on Kubernetes (or Any Other Runtime) - Tanzu)。例えば従来、あるソフトウェアをインストールする際には、Kubernetesクラスタ向けのHelmチャートやYAML、仮想マシン向けのイメージ、あるいはクラウドプロバイダごとのスクリプトなど、デプロイ先ごとに異なるパッケージや手順を用意する必要がありました (Cloud Native Application Bundles: A Simple Way to Install Software on Kubernetes (or Any Other Runtime) - Tanzu)。このように運用担当者が環境ごとに大量の設定(しばしばYAMLファイル)と格闘しなければならない状況は、アプリケーションがより分散化するにつれて深刻化しています (Cloud Native Application Bundles: A Simple Way to Install Software on Kubernetes (or Any Other Runtime) - Tanzu)。

CNABの目的は、このインストール手順の煩雑さを抽象化して標準化することです (Cloud Native Application Bundles: A Simple Way to Install Software on Kubernetes (or Any Other Runtime) - Tanzu)。開発者はCNABを用いて、アプリケーションを構成するリソースや実行環境に関する情報をひとまとめに宣言的に定義できます。その定義に基づいて、ローカルのワークステーションからパブリッククラウドまであらゆる環境に、同じバンドルを使ってソフトウェアをデプロイ可能にするのがCNABです (Cloud Native Application Bundles: A Simple Way to Install Software on Kubernetes (or Any Other Runtime) - Tanzu)。言い換えれば、CNABは**「アプリケーションをどのようにパッケージし実行すべきか」を記述する標準仕様**であり、一度CNAB互換のパッケージを作成すれば、様々な実行環境に対して同一の手順で導入できるようになります。

CNABが強調する価値の一つに「環境非依存性」があります。特定のプラットフォーム(例えばKubernetesなど)に依存しないよう意図されており、インストール処理を行うコンテナイメージ(invocation imageと呼ばれます)に任意のロジックを実装できる柔軟性があります (Cloud Native Application Bundles: A Simple Way to Install Software on Kubernetes (or Any Other Runtime) - Tanzu)。このおかげで、CNAB自体はクラウドアグノスティック(クラウド事業者やオーケストレーターにロックインされない)な仕組みになっています (CNAB: Cloud Native Application Bundles)。実際、CNABを利用すれば、OpenStackやAzureのようなIaaS環境、KubernetesやNomadのようなコンテナオーケストレーター、ローカルDockerやACIのようなコンテナランタイム、さらにはオブジェクトストレージやデータベースサービスなどのPaaSまで、幅広い環境をターゲットにアプリケーションを配布可能です (cnab-spec/100-CNAB.md at main · cnabio/cnab-spec · GitHub)。また、オフラインの閉域ネットワーク(エアギャップ環境)でも自己完結型のパッケージとしてアプリケーションを届けられるため、チーム間・組織間での受け渡しやマーケットプレイスでの配布、さらにはIoTデバイスやエッジ環境へのデプロイにも応用できます (CNAB: Cloud Native Application Bundles) (cnab-spec/100-CNAB.md at main · cnabio/cnab-spec · GitHub)。要するにCNABは、クラウドネイティブアプリケーションのポータビリティ(可搬性)と一貫性を高めるために生まれた標準だと言えます。

CNABのアーキテクチャ(詳細)

CNABのアーキテクチャは、 「バンドル定義」と「インボケーション・イメージ(invocation image)」 という2つの主要要素から構成されています。さらに、それらを取り扱う実行エンジン(CNAB対応のツール)と、バンドルを保存・配布するためのレジストリが関係します。以下、この仕組みを詳しく見ていきます。

  • バンドル定義(Bundle Definition): アプリケーションのメタデータや構成情報を記述した定義ファイルです。形式はJSONで、標準ではbundle.jsonというファイル名になります。バンドル定義には次のような情報が含まれます (cnab-spec/100-CNAB.md at main · cnabio/cnab-spec · GitHub):

