私は、今年度意識したいこととしてデータの解釈というものを挙げていました。様々なデータから見える特徴を考えていった際に、ドメイン知識から考える仮説と分析結果が異なることが多くあります。そこで、すぐにビジネスに適用することは難しいかもしれませんが、学術的なデータ分析に関する研究にはどんなものがあるのかなと思い、「質的研究・量的研究・混合研究」について、特に質的研究・混合研究について自分向けにまとめようと思います。
質的研究・量的研究・混合研究とは?[1][2]
質的研究とは、当事者の視点から見える事象や人々との関わり、その人の心情などの内面的世界を理解することで、他のケースに応用できる示唆を見出すこと。
量的研究とは、大規模データを分析した結果を一般化すること。
⇒質的研究は問題を解決するための研究ではなく、潜在する課題を見つけるための研究であり、探索的な特性を有することで、一般的な統計解析(量的研究)とは異なる手段・目的をもったものであるものが大切となる。
また、質的研究と量的研究の両方の情報を合わせ持つ混合研究がある。混合研究とは、質的研究と量的研究の両者を相互補完し、組み合わせる研究方法で、質的データと量的データを一つの研究のプロセスの中で行い、結果を統合する研究方法として発展した研究パラダイムである。
方法論について[2]
質的研究の方法論として1990年代に提唱されたグラウンデッド・セオリー・アプローチについてまとめる。グラウンデッド・セオリー・アプローチ(grounded theory approach: GTA)とは、データに基づいて概念をつくり、その概念同士の関係性を見て相関関係や因果関係を推察する手法である。ほかにも、修正版グラウンデッド・セオリー・アプローチやSteps for Coding and Theorization(SCAT)、主題分析法など体系的・帰納的に質的データを分析する手法が提唱されている。様々な質的分析手法があるが、各々で共通していることは数値化できないデータからテーマやストーリー、パターン、理論があるかを考えることであり、質的データ分析は、仮説検証ではなく仮説生成であるという意識が大切であるという。また、いずれの手法であっても、どのようなデータから仮説や概念は生まれたのか、どのような思考プロセスが分析者にあったかを明示することが共通している。
混合研究に関する方法論として基本型としては以下3つに分類できる[3]。
収斂デザイン
質データ、量データを独立的に並行して収集する方法。各データ収集は独立して行われるため、双方のデータはもう一方のデータから影響を受けることはない。収斂するタイミングは各々のデータ解析の後となる。
説明的順次デザイン
量的データの収集や量的研究を先に行い、その結果について、後に行う質的研究によって深化する方法。
探索的順次デザイン
質的研究を先に行い、そこから導かれた仮説を後から行う量的研究により一般化したり、検証したりする方法。
混合研究では、これらの方法論を目的に応じて使いわける。混合研究において、質的データと量的データを統合する理由としては以下のようなものがある。
- 分析結果に複数の視点をもつため
- データを組み合わせて包括的に理解するため
- 量的な結果を質的に説明するため
- 質的結果と量的結果の両者を探求して背景情報を考慮して探求するため
- 介入プログラムの実施経過を観察するため
- 事例を説明するため
調べてみて
これまで研究法の流れについて要点をまとめてみましたが、実際にこれらの研究で大切にしている意味・行動の解釈はビジネスに適用する際にも大切なことであると思いました。以下の図1,2はDX時代に必要なスキルセットやそれぞれのスキルに関連した方法論をまとめたものです。
図1. DX時代のスキルセット[4] |
図2. 3つの研究方法[4] |
3つの方法論のうち数理演繹法や数理帰納法はこれまでまとめた量的研究において重視される方法論に当てはまると思いますし、意味解釈法は質的研究や混合研究が重視している目的に当てはまると思います。これらのように改めてデータサイエンティストに必要な力を見直すとともに、より広い視野でデータを見て解釈することができるよう勉強・実務への応用を試行錯誤していきたいと思います。
<参考文献>
[1]質的データ分析研究会
https://www.qdaa.info/qualitative-analysis/
[2]質的研究を実施するうえで知っておきたい基本理念
https://doi.org/10.24489/jjphe.2020-002
[3] 地域保健活動に活かす混合研究法:質と量 両者の統合から見えるもの
https://doi.org/10.32117/hokenshikyouiku.5.1_7
[4]第2回:データ社会におけるデータリテラシーとは何か?
https://thinkindata.info/column/582/