さて先日3か月の追放刑に処されたTim Petersですが、予想に反して謹慎が解かれた瞬間コミュニティに舞い戻り、今日も元気に胡乱な投稿を繰り返しています。
というわけで投稿を眺めていたら興味深い話を見付けました。
Even Guido van Rossum had a post on Discourse censored for mentioning these controversies.
あのGuido van Rossumでさえ、彼らに言及したためDiscourseの投稿を検閲されました。
This doesn’t seem believable. Does anyone know what Guido van Rossum could have said to warrant being censored? Who is even authorized to decide to suppress a post by Python’s greatest benefactor of all time?
信じられない。
何を言ったらGuidoが検閲を受ける羽目になるというのだ?
Python史上最大の恩人の投稿を拒否する権限など、いったい誰が持っているというのだ?
Guido van Rossumって誰?
Python史上最大の恩人Guido van Rossumって誰のことです?
Guido van Rossumは、Pythonの作者です。
かつてはBDFLとしてPythonを独裁していました。
その地位からは2018年に降りましたが、もちろん今でもPythonに対する最も影響の大きい人物であることは間違いありません。
そんな人の発言が削除されるとは、いったい彼はどんな酷い暴言を吐いたのでしょうか?
https://discuss.python.org/t/should-we-consider-ranked-choice-voting-for-sc-elections/61880/6
該当の発言はこちらです。
I don’t know much about voting systems, but I know someone who does.
Unfortunately he’s currently banned.
Maybe we can wait until his 3-month ban expires and ask him for advice?
私は投票システムにあまり詳しくないのですが、詳しい人を知っています。
残念ながら、彼はいま追放されています。
3か月待ってから、彼に意見を聞きませんか?
これが削除された発言です。
これが?
本当にこれが削除された発言?
はい、この発言で間違いありません。
どうして断言できるかというと、実際にこの発言が非表示になっているところを私もこの目で見たからです。
いやあスクショを撮っておかなかったことが実に悔やまれます。
直接的証拠が残っていないのは残念ですが、間接的証拠はいくつか残っているので、削除されていたことが間違いないことはわかってもらえると思います。
誰が消したの?
これはPythonの掲示板でも使われているDiscourseの仕様です。
一定以上のdownvoteが集まると自動で投稿が一定期間非表示になるという仕組みです。
また、モデレータはそれとは別に手動で非表示にしたり復活させたりといったことも可能です。
どういうことかというと、たったこれだけの内容が非表示にされるだけのdownvoteが集まったということであり、それはそれで極めて不自然ではあるのですが、とはいえ自然現象であることを否定することはできません。
そのため、非表示になったことを発見した当時も特に話のネタにはしませんでした。
つまり、今さらこの話を蒸し返して記事にしているということは、蒸し返すだけの新たな発見があったということです。
新たな発見?
ディスカッションスレッドの続きを見てみましょう。
To be clear, any Discourse post can at any time be hidden by community flags, if sufficient numbers (which may be no more than 1, depending on various factors) of users choose to flag a post.
誤解のないように言っておくと、ユーザによるマイナス評価がたくさん集まるとDiscourseの投稿は自動的に非表示になります。
Do note that moderators are in fact human and are able to make mistakes, like taking a weekend off or choosing not to be the one to take unilateral action.
モデレータも人間なので、週末に休みを取ったりして何も行動を起こさなかったりすることもあります。
In general, sure. But in this specific case none of those apply, and off-base speculations muddy this specific case.
You can read exactly (verbatim) what a mod said about it on my blog, although even there I left the mod’s name out of it.
They intentionally left Guido’s post hidden.
一般的に、そういうこともあるのはそのとおりです。
しかし、今回の特定のケースにおいてはそれらは当てはまりません。
彼らは、Guidoの投稿を意図的に非表示のままにしました。
意図的?
はて、どうしてそんなことを断言できるのでしょう?
The Puzzling Moderation of Guido
当時裏側でなされていた会話について、当人からTimにタレコミがありました。
質問者はMatthew Dixon Cowles、モデレータはタレコミ時点では実名でしたが、Timによって名が伏せられています。
Please tell me what rule Guido’s post violated.
Guideの投稿が、どの規則に違反したのか教えてください。
Multiple people indicated they felt that post was inappropriate through flags and private discussion.
