はじめに
リモートワークがベースになったことにより、オンラインミーティングの機会が増えた。
オフライン時と比較し、一人あたりの発言量が少なくなったり、議論の結論がスムーズに決まらなかったりと難しさを感じたことがきっかけで、体系的にファシリテートについて学んでみようと思い、ファシリテーションの教科書を読んだので、その印象に残った要点をまとめてみた。
どんな本なのか?
この本はファシリテーションについて、それはどのような技術であるのか、その目的や上手く議論を進行させるための考え方、手法が体系的に記載されている。
各章の序盤では、上手く議論を進行できていないパターンの具体的なやりとりが記載されているので、内容も入ってきやすいと思う。
ここからは、印象に残った本の要点を記載していく。
ファシリテーションとは何か?
ファシリテーションとは、議論の参加者に目的と理由を深く理解させ、具体的なあるべき姿を自ら描き、ワクワク感や当事者意識を持てるレベルまでの納得感(=腹落ち感)を生み出すコミュニケーションのこと。
そのファシリテーションを上手く行うため必要な技術、姿勢は下記。
- 「到達点に向け、論点を抑え、あるべき議論の姿を設計する技術(= 仕込み)」
- 「参加者の発言を引き出し、理解・共有し、議論を方向づけ、結論づける技術(= さばき)」
- 「問題解決」「構造的な話の理解」ができる思考力
- 「人の可能性を信じ、意欲、能力、知恵を引き出す」という姿勢
ファシリテーションはただ単に上手く会議を進行させたり、情報を共有するのではなく、「腹落ち感」をつくることが重要となる。
仕込み
この本でいう「仕込み」とは「到達点に向け論点を抑え、あるべき議論の姿を設計する技術」のこと。
そもそも議論をする理由とは「アクションに向けての合意形成」であり、それは下記の流れで行われる。
- 議論の場の目的の共有・合意
- アクションの理由の共有・合意
- アクションの選択・合意
- 実行プラン・コミットの確認・共有
事前に、このステップのどこから話を始め、どこを議論の到達とするのかを考えることが重要であり、そのために参加者の状況、議論内容の認識レベル、意見や態度を把握しておく必要がある。
そして、この流れに沿って議論を適切な方向に進めるためには、論点の把握が重要である。
その論点把握のステップは下記。
- 「広げる」(考えうる論点を幅広く洗い出す)
- 「絞り込む」(必要かつ重要な論点に重み付けする)
- 「深める」(意見が分かれるポイントや結論に大きな影響を与える論点を更に具体化する)
議論の出発点と到達点が決まったら、それぞれの部分で何を議論し合意すべきか論点を考える。
「絞り込み」の段階では下記4つを意識する必要がある。
- 議論するべき点
- 議論するべきでない点
- 議論する必要はないが、確認する論点
- おいておく論点
「この議論での論点は何なのか?」「これは今議論するべきなのか?」を常に頭に入れながら進めて行く。
また、そもそも議論をするうえで何が問題なのか?という点が曖昧なままスタートしてしまうことがある。
その問題意識を明確化する際には、あるべき姿と現状を明確にし、「なぜ」の前に「どこに」問題があるのかを明確にする。そうすることで、本質的でない議論で時間を無駄にすること少なくなる。
さばき
この本でいうさばきとは「参加者の発言を引き出し、理解・共有し、議論を方向づけ、結論づける技術」のこと。
その基本のステップは下記となる。
- 発言を引き出す
- 発言を理解し共有する
- 議論を方向づける
- 結論づける
ただ、ここでファシリテーターは主役になるのではなく、控え目な言動をこころがけるべき。
そして、発言を理解し共有することは最重要のスキル。そのためには下記の基本動作を繰り返す。
- 発言を聞き、理解する
- 発言を受け止めたことを発言者にはっきりと示す
- 理解を確認する
- 参加者全員が発言を理解できるようにする
多くの発言は「主張が不明確」「根拠が不足」「論点が欠落」しているので、発言者の主張が成立するとしたらどこがかけていて、本来どのようなものが必要なのかを推定しながら注意深く聞く必要がある。
ただ、前提は相手の言いたいことを理解し、適切な議論をするためであることを忘れてはならない。
議論を方向づけ、結論づける
議論を方向づける前に、発言に対する対応を決める必要がある。
その際、「いまここで議論すべき論点かどうでないか」が重要な判断基準 となる。
議論するべき論点であればそれを明確にし、論点を強化する。
議論するべきでない論点であれば、発言者の意見を論点に転換し、議論するべきか明確にする。
議論を適切に方向づけるには、「広げる」「深める」「止める」「まとめる」の4つの方向を理解することが有効。
最終的に議論をまとめ、結論づけるときには、決まったこと、きまっていないことを明確にし、参加者に確認する。
感情に働きかける
議論の場に参加する人の感情に配慮することも必要であり、感情に働きかけることが効果的である。
議論の初期段階では、創造的、活発、安心感がある雰囲気づくりを心がける必要がある。
ネガティブな感情をもっているのであれば、その環状を表に出させて認める。無関心であれば、関心を持てるように一定レベルの認識を形成する、もしくは感情を刺激することで、関心を醸成していく。
感想
この本を読むまでは、ファシリテーションという技術を「議論の参加者の意見を抽出しながら、議論を結論まで時間内に到達させるスキル」くらいの認識であったが、その解像度がより鮮明になった。
特に「論点の把握」や「議論の問題意識の明確化」など、日々業務で課題に感じていた部分は非常に参考なった。
ただ、ファシリテーターはどうあるべきか、どう進行させるべきかの骨格は掴めたと思うが、実業務では参加者の状況や論点など議論のパターンは無数にあり、この本でも記載があったがファシリテーションは非常に難易度が高い技術のため、日々実践していくのみだと思った。
本書では各フェーズや項目を更に詳しく説明しているので、日々会議に携わっている方は読んで損はない本だと思う。
参考文献
- ファシリテーションの教科書
- グロービス(著), 吉田 素文(執筆)
- 東洋経済新報社 出版