    • バンドル自体の名前、バージョン、概要説明、キーワードなどのメタデータ
    • インストール用コンテナ(後述するインボケーション・イメージ)の取得先および実行方法
    • ユーザーが指定可能なパラメータの一覧とデフォルト値
    • このバンドルがインストールするコンポーネント(コンテナイメージなど)の一覧
    • 実行時にバンドル内で必要となる認証情報(クレデンシャル)の一覧

    バンドル定義はアプリケーションの設計図に相当し、分散アプリケーションを構成する全コンポーネントと、そのインストールに必要な設定項目を網羅しています。CNABの仕様では、このbundle.json標準的なスキーマに従って記述されることが求められており、記述内容がこのスキーマに適合していれば「well-formed(整形式)」なバンドルとみなされます (Cloud Native Application Bundles: A Simple Way to Install Software on Kubernetes (or Any Other Runtime) - Tanzu)。また、後述するデジタル署名に対応するため、バンドル定義内で参照するすべてのコンテナイメージにはコンテンツダイジェスト(イメージのハッシュ値)を用いることが推奨されています (cnab-spec/100-CNAB.md at main · cnabio/cnab-spec · GitHub)。

  • インボケーション・イメージ(Invocation Image): バンドル定義に従ってアプリケーションのインストール処理を実行するコンテナイメージです。いわば「インストーラー」に相当するコンポーネントで、この中に実際の導入手順のロジック(スクリプトやプログラム)が封入されています。CNABバンドルは少なくとも1つのインボケーション・イメージを含み、このイメージがホスト環境に対して0個以上のコンポーネントをインストールします (cnab-spec/100-CNAB.md at main · cnabio/cnab-spec · GitHub)。例えば、インボケーション・イメージの中でKubernetesのクライアントを呼び出してDeploymentやServiceを作成したり、TerraformやAnsibleを実行してインフラ設定を行ったり、あるいは単純に複数のコンテナを起動するスクリプトを走らせたりすることが可能です。インボケーション・イメージはCNABにおけるエントリーポイントであり、CNAB対応の実行エンジンはこのコンテナを起動することでバンドルのインストール処理を開始します。

    インボケーション・イメージのコンテナ内部には標準化されたファイルシステムレイアウトが定められており、そこに先述のbundle.jsonも配置されます(例えば/cnab/bundle.jsonというパスにマウントされる) (cnab-spec/100-CNAB.md at main · cnabio/cnab-spec · GitHub) (Cloud Native Application Bundles: A Simple Way to Install Software on Kubernetes (or Any Other Runtime) - Tanzu)。また、バンドル定義で定義されたパラメータやクレデンシャルは、実行エンジンによって環境変数やファイル経由でインボケーション・イメージ内に注入されます (cnab-spec/100-CNAB.md at main · cnabio/cnab-spec · GitHub)。インボケーション・イメージ内のエントリーポイントとなるプログラム(一般には/cnab/app/runなどに配置される実行ファイル)は、注入された値を読み取り、指定されたアクション(後述)を実行します。CNABでは標準アクションとしてインストール(install)アップグレード(upgrade)、**アンインストール(uninstall)**が定義されており、実行エンジンは少なくともこれらをサポートしなければなりません (cnab-spec/100-CNAB.md at main · cnabio/cnab-spec · GitHub)。例えばinstallアクションではアプリケーション本体のデプロイ処理が行われ、uninstallではそれらの削除処理が行われる、といった具合です。なおCNABの仕様上、アクション指示は環境変数によってインボケーション・イメージに渡されます (cnab-spec/100-CNAB.md at main · cnabio/cnab-spec · GitHub)。

