4章 1. OPアンプとは
OPアンプ(Operational Amplifier)は信号を増幅する半導体集積回路。
「スマホ」と同じように、日本では「オペアンプ」と略称される。
代表例:NJM4558D(新日本無線)、2回路入りDIP型。
電源電圧は±15Vが一般的。
- ピン配置と外形
外形は8ピンDIPが主流、SOPタイプもある。
1回路入り・2回路入りのタイプが存在。
OPアンプ単体では使えず、必ず抵抗・コンデンサと組み合わせて回路を構成する。
- 反転アンプの基本式
回路において入力を抵抗R1経由で負入力端子に入れ、出力を抵抗R2で負帰還する。
出力電圧は次式で与えられる:
Vout = - (R2 / R1) * Vin
符号がマイナス → 入力信号と極性が反転する。
- 実験での確認
R1=18kΩ, R2=180kΩの場合 → 理論ゲインは -10倍。
入力Vin = ±0.1V DCを与えると、出力Voutは約±1V(反転して10倍)。
実測値は +0.95V, +1.008Vなど。理論値とほぼ一致(ゲイン ≈ 10倍)。
入力をAC正弦波 0.2Vp-p にすると出力は 2Vp-p → ゲイン10倍。
- 抵抗値の選び方
例:
R1=1kΩ, R2=10kΩ → ゲイン10
R1=100kΩ, R2=1MΩ → ゲイン10
抵抗比でゲインが決まる。実際には入力インピーダンスも考慮する必要がある。
- 入力インピーダンスと信号源インピーダンス
反転アンプの入力インピーダンスはR1で決まる。
信号源の出力インピーダンスZ0が無視できないとき、実効的には:
Vout = - (R2 / (R1 + Z0)) * Vin
例:R1=100Ω, R2=1kΩ → 理論ゲインは -10。
しかしZ0=50Ωなら、実効ゲインは -6.67。
よって条件:
R1 >> Z0 (目安:R1 > 100 * Z0)
もしZ0が無視できない場合は、非反転アンプの採用が望ましいOPアンプ基礎まとめ(反転・非反転アンプ)
- 反転アンプの特長
基本式:
Vout = - (R2 / R1) * Vin
特長その1:入力インピーダンスが R1 で決まる。
→ 信号源インピーダンス Z0 の影響を受けやすい。
特長その2:電流入力・電圧出力のアンプが構成できる。
→ フォトダイオードのような電流出力センサを直接接続して光強度を電圧に変換可能(トランスインピーダンスアンプ)。
- 非反転アンプの原理
基本式:
Vout = (1 + R2 / R1) * Vin
入力と出力の極性は同じ(反転しない)。
例:R1=20kΩ, R2=180kΩ のとき → ゲインは 10 倍。
- 非反転アンプのイメージ
テコの比率で考えられる(R1 と R2 の比率でゲインが決まる)。
抵抗値そのものではなく比率が重要。
- 実験による確認
Vin = +1V DC 入力 → Vout ≈ +9.97V
Vin = -1V DC 入力 → Vout ≈ -9.97V
ゲインは約 10 倍(誤差わずか)。
AC入力(1kHz, 0.2 Vp-p) → 出力は 2.0 Vp-p、ゲイン 10 倍。
- 非反転アンプの特長
入力インピーダンス Zin が非常に高い。
→ 信号源インピーダンス Zout の影響を受けにくい。
センサ信号の増幅に適している。
入力未接続だとノイズを拾いやすい → 100kΩ〜1MΩの抵抗で入力をプルダウン。
過大入力から保護するためにダイオード(例:1N4148)を使用可能。
- 入力インピーダンスの測定
方法:入力に抵抗(1MΩ)を直列接続して電圧変化からバイアス電流を測定。
測定例:
Vin=0V → バイアス電流 IB0 = 18.0 nA
Vin=10V → バイアス電流 IB10 = 15.1 nA
計算式:
Zin = ΔVin / ΔIB = 10V / (18.0nA - 15.1nA) ≈ 3.45 GΩ
結果:入力インピーダンスは数 GΩ と非常に大きい。
温度や個体差で数値は変動する。
- 抵抗選びの注意点
ゲインは抵抗 R1, R2 の比で決まる。
理想的に 10 倍ゲインを得るためには「正確な比率の抵抗」が必要だが、実際には抵抗値に誤差がある。
抵抗には温度特性もあるため、精度は完全ではない。
実用上は「約 10 倍」で問題ない場合が多い。
精度要求に応じて:
一般用途 → 誤差 5% 程度で十分。
高精度用途 → 誤差 0.1% 以下が必要。
抵抗精度とオフセット電圧が与える影響
1. 抵抗の選び方
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金属被膜抵抗(metal film resistor)は 1% 以下の精度があり、入手容易で実用十分。
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0.5%、0.1% などさらに高精度品もあるが価格や入手性は低下。
