はじめに
目の前にあるいくつかの選択肢からいずれかを選択する場面は日常よくある話です。物流の現場では例えば運送会社の選定や、倉庫業者の選定など、数ある中から自分にとってどれを選択すべきかを整理するのはなかなか難しいことです。
本記事では、そういった際に計算によって自分の意思を数値化する方法として、AHP(Analytic Hierarchy Process)をご紹介します。
運送会社の選択
今回は例題として、運送会社の選択の問題を解いてみます。
あなたはとある食品メーカーの物流担当であり、この発売される新商品の物流網の構築をしています。発着地や商品の条件などから、委託可能な運送会社はA、B、Cの3社に絞られたとし、この3社について、料金、配送品質、リードタイムの3つの評価指標で判断を下すとしましょう。
こうした場合、星取表と呼ばれる以下のような表を作成した経験はどなたもあるのではないでしょうか。
料金 | 配送品質 | リードタイム | |
---|---|---|---|
A社 | 1万円 | 悪い | 遅い |
B社 | 3万円 | 良い | 遅い |
C社 | 2万円 | 普通 | 早い |
この表を作成したときに、「結局、得手不得手がどこの会社にもあり、どの評価指標を優先するか次第になってしまうな」と思い浮かんだことはありませんか?
この場合
- 料金を優先するならA社
- 配送品質を優先するならB社
- リードタイムを優先するならC社
という結論になります。
仮に料金を優先する、という明らかな命題が設定されていたとしても、実務上、料金さえ安ければ配送品質やリードタイムについてはどうでもよい、というケースはほぼありえず、それらの指標の優先度を設けながらも完全に無視するわけではないという、全ての指標をぼんやりと含有した選定を求められるのがほとんどです。
AHPを使うと、この 「どの指標をどの指標と比較して、どの程度優先させるのか」 をうまく計算に盛り込むことができます。
方法と結果
今回上げた3つの評価指標について、各評価指標感の比較をします。
「自分は料金と配送品質のどちらを優先したいのか」を考えて、その結果に対して数字を割り当てていくわけです。
この時、自分の思考から数字への変換が必要になります。今回は以下のように変換してみます。
点数 | アとイについて比較した結果 |
---|---|
5 | アの方がとても重要だ |
3 | アの方が重要だ |
1 | どちらも同じくらい重要だ |
1/3 | イの方が重要だ |
1/5 | イの方がとても重要だ |
この比較を今回上げた3つの指標からピックアップできる2つの組み合わせについて全て行っていきます。
以下の表は縦軸を横軸と比較したときに、どう考えるか、という記載ルールになっています。
(例えば、
料金と配送品質を比較したときに、配送品質の方が重要だ:1/3
逆に、配送品質と料金を比較したときに、配送品質の方が重要だ:3、となります)
料金 | 配送品質 | リードタイム | |
---|---|---|---|
料金 | 1 | 1/3 | 5 |
配送品質 | 3 | 1 | 1 |
リードタイム | 1/5 | 1 | 1 |
この作成された各行について、相乗平均(全て掛け算して、かけた回数$n$としたとき$n$乗根を取ります)を計算します。
- 料金:$\sqrt[3]{1 \times(1/3) \times5}=1.2$
- 配送品質:$\sqrt[3]{3\times1\times1}=1.4$
- リードタイム:$\sqrt[3]{1/5\times1\times1}=0.6$
算出された数字を合計し、割り返すことで、 どの指標をどの程度重視しているか、という個人の意思 を数値で表すことができます。(本記事では以下これを重要度と表現します。)
$1.2 + 1.4 + 0.6 = 3.2$
- 料金:$1.2/3.2= 38%$
- 配送品質:$1.4/3.2= 44%$
- リードタイム:$0.6/3.2=19%$
次は、これら各評価指標のそれぞれについて、運送会社を比較していきます。
この比較でも、先に用意した比較表を使用して数字を起こしていきます。
料金
A社 | B社 | C社 | |
---|---|---|---|
A社 | 1 | 1/5 | 3 |
B社 | 5 | 1 | 1/3 |
C社 | 1/3 | 3 | 1 |
配送品質
A社 | B社 | C社 | |
---|---|---|---|
A社 | 1 | 1/5 | 3 |
B社 | 5 | 1 | 1/3 |
C社 | 1/3 | 3 | 1 |
リードタイム
A社 | B社 | C社 | |
---|---|---|---|
A社 | 1 | 1 | 1/5 |
B社 | 1 | 1 | 1/3 |
C社 | 5 | 3 | 1 |
各行について相乗平均にてスコアを計算し、重要度の計算同様に合計値で割ることで割合を計算すると以下のようになります。
A社 | B社 | C社 | |
---|---|---|---|
料金 | $\sqrt[3]{1\times1/5\times3}=0.8$ $0.8/3=27%$ |
$\sqrt[3]{5\times1\times1/3}=1.2$ $1.2/3=40%$ |
$\sqrt[3]{1/3\times3\times1}=1$ $1/3=33%$ |
配送品質 | $\sqrt[3]{1\times1/5\times3}=0.8$ $0.8/3=27%$ |
$\sqrt[3]{5\times1\times1/3}=1.2$ $1.2/3=40%$ |
$\sqrt[3]{1/3\times3\times1}=1$ $1/3=33%$ |
リードタイム | $\sqrt[3]{1\times1\times1/5}=0.6$ $0.6/3.8=16%$ |
$\sqrt[3]{1\times1\times1/3}=0.7$ $0.7/3.8=18%$ |
$\sqrt[3]{5\times3\times1}=2.5$ $2.5/3.8=66%$ |
最後にこの算出した値へ、重要度を重みとしてかけた後、各社の合計値を計算します。
- A社:$0.27\times0.38+0.27\times0.44+0.16\times0.19=25%$
- B社:$0.40\times0.38+0.40\times0.44+0.18\times0.19=36%$
- C社:$0.33\times0.33+0.27\times0.44+0.66\times0.19=39%$
この数字が最も大きかったC社が、あなたにとって最も好ましい運送会社となります。
おわりに
今回はAHPと呼ばれる評価の具合を考慮した意思決定の計算方法をご紹介いたしました。
様々な企業活動の場面で、個人の意思を選択に反映させることが生じますが、その際になぜその選択をして、どの程度重視しているのか、という説明を求められる場面は多々あるかと思います。
AHPのポイントは思考から数値への変換表です。逆に言うと、ここの調整で結果は変わってきます。ひとつ、このAHPが計算できるフォーマットを作成しておけば、ディスカッションの場面で有効に使用できるのではないでしょうか。
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