  • CNAB実行エンジン(Runtime): CNABバンドルを実際にインストール・操作するためのツールまたはエンジンです。具体的には、バンドル定義を読み取り、必要に応じてコンテナイメージ(インボケーション・イメージやアプリケーションの各イメージ)を取得し、インボケーション・イメージを実行する役割を担います。実行エンジンはバンドル定義に基づき、ユーザから提供されたパラメータやクレデンシャルをインボケーション・イメージに渡してアクションを起動し、その結果(成功/失敗や出力など)をユーザに報告します。CNABは**仕様(フォーマット)**であり、この仕様に従った実行エンジンの実装はいくつか存在します(後述の「実装例」参照)。たとえば、かつてのリファレンス実装であるduffleや、現在メインで利用されているporterといったCLIツールがCNAB実行エンジンに該当します (CNAB: Cloud Native Application Bundles) (CNAB: Cloud Native Application Bundles)。

  • バンドルレジストリ: CNABバンドル(特に厚いバンドル、後述)を保存し配布するための仕組みです。OCI準拠のコンテナレジストリにCNABバンドルを格納することが想定されており、Docker RegistryやHarborなどがそのまま利用できます (Cloud Native Application Bundles: A Simple Way to Install Software on Kubernetes (or Any Other Runtime) - Tanzu)。実際、CNABのレジストリ仕様ではOCIレジストリを用いたバンドルのプッシュ/プル方法が定められており、Docker社もCNABバンドルをOCIアーティファクトとして扱う機能に取り組んできました (Cloud Native Application Bundles: A Simple Way to Install Software on Kubernetes (or Any Other Runtime) - Tanzu)。これにより、CNABバンドルはコンテナイメージと同様のワークフローで各種レジストリに蓄積・配信できます。CNABバンドル専用の公開レジストリはありませんが、既存のコンテナイメージレジストリを使える点は利便性が高いです。さらに、CNABバンドルはコンテナイメージ同様にコンテンツアドレス可能であり、デジタル署名や証明書を用いて真正性の検証が可能です (CNAB: Cloud Native Application Bundles)。署名付きのバンドルを公開し、実行エンジン側でその署名とダイジェストの照合を行うことで、信頼できる配布元から改ざんされていないバンドルであることを確認できる仕組みも提案されています (Cloud Native Application Bundles: A Simple Way to Install Software on Kubernetes (or Any Other Runtime) - Tanzu)。

薄いバンドル (thin bundle)厚いバンドル (thick bundle): CNABではバンドルのパッケージ形態として「薄い(シン)バンドル」と「厚い(シック)バンドル」という概念があります (cnab-spec/100-CNAB.md at main · cnabio/cnab-spec · GitHub)。薄いバンドルはバンドル定義ファイル(bundle.json)のみを含むパッケージで、実際のコンテナイメージ本体は含まれていません。そのため、インストール時にはバンドル定義中の参照に従って必要なイメージをネットワーク経由で取得する必要があります。一方、厚いバンドルはbundle.jsonに加えて、バンドル内で使用されるすべてのコンテナイメージ(インボケーション・イメージおよびアプリケーションの構成要素のイメージ)をアーカイブに同梱したパッケージです (cnab-spec/100-CNAB.md at main · cnabio/cnab-spec · GitHub)。厚いバンドルは自己完結型であり、例えば単一のファイル(OCIレジストリからエクスポートした.cnabアーカイブなど)として持ち運びが可能で、オフライン環境やネットワーク帯域が限られる環境でもインストールが行えます (CNAB: Cloud Native Application Bundles)。一般に、開発中や内部利用では薄いバンドルが便利ですが、エンタープライズ向け配布や検証済みバンドルの提供には厚いバンドルが用いられることが多いです。いずれの場合でもbundle.jsonの内容(スキーマ)は同一であり、単にイメージが含まれているか参照だけかの違いとなります (cnab-spec/100-CNAB.md at main · cnabio/cnab-spec · GitHub)。薄いバンドルが有効に機能するには外部ネットワークへのアクセスなど環境要件が影響するため、その意味で厚いバンドルの方が**完全性(complete)**が高いパッケージと言えます (Cloud Native Application Bundles: A Simple Way to Install Software on Kubernetes (or Any Other Runtime) - Tanzu)。