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特徴:温度係数 T.C.R.(Temperature Coefficient of Resistance)が 50 ppm/℃ 以下 → 温度による変化が小さい。
- 例:1MΩ の抵抗 → 温度変化で 50Ω 程度しか変わらない。
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さらに高精度が必要なら、金属箔抵抗(metal foil) や 抵抗ネットワーク を利用する。
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1GΩ のような超高抵抗も特殊用途で使用されるが、一般的ではない。
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実装例:KOA製 MFシリーズ(1/4W, 高精度, 温度安定性あり)。
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調整用に可変抵抗を入れる方法もあるが、時間とともに機械的変化が起こるため長期安定性には不利。
2. オフセット電圧とは
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理想的なOPアンプ:Vin=0V → Vout=0V。
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実際のOPアンプ:内部に微小な「オフセット電圧 Voffset」が存在するため、Vin=0VでもVout≠0V。
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基本式(非反転アンプの場合):
Vout = Voffset + (1 + R2/R1) * Vin
-
Voffset はプラスの場合もマイナスの場合もある。
-
結果として、出力電圧には「入力信号に対する増幅分」+「オフセット電圧の影響」が重畳する。
3. ゲインとオフセットの関係
-
出力に現れるオフセット成分:
Vout(offset) = Voffset * (1 + R2/R1)
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ゲインが大きいほど、オフセット誤差はそのまま増幅される。
計算例(Voffset = 0.42 mV)
- ゲイン10倍 → Vout(offset) = 4.2 mV
- ゲイン20倍 → Vout(offset) = 8.4 mV
- ゲイン50倍 → Vout(offset) = 21 mV
- ゲイン100倍 → Vout(offset) = 42 mV
→ 高ゲイン回路ではオフセット誤差の影響が無視できなくなる。
4. 実験での確認(非反転アンプ例)
- 入力 Vin=1.000V → 出力 Vout=9.98V。
- 設計ゲインは10倍なので理想出力は 10.000V。
- 実際のゲイン = 9.98 倍 → 誤差は 0.02V(20mV)。
この誤差の要因は2つ:
- 抵抗比の誤差 → ゲインが設計通りでない。
- オフセット電圧 → 出力に直流誤差を加算。
5. 誤差の分離
- 抵抗に誤差がないと仮定すると:
Vout = Vin × 10 + Voffset × 10 = 10.0042V - 実際の測定結果は 9.98V。
- 差分 0.02V は「抵抗誤差」と「オフセット誤差」が合わさったもの。
6. 入力換算オフセット電圧
-
出力の誤差を入力側に換算して考えると分かりやすい。
-
例:出力 Vout = 0.001V、R1=10kΩ, R2=90kΩ の場合:
Voffset = Vout * (R1 / (R1+R2)) = 0.001V * (10k / 100k) = 0.0001V = 0.1 mV
-
このオフセットがゲイン10倍で出力され、結果 1mV となる。
7. 高精度OPアンプの利用
- 一般的なOPアンプ(例:NJM4558D)は Voffset が数百 µV ~ 数 mV。
- 高精度アンプ(例:OPA2277PA)は Voffset が数十 µV 以下。
- 実験例:Voffset=0.1mV、ゲイン10倍 → 出力誤差は 1mV。
- これに高精度抵抗(ネットワーク抵抗SMシリーズなど)を組み合わせれば、理想値に極めて近い特性を実現可能。
8. 誤差のまとめ
-
出力誤差は次の要因から成る:
- 抵抗の誤差(比のズレ、温度係数)
- オフセット電圧(内部起因、ゲインで拡大)
- 温度変動(抵抗値やオフセット電圧の温度依存性)
-
実用上の対策:
- 抵抗は金属被膜 1%以下を標準。
- 高精度用途 → 金属箔抵抗や抵抗ネットワーク。
- OPアンプは低オフセットタイプを選ぶ(例:OPA2277PA)。
- 高ゲイン設計時は特にオフセット誤差に注意。
ボルテージ・フォロワ(Voltage Follower)
1. 基本概要
