アナログCMOS集積回路の設計基礎編
Chapter 2
Basic MOS Device Physics
第2章: 基本的なMOSデバイス物理学
概念のまとめ
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デプレッション領域の広がりとポテンシャルの変化:
- ゲート電圧 (VG) が増加すると、デプレッション領域の幅が広がり、酸化膜界面のポテンシャルも増加します。この時、構造はゲート容量とデプレッション電荷容量の直列接続に似た形になります。
- さらにVGが増加すると、インターフェースの電位は完全に正の値に達し、電荷キャリアがソースからインターフェースを経由してドレインに流れます。このとき、電荷キャリアの「チャネル」が逆転して流れが開始され、トランジスタがON状態になります。
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しきい値電圧 (Vth) の定義:
- Vthは「しきい値電圧」と呼ばれ、ゲート電圧がこの値を超えると、電荷キャリアの密度が増加し、ドレインからソースへの電流が流れ始めます。
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実際のVthの変化:
- 実際には、Vthは急激に増加するのではなく、滑らかに増加します。このため、Vthを正確に定義するのが難しく、半導体デバイスでは通常、NFET(n型MOSトランジスタ)において、基板がp型であるときにVthを定義します。
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Vthの数式:
- しきい値電圧Vthは以下のように定義されます:
[
V_{th} = \Phi_{MS} + 2\Phi_F + \frac{q\Delta\varphi}{C_{ox}}
] - ΦMSはポリシリコンゲートとシリコン基板の仕事関数の差であり、ΦFはFermiポテンシャル、Δφはデプレッション領域内の電位変化です。また、Coxはゲート容量です。
- しきい値電圧Vthは以下のように定義されます:
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Vthの変動要因:
- 基板がn型である場合、ゲート電圧が増加すると、デバイスの動作に影響を与えるため、ゲート容量や基板の種類に基づいてしきい値電圧が決まります。
式の解説
I = Q₀ ⋅ v
この式は、半導体バー内で電流が運ばれる様子を示しています。式の意味を分解していきます。
- I (電流): Iは電流の大きさを示し、単位時間あたりに流れる電荷量です。単位はアンペア(A)。
- Q₀ (クーロン/メートル): Q₀は、半導体バー内で1メートルあたりに存在する電荷量を示します。単位はクーロン(C)。
- v (速度): vは電荷キャリアの速度を示し、単位はメートル毎秒(m/s)。
この式は、電流が電荷密度とその移動速度によって決まることを表しています。
1. ドレイン電流の関係式 (式 2.24)
[
I_D = \frac{W}{L} \cdot \mu_n C_{ox} \left[ V_{GS} - V_{TH} - \gamma \left( \sqrt{2\Phi_F + V_{SB}} - \sqrt{2\Phi_F} \right) \right]
]
- I_D: ドレイン電流
- W/L: チャネルの幅と長さの比
- μ_n: 電子の移動度
- C_ox: ゲート酸化物の容量
- V_GS: ゲートとソース間の電圧
- V_TH: しきい値電圧
- V_SB: ソースと基板間の電圧
- Φ_F: Fermiポテンシャル
- γ: ボディ効果係数
解説:
この式は、MOSFETのドレイン電流を計算するためのものです。ゲート-ソース間電圧 V_GS がしきい値電圧 V_TH より大きくなると、トランジスタがONになり、電流が流れます。この式では、ボディ効果(γ)やソースと基板間の電圧(V_SB)の影響も考慮されています。
2. モデリング式(式 2.25)
[
I_1 = \frac{W}{2\mu_n C_{ox} L} \cdot V_{DD} \cdot (V_{in} - V_{out})^2
]
- I_1: 出力電流
- W/L: チャネルの幅と長さの比
- μ_n: 電子移動度
- C_ox: ゲート酸化物容量
- V_DD: 電源電圧
- V_in: 入力電圧
- V_out: 出力電圧
解説:
この式は、MOSFETの動作をモデル化したもので、入力電圧と出力電圧の差によって出力電流が決まることを示しています。このモデルは、MOSFETの動作を簡潔に表現しています。
3. チャネル長モジュレーション式 (式 2.26)
[
I_D = \frac{W}{L} \cdot \mu_n C_{ox} \left( V_{GS} - V_{TH} \right) \cdot \left( 1 + \lambda V_{DS} \right)
]
- I_D: ドレイン電流
- W/L: チャネルの幅と長さの比
- μ_n: 電子の移動度
- C_ox: ゲート酸化物容量
- V_GS: ゲートとソース間の電圧
- V_TH: しきい値電圧
- λ: チャネル長モジュレーション係数
- V_DS: ドレインとソース間の電圧
解説:
チャネル長モジュレーションは、ドレイン電圧が増加すると、チャネル長が縮む現象です。これにより、ドレイン電流 I_D が増加します。式の中のλは、この効果を示すモジュレーション係数です。
4. サブスレショルド動作式 (式 2.30)
[
I_D = I_0 \exp \left( \frac{V_{GS}}{V_T} \right)
]
- I_D: ドレイン電流
- I_0: 基準電流
- V_GS: ゲートとソース間の電圧
- V_T: しきい値電圧
解説:
サブスレショルド動作は、しきい値電圧以下で動作するMOSFETの特徴的な動作です。サブスレショルド領域では、電流が指数関数的に増加します。この式は、その関係を示しています。
まとめ
- MOSFETにおけるさまざまな現象とその影響を計算するための式を紹介しました。これらの式は、トランジスタの性能や動作特性を理解するのに不可欠です。
- ボディ効果やチャネル長モジュレーションなどの重要な現象が、MOSFETの動作にどのように影響を与えるかを理解するために、これらの式を使用します。