以上がCNABを構成する主な要素です。要約すると、CNABのバンドルは 「アプリケーション記述(bundle.json)+ インストーラー実行環境(invocation image)」 であり、それをOCIレジストリ等で保存・配布し、CNAB対応ツールで実行することで環境に依存しないインストールを実現しています。

CNABの実装の具体例

CNABは仕様であり、その実装としていくつかのオープンソースプロジェクトが存在します。代表的なものをいくつか挙げ、簡単に触れてみます。

  • Porter: Microsoft主導で開発されているCNABツールです。CLIツールおよび周辺エコシステムからなり、既存のスクリプトやツール(HelmやTerraform、kubectl、Azure CLIなど)を組み合わせて宣言的にCNABバンドルを作成できるのが特徴です (CNAB: Cloud Native Application Bundles)。Porter自体がCNABの実行エンジンでもあり、porter installコマンドでバンドルのインストールができます。複雑なアプリケーションでもPorterのYAML定義にインストール手順を記述し、背後でCNABバンドル(invocation imageとbundle.json)を構築・実行することで、一括インストールを実現します。Porterはプラガブルな構成になっており、既存のHelmチャートやTerraformテンプレートをポーターに組み込んでCNAB化するといった使い方が可能です。

  • Duffle: CNAB仕様のリファレンス実装として提供されていたCLIツールです (CNAB: Cloud Native Application Bundles)。CNABバンドルのインストールやアンインストール、バンドルの作成など、仕様の全機能に対応する低レベルなツールでした。現在Duffle自体はアーカイブされメンテナンスされていませんが (CNAB: Cloud Native Application Bundles)、CNABの概念実証として重要な役割を果たしました。Duffleの経験から得られた知見はPorterなど後発ツールに引き継がれています。

  • Docker App: Docker社がかつて提供していたDocker CLIプラグインで、Docker Composeファイルにメタデータやパラメータを付加してアプリケーションをパッケージ化する取り組みでした (CNAB: Cloud Native Application Bundles)。Docker Appは内部的にCNABを使用しており、Docker環境向けのCNAB実装と位置付けられていました。しかし現在このプロジェクトもアーカイブされ、開発は停止しています (CNAB: Cloud Native Application Bundles)。Docker AppはCNABのコンセプトを実証する例でしたが、Porterのような汎用ツールに役割を譲った形です。

これ以外にも、CNABコミュニティから各種プログラミング言語向けのSDK(Go用のcnab-go、Rust用のcnab-rsなど) (CNAB: Cloud Native Application Bundles)や、VS Code向け拡張機能、OpenShift向けの実装など様々なプロジェクトが派生しています。実運用の文脈では、現在はPorterを用いてCNABバンドルを作成・管理するケースが多く見られます。例えばVMware (旧Pivotal) では、自社のKubernetes向けソフトウェアのインストール手段としてCNABを採用し、Porterを使って複数コンポーネントからなるアプリケーションを一括インストールする試みがなされています (Cloud Native Application Bundles: A Simple Way to Install Software on Kubernetes (or Any Other Runtime) - Tanzu) (Cloud Native Application Bundles: A Simple Way to Install Software on Kubernetes (or Any Other Runtime) - Tanzu)。このようにCNABは徐々にエコシステムが整備され、実用段階に入ってきています。

既存のパッケージ管理ツールとの比較(Helmなど)

CNABの特徴を際立たせるために、既存の代表的なパッケージ管理ツールであるHelmなどと比較してみます。

  • Helm(Kubernetes向けパッケージマネージャ)との比較: HelmはKubernetes上で動作するアプリケーションをChartと呼ばれる形式でパッケージ化し、kubectlコマンドの操作を自動化するツールです。HelmはKubernetes専用であり、デプロイ先はK8sクラスタに限定されます。これに対しCNABは前述の通りターゲット環境を限定しません。CNABバンドルのインボケーション・イメージ内でHelmコマンドを実行すればK8sクラスタにもデプロイできますし、別のスクリプトでAzureリソースを構築すればクラウドインフラにも展開できます。すなわち、CNABはHelmを内包・拡張する上位概念と言えます。実際、Porterを使えば既存のHelmチャートをそのままCNABバンドルに組み込むことが可能であり (CNAB: Cloud Native Application Bundles)、Helmユーザは自作のChartを再利用しつつより広範なリソースを含めた配布ができるようになります。