- 定義:入力電圧をそのまま出力するゲイン1倍の回路。
- 別名:ユニティゲイン・バッファ。
- 特徴:電圧ゲインは 1、入力と出力の電圧は等しいが、入力インピーダンスは極めて高く、出力インピーダンスは非常に低い。
- 役割:信号を「そのまま伝える」+「電流を供給できる」ので、インピーダンス変換に使われる。
2. 動作原理
-
オペアンプの非反転入力に信号を入れ、出力を反転入力に直接帰還させる。
-
OPアンプの「差動入力はゼロに近づく(バーチャルショート)」性質を利用。
-
結果として、入力電圧 Vin と出力電圧 Vout は等しくなる:
Vout = Vin
3. 代表的な用途
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インピーダンス変換
- 信号源が高インピーダンスの場合、そのまま負荷を駆動できない。
- フォロワを挟むことで、負荷が重くても入力信号を正しく伝送できる。
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信号バッファ
- ADCの入力前段に入れることで、サンプリング時の負荷を軽減する。
-
絶縁・安定化
- 回路間の相互干渉を防ぐ。
4. 特性
- 入力インピーダンス:非常に高い(理想的には∞)。
- 出力インピーダンス:非常に低い(理想的には0Ω)。
- ゲイン:1倍。
5. シミュレーションと実験結果
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直流解析
- 入力が5Vなら、出力もほぼ5Vとなる(誤差はμVレベル)。
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交流解析
- 入力が変化しても同じ波形が出力される。
- 周波数が高いと、OPアンプのスルーレートやGB積によって遅れや歪みが出る。
-
スルーレートの制限
- 急峻な矩形波や高周波入力では出力が追従できず、波形が丸くなる。
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容量負荷の影響
- 出力に大きな容量負荷がかかると発振する場合がある。
- 対策として直列抵抗を入れることが多い。
6. 注意点
-
理想回路では完全に Vin = Vout だが、実際には
- 入力オフセット電圧
- バイアス電流
- スルーレート制限
- GB積(利得帯域幅積)の制約
が存在し、周波数特性や大振幅信号で差が出る。
-
発振のリスク:容量性負荷や高周波信号で不安定化する。
1. OPアンプのデータシートの歩き方
- OPアンプは多種類あり、用途に応じて選定する必要がある。
- 入力オフセット電圧 $V_{io}$
→ 出力に誤差を与えるため、精密用途では小さい値が望ましい。
→ 反転/非反転増幅回路での出力式にオフセット電圧項が加わる。 - データシートでは、入力バイアス電流、スルーレート、入力インピーダンス、出力インピーダンス、電源電圧範囲、利得帯域幅積(GBW)などを確認する。
2. 高速動作とスルーレート
-
スルーレート:出力電圧の最大変化速度 [V/μs]。
→ 出力が入力波形に追従できる速度の指標。
→ 大信号や高周波入力時に重要。 -
OPアンプの最大周波数特性(フルパワーバンド幅)は次式で表される:
$$
f_{FP} \approx \frac{S_{om}}{2 \pi V_p}
$$ここで $S_{om}$ はスルーレート、$V_p$ は入力振幅。
3. 電流帰還型OPアンプの特徴
- 入力段が電圧帰還型と異なり、入力バイアス電流が比較的大きい。
- 入力バイアス電流と抵抗の積でオフセット電圧が発生しやすい。
例:$I_{bias} = 10 \mu A$, $R = 1 k\Omega$ → オフセット = 10 mV。 - 高速・広帯域用途に適するが、抵抗値設計に注意が必要。
4. フェライトビーズと周波数特性
- 高周波で安定化させるため、帰還抵抗に並列してフェライトビーズを使用することがある。
- フェライトビーズのインピーダンス特性は MHz〜GHz 帯域で効果的。
- 不安定発振の抑制や DC 特性の改善に寄与。
5. 高速パワーアンプ LT1206 / LT1210
- LT1206: 出力電流 100 mA 級、スルーレート 900 V/μs、帯域幅 ~52 MHz。
- LT1210: 出力電流 1.1 A 級、スルーレート 900 V/μs、帯域幅 ~35 MHz。
- 高速信号駆動、大電流負荷駆動用途に最適。
- 高周波特性を活かして、信号増幅やドライバ回路に応用される。
6. 要点整理
- データシートでは 入力オフセット・バイアス電流・スルーレート・GBW を重点的に確認。
- スルーレート制限により正弦波出力が歪む場合がある。
- 電流帰還型アンプは抵抗値に敏感、広帯域応用に強い。
- フェライトビーズは高周波安定化に有効。
- 高速パワーアンプ(LT1206/1210)は大電流・高周波を扱える。