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揺れ動く経緯

Last updated at Posted at 2018-09-06

世界の正確な記述には位置と時刻が不可欠です。最近では GPS と NTP の普及によって、位置の記録には緯度と経度、時刻の記録には UTC をお手軽に使えるようになり、私達はかつて無い精度で世界を記録出来るようになりました。ただ、一見揺るぎなく見えるこれらの位置と時刻も、地球という天体を基にしている事を思い出してください。

地球は一見毎日正確な動きを繰り返しているように見えますが、様々の要因により細かく観察すると実はフラフラ揺れ動いています。ということはそれを基準にした緯度と経度と時刻も本質的にはあやふやな存在だという事です。そのようなあやふやさを技術的にどのように乗り越えたのか興味があって調べてみました。

まず、緯度、経度、時刻それぞれについて、揺れ動く原因になりそうな点についてまとめます。

  • 緯度とは赤道面をゼロ度とした南北の角度です。言い方を変えると地球の自転軸を90度とした角度という事になります。しかし、地球の自転軸は極運動を行っており、北極は半径 10 m 程度の範囲内で移動しているそうです。という事は自転軸をそのまま緯度の基準にしてしまうと、同じ場所の緯度が毎日微妙に違ってしまいます。
  • 経度とは、グリニッジ天文台付近をゼロ度とした東西方向の角度です。しかし、グリニッジ天文台はもちろん地球上のどの地面もプレートテクトニクスによってお互い移動しています。東日本大震災のような大きな地震ともなると 27 cm も動いたそうです。ということは、どの大陸を基準にしても緯度の基準は動いてしまうという事になります。
  • 時刻とは、一日の長さを 24 時間とする基準を元に定められた時間的位置です。しかし、地球の回る速度は微妙に変動しています。これを補正するのがおなじみ「うるう秒」です。うるう秒は地球の観測によって定められるので、未来の時刻は正確に決定出来ない事になってしまいます。

極運動の補正

。。。実はよくわかりませんでした。

The Earth Orientation Parameters によれば、極の位置は IERS Reference Pole を基準に計測されるとありますが、IERS のサイトから肝心の IERS Reference Pole の 定義を見つける事が出来ませんでした。

極運動の観測 及び The “Real” Definition of “ITRF” に 1900 年から 1905 年に観測された極位置の平均を Conventional International Origin と定めたとありますので、それが今でも IERS Reference Pole として使われているのかも知れません。

という事は赤道の位置はある時点 (1900 - 1905 の平均) で固定されていて、移動しない(多分周囲の天体に対して?) という事になります。

プレートテクトニクスの補正

IERS基準子午線 に以下の記述がありました。

IRMは、IERSネットワークに関与している何百もの地上局の基準子午線の最小二乗法による加重平均によって決定される。

ということは、こちらは大陸移動に応じて微妙に更新されている事になります。Network description に実際の観測局のリストらしき物があります。これも ITRF に正式な定義があるはずなのですが、私の英語力では探しきれませんでした。すみません。

うるう秒の補正

正確な時刻の表現には、一秒の正確な定義と開始点が必要になります。一秒の定義はわりあいシンプルで、次のようになっています。

La seconde est la durée de 9 192 631 770 périodes de la radiation correspondant à la transition entre les deux niveaux hyperfins de l'état fondamental de l'atome de césium 133. - Unité de temps (seconde)

フランス語ですが、SI Brochure Preface to the 8th edition によると正式な文書はフランス語だし、どうせ日本語で読んでも良くわからないのでそのまま紹介しました。余談ですが、この国際単位を定義する SI brochure は大変素晴らしいです!定義は明確だし、URL もフレンドリーです。仕様とはこうありたいです。ちなみに日本国の仕様書とも言える平成四年政令第三百五十七号計量単位令別表第一(第二条関係)での定義は

セシウム百三十三の原子の基底状態の二つの超微細準位の間の遷移に対応する放射の周期の九十一億九千二百六十三万千七百七十倍に等しい時間

となっています。さて、二つの時刻を比較するにはある共通の時点から同じ単位で測った数値が必要になります。こちらは 国際原子時 (TAI) として定義されています。ただ、国際原子時の原点の定義というのが見つかりませんでしたが、BIPM の Notes on Coordinated Universal Time という文書には、

TAI is an international time standard. It is calculated by the BIPM from the reading of some 400 atomic clocks located in metrology institutes and observatories in more than 40 countries around the world. The unit interval of TAI is exactly one SI second at mean sea level. The origin of TAI is such that UT1-TAI was approximately 0 on 1 January 1958.

ということで、1958年1月1日 が原点だと言及がありました。

この国際原子時というのはある時点から適当な単位を基に積算した物なので、しばらくすると不安定な地球の自転はずれてきてしまいます。これでは不便なので、私達の日常の生活には国際原子時をうるう秒で補正した世界協定時 (UTC) という物が使われています。まとめるとこうなります。

  • 正確な一秒の単位は SI で決められている。
  • 国際原子時 (TAI) はだいたい 1958年1月1日 を原点とした時刻。一秒の定義は SI で定められ、地球の自転とは同期していないので不便。
  • 世界時 (UT1) とは、地球の自転を観測して得られた時刻。一秒の定義が一定していないので不便。
  • 世界協定時 (UTC) とは、一秒の定義は SI と同じだが、UT1 との差が一秒未満に収まるよううるう秒を入れたもの。

結論

結論としてはこうなりました。

  • 緯度の基準となる極の位置は歴史的に定められていて変動しない。
  • 経度の基準となる基準子午線は観測によって定期的に改定される。
  • 日常の時刻の基準となる世界協定時 (UTC) は観測によって定期的に改定される。将来にわたって絶対時刻を示す国際原子時 (TAI) が別に定められている。
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