    また、HelmはChartsと呼ばれるパッケージにアプリケーションのKubernetesマニフェスト(YAML)一式を含めますが、コンテナイメージ本体はパッケージに含めず外部参照します。これに対しCNABの厚いバンドルでは、コンテナイメージも含めてパッケージ化できるため、ネットワークに接続できない環境でも動作するという強みがあります (CNAB: Cloud Native Application Bundles)。さらに、HelmはChartリポジトリという仕組み(またはOCIレジストリ機能)でパッケージを配布しますが、CNABはOCIレジストリに対応しているため既存のコンテナレジストリでそのまま流通させられる点も異なります (Cloud Native Application Bundles: A Simple Way to Install Software on Kubernetes (or Any Other Runtime) - Tanzu)。信頼性の面でも、CNABは署名付きバンドルによる厳格な検証が可能でセキュアな供給を実現できます (CNAB: Cloud Native Application Bundles)(Helmもプライベートレジストリや署名検証機能はありますが、CNABはより包括的にソフトウェア供給の安全性を考慮しています)。

  • その他のツールとの比較: KubernetesオペレーターやTerraform、Docker Composeなども比較対象になりますが、CNABはこれらと競合するというより補完的な位置付けです。例えばTerraformはマルチクラウドのインフラ構築には便利ですがアプリケーションデプロイそのものは扱いません。一方CNABは、インボケーション・イメージ内でTerraformを呼び出すことでインフラ構築からアプリ配置まで一連の流れをパッケージ化できます。同様に、Docker Composeで定義したマルチコンテナアプリケーションをCNABに取り込めば、Composeでは扱えないクラウドリソースも含めた配布が可能になります。BOSH(Cloud Foundryのデプロイマネージャ)のようにVMベースの複数VM/サービス展開にもCNABは対応可能です。実際、前述のようにかつてPivotalが提供していたソフトウェアは、Kubernetes向けにはHelmテンプレート、OpsManager向けにはBOSHリリースといった風に複数形式で提供されていましたが、CNABを使えば単一のバンドルでそれらを統一できる利点があります (Cloud Native Application Bundles: A Simple Way to Install Software on Kubernetes (or Any Other Runtime) - Tanzu)。このようにCNABは異種のツールやフォーマットをまとめ上げる統合パッケージとして作用し、既存ツールの長所を生かしつつ、弱点(環境固有で汎用性が低い・オフライン非対応 等)を補う存在となっています。

CNABのメリット・デメリット

最後に、CNABを採用することによる主なメリットとデメリットを整理します。

メリット:

  • 環境非依存・ポータビリティの向上: 同一のCNABバンドルを用いて、クラウド・オンプレミス・エッジなど異なる環境に対して一貫したデプロイを実現できます。ベンダーロックインがなく、マルチクラウド戦略にも適しています (CNAB: Cloud Native Application Bundles)。
  • 複数コンポーネントの一括管理: マイクロサービス構成のアプリケーションや、ミドルウェア+アプリ本体など複数要素を含むシステムを一つのアーティファクトで管理できます。インストールやアップグレード作業も同時に行われるため、部品ごとに手順が分散せず確実です (Cloud Native Application Bundles: A Simple Way to Install Software on Kubernetes (or Any Other Runtime) - Tanzu)。その結果、アップグレード時にも各コンポーネントの依存関係を意識する必要が減り、システム全体を**原子的(アトミック)**に扱えます。
  • インストール手順の簡素化と信頼性向上: CNABバンドルにはインストールロジックが含まれているため、利用者は単一のコマンドで導入が可能です。煩雑な手順を自動化でき、必要なパラメータや認証情報も一度入力すれば済むため、人為的ミスのリスクが減少します (Cloud Native Application Bundles: A Simple Way to Install Software on Kubernetes (or Any Other Runtime) - Tanzu)。特に設定項目の多いソフトウェアの配布において、設定漏れや順序ミスを防げる利点は大きいです。
  • オフライン環境への対応: 厚いバンドルを用いれば、ネットワークに接続できない閉ざされた環境(例えば機密性の高いオンプレミス環境やエアギャップ環境)でもUSBメモリ等を介してソフトウェアをインストールできます (CNAB: Cloud Native Application Bundles)。自己完結型のパッケージは災害対策や遠隔地へのデプロイにも有用です。
  • セキュリティ(署名と検証): CNABはバンドルに対する電子署名や証明書ベースの検証をサポートする仕様があり、悪意のある改ざんを検知できます (CNAB: Cloud Native Application Bundles)。ソフトウェアサプライチェーンのセキュリティ確保という観点でも、署名付きバンドルは信頼性の高い配布手段となります。
  • 既存ツールの再利用: CNABはそのインボケーション・イメージ内でHelmやTerraformなど既存のデプロイ手段を活用できるため、新たなDSLを一から習得する必要がありません。現在使っているデプロイスクリプトやツールチェインをラップしてパッケージ化できる点で学習コストを抑えつつ恩恵を得られます (CNAB: Cloud Native Application Bundles)。

デメリット:

  • 導入と学習コスト: CNAB自体は新しい概念であり、その思想や仕組みを理解するまでに一定の学習が必要です。特に、バンドル定義やインボケーション・イメージの作成にはHelm単体を使うよりも複雑さが伴います。CNABを扱うための専用ツール(Porterなど)の習熟も求められるでしょう。
  • ツールエコシステムの成熟度: 前述の通り現在積極的にメンテナンスされている実装はPorterなど限られています。過去のDocker AppやDuffleは開発停止となっており、CNAB自体はCNCFなどで標準化はされていますが、Helmほど広範に普及したとは言えません(2025年時点)。そのため、組織で採用する場合にはツールの選定やコミュニティの活発さに留意が必要です。
  • 汎用性ゆえの冗長性: 単一のクラスタ上で完結するシンプルなアプリケーションには、CNABはオーバースペックになる可能性があります。例えばKubernetes上のアプリ配布だけが目的ならHelmで十分であり、わざわざインボケーション・イメージを作ってCNAB化するメリットが少ないケースもあります。CNABは強力ですが汎用的である分、シナリオによっては不要な抽象化レイヤーを追加することになる点は考慮すべきです。
  • デバッグの難しさ: インストール処理がコンテナ内で行われるため、エラー発生時のトラブルシューティングが難しくなる場合があります。HelmであればKubernetesのイベントやログで直接トレースできますが、CNABではインボケーション・イメージ内のログを確認したり、場合によってはコンテナをデバッグ実行して原因を探る必要があります。適切にログやエラー出力を実装しておかないと問題の切り分けに時間を要するかもしれません。
  • 標準仕様の制約: CNABは仕様であるため、自由度が高い一方で標準に従う制約も存在します。たとえば、バンドル定義のスキーマに適合しないことはできず、また標準アクション(インストール等)以外のカスタムアクションを使う場合は利用側も対応した実行エンジンが必要になります。将来的な仕様拡張が進むことで改善される余地はありますが、現状では仕様に由来する制約条件を理解して設計する必要があります。

総じて、CNABのメリットはクラウドネイティブアプリケーション配布の汎用性と信頼性を飛躍的に高める点にあり、デメリットは新規性ゆえの学習コストや適用範囲の見極めにあると言えます。

