$$
\def\bra#1{\mathinner{\left\langle{#1}\right|}}
\def\ket#1{\mathinner{\left|{#1}\right\rangle}}
\def\braket#1#2{\mathinner{\left\langle{#1}\middle|#2\right\rangle}}
$$
#量子センシング理論
今回は、量子センシングの一番基本的な理論の部分について解説したいと思います。量子センシングに関しては、こちらの記事に簡単な入門記事を書いています。
##ラムゼイ干渉
今回は、基本的な量子センシングのプロトコルである、ラムゼイ干渉を用いた量子センシングについて解説します。そもそも量子センシングとは、量子ビットの重ね合わせ状態といった量子的なコヒーレンスを利用した計測技術です。そして、重ね合わせ状態に用意した量子ビットが、種々の摂動によって位相を獲得します。この獲得した位相を評価することで、外場を評価することができるのです。そして、この位相差を検出する際に、有用な手法がラムゼイ干渉なのです。
具体的に、ラムゼイ干渉のプロトコルを確認しながらみていきましょう。ラムゼイ干渉は、以下のパルスシーケンスのように、二つの$\pi/2$パルスを量子ビットに与えることで実現されます。
##ラムゼイ干渉のプロトコル
###1. 初期状態の生成
量子ビットの初期化を行います。
$$\ket{\psi}=\ket{0}$$
###2. π/2パルス
量子ビットを重ね合わせ状態に用意。
$$\ket{\psi}=\frac{1}{\sqrt{2}}(\ket{0}+\ket{1})$$
###3. 時間発展
位相シフト$\phi$が生じる。(ここでは、$\phi=\pi$を考える。)
$$\ket{\psi}=\frac{1}{\sqrt{2}}(\ket{0}+e^{i\phi}\ket{1})$$
###4. π/2パルス
ここで、量子ビットが獲得した位相変化に関する情報を知りたいのだが、このままだと、量子ビットの射影測定、つまり$\hat{\sigma}_z$に関する測定を行っても、位相変化に関する情報を得ることができません。そこで、再度$\pi/2$パルスを照射することで、$\hat{\sigma}_z$基底で測定した際に、その位相変化の情報が得られるようにします。
$$\ket{\psi}=\frac{1}{\sqrt{2}}(\frac{1}{\sqrt{2}}(\ket{0}+\ket{1})-e^{i\phi}\frac{1}{\sqrt{2}}(\ket{0}-\ket{1}))=\frac{1}{2}(1-e^{i\phi})\ket{0}+\frac{1}{2}(1+e^{i\phi})\ket{1}$$
###5. 状態観測
最後に量子ビットの測定を行う。この時、$\ket{0}$と$\ket{1}$がそれぞれ観測される確率は、
$$P_0 = |\braket{0|\psi}|^2=\frac{1}{2}(1-\cos{\phi})$$
$$P_1 = |\braket{1|\psi}|^2=\frac{1}{2}(1+\cos{\phi})$$
となります。これらの確率をプロットすると以下のような干渉が観測されます。この干渉をラムゼイ干渉と呼ぶのです。
もうすこし、分かりやすいように干渉信号とその時のブロッホ球の振舞いを同時に示しておきます。
この図のように、位相シフトの大きさによって$\ket{0}$を検出する確率が変化するのです。
##ラムゼイ干渉を用いた量子センシング
ここで、ラムゼイ干渉を用いた量子センシングの具体例を考えてみましょう。代表的な例として、磁場によって量子ビットの周波数が$\omega$から$\omega+\Delta\omega$に変化すると仮定します。
この時のハミルトニアンは、
$$H=\frac{\omega}{2}\hat{\sigma}_z$$
と記述されます。つまり、ラムゼイ干渉を用いて、Z軸周りの回転による位相シフトを読みだすことにより、外場の大きさ、この場合磁場の大きさを測定することができるのです。