Core team members are expected to act as role models for the community, and that post didn't match that expectation.
複数のユーザが、フラグおよびプライベートメッセージを通じて、その投稿は不適切だと感じたことを表明しました。
コアチームのメンバーはコミュニティのロールモデルとして行動することが期待されていますが、該当の投稿はその期待に答えていません。
You seem to be saying that Tim was banned for expressing certain opinions and expressing respect for his knowledge on a related subject is a satisfactory reason for you to cancel a post.
Is that right?
主題に関連してTimの知識に敬意を表明することは、投稿を削除するに足る十分な理由であるということですね?
No, your interpretation does not match our understanding of the situation.
If you’re concerned with moderation decisions beyond this, please send a report to the Code of Conduct team
いいえ、あなたの解釈は我々の理解と一致しません。
モデレーションチームの決定についてこれ以上の懸念がある場合は、CoCチームにレポートを送信してください。
その後、彼の提案に従ってCoCにメールを送ったものの、回答を拒否されました。
さらに言うと、Guide自身もモデレータに直接尋ねたところ、これまた無視されたということです。
以上をまとめると、非表示になるまではともかく、非表示になったあとで表示を復活させなかったのは、決してモデレータがバカンスに出かけていたからではなく、投稿の中身を確認したうえで意図的に復活させなかったということです。
まったくもって馬鹿げた話ですな。
その後削除される前に本文を保存していた者たちによって内容が流出し、非表示の中身がPython理事会以外には何ひとつ不都合のないものであることが明らかになりました。
当然ながらその不当な対処に批判が殺到し、最終的には上記の回答を寄越したモデレータとは別のモデレータの手によって復活したみたいです。
このあたりは裏側の出来事なのでいまいちはっきりとはわからないのですが。
しかし、こんな顛末を見ていると、そもそも最初に投稿が非表示になったことまで怪しく見えてきますね。
つまりは『非表示にされるだけのdownvoteが集まった』が本当に自然現象だったのかということですが。
なにせ彼らはPython本体を作っている、プログラミングのプロなわけです。
非表示されるに足るほどのdownvoteが自然に集まったように見せかけるなんて、彼らには造作もないことに違いありませんよ。
おまけのコミュニティ仕様変更
Discourseは、コミュニティによって非表示にされた投稿は、特定の操作によって閲覧することが可能です。
たまにある『気を付けて表示する』というやつですね。
Pythonの場合は、Discourseにログインしてある程度発言を繰り返し、一定の評価を得ると非表示の投稿も閲覧できるという設定でした。
『でした』?
はい。
この設定、一度非表示にされた投稿は誰も閲覧できないように変更されました。
これが2024/08/23のことです。
Guido van Rossumの投稿は2024/08/26です。
実に素晴らしいタイミングですね。
もちろんこれはGuidoを狙い撃ちにするために前もって仕様変更しておいたわけではなく、Tim Petersの追放関連によってトピックが荒れ放題になっていた時期なので、その対応のためであることは想像に難くないでしょう。
そして、その設定変更の最初の標的がたまたまGuidoになってしまったというわけですね。
仕様変更のタイミングが逆だったらもっと楽しいことになっていたと思いますが、流石にそこまでの面白展開はありませんでした。
感想
非表示にされるまではともかく、その後の対応が有り得ないってレベルで酷いですね。
よりによってGuido相手にそんな対応、周囲にどんな反応が巻き起こるかくらい誰でもわかりそうなものですが。
ということでPythonコミュニティの混乱はまだまだ続きそうです。
しかし、もう少し話題に上がっても良さそうなこの楽しい話題を、大手ITメディアは何故か総スルーしているんですよね。
RedditやHackerNewsみたいな掲示板サイトと、あと関係者による個人ブログ以外では、まとまった記事がほとんど見当たりませんでした。
どうしてだろう?
さて、先日から時折フォーラムの履歴を追ったりしているのですが、どうやら想像していたよりずっと根深い問題がありそうな気がしています。
ただ上記のとおりまとまった記事がなく、情報が様々な場所にとっちらかっていて収集がたいへんです。
そのあたりの歴史とかを追ってまとめている人のひとりやふたりいてもおかしくないと思うのですが、日本語はおろか英語でも見つけることができませんでした。
なんかあればいいんだけど。