CNABの活用方法やユースケース

最後に、CNABが具体的にどのような場面で活用できるか、ユースケースを紹介します。

  • マルチクラウド・ハイブリッドクラウド環境での統一デプロイ: 企業が複数のクラウドプロバイダやオンプレミス環境にまたがってシステムを展開する場合、環境ごとに異なるデプロイ方法を管理するのは大変です。CNABを使っておけば、一度作成したバンドルを各環境に配布するだけで済みます。例えば開発はローカルDockerで行い、本番はAWS上のKubernetesやAzure上のVMで動かすようなケースでも、CNABバンドル一つで対応可能です。

  • ソフトウェアプロダクトのエンタープライズ向け配布: ソフトウェアベンダーが自社製品を顧客環境に提供する際に、CNABは強力な手段になります。従来はインストールガイドに沿って管理者が手作業で構築したり、環境ごとに異なるインストーラを用意したりしていたところを、CNABバンドルを渡して「これを実行すれば環境問わず必要なものがすべてセットアップされます」という形にできます。特にオンプレミス向けには厚いバンドルで提供すれば、依存関係(特定のクラウドサービスやネット接続)が無くても導入可能なため、エンタープライズ顧客にとって利便性が高まります。

  • クラウドマーケットプレイスでの提供: AWSやAzure、GCPなどのマーケットプレイスでアプリケーションを提供する際にもCNABは役立ちます。クラウドごとに商品イメージを作成する代わりに、CNABバンドルを登録しておけば、利用者は各プラットフォーム上でCNAB対応のサービス(例えばAzure Cloud CLIや特定のオーケストレーションサービス経由)を通じて簡単にデプロイできます。マーケットプレイス事業者にとっても、CNAB対応のデプロイであれば異なるサービス群のセットアップを一括実行できるメリットがあります。

  • 複雑なアプリケーションスタックのデプロイ: マイクロサービスアーキテクチャやサーバレス、データベースクラスターなど、多岐にわたるコンポーネントで構成されるシステムの導入にもCNABは適しています。例えば、あるWebアプリケーション製品がコンテナ化されたサービス群に加えてデータベースやメッセージキュー、監視エージェントを必要とし、さらにクラウド上にストレージバケットやCDNの設定が必要だとします。CNABであれば、それらすべてのリソース準備とサービスデプロイを一つのフローにまとめ、自動実行できます。こうしたインフラとアプリケーションの統合デプロイは、DevOpsの自動化にも沿ったものであり、再現性のある環境構築を実現します。

  • エアギャップ(閉域)環境への導入: 製造業の工場内システムや防衛分野のシステムなど、外部ネットワークから隔離された環境では、ソフトウェアアップデートや導入作業が課題になります。CNABの厚いバンドルなら、必要なコンテナイメージをすべて抱えた状態で持ち運べるため、オフライン環境でも滞りなくセットアップが可能です。USBドライブ一つで大規模なソフトウェアスタックを展開できる点は、エアギャップ環境での運用を大きく簡素化します。

  • IoTおよびエッジコンピューティング: CNABはクラウドだけでなくIoTやエッジの分野にも応用できます (cnab-spec/100-CNAB.md at main · cnabio/cnab-spec · GitHub)。たとえば、遠隔地にあるエッジサーバやゲートウェイデバイスに対して、必要なコンテナ群やファームウェア、設定スクリプトをまとめてデプロイする場合、CNABバンドルを使えば一括して配信・適用できます。エッジ環境ではネットワーク帯域が限られることも多いため、厚いバンドルによる確実なデプロイは有効です。

以上のように、CNABは 「一度パッケージングすればどこでも動く」 というコンセプトのもと、クラウドネイティブ時代の様々なシナリオで活用が期待できます。その柔軟性から、今後さらにコミュニティによるツールやサービスの充実が進めば、HelmやTerraformと並んでインフラ/アプリケーション管理の重要なピースとなることでしょう。現時点で中級以上のエンジニアにとっては、CNABの概念と仕組みを理解しておくことが、マルチクラウド・ハイブリッド時代のソフトウェア配布戦略を考える上で大いに役立つはずです。

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