はじめに
JST SPRING(次世代研究者挑戦的研究プログラム)は,博士後期課程学生の研究支援プログラムです.各大学がJSTに応募し採択されることにより,それぞれの大学内で対象者に経済的支援がなされます.筆者はその支援対象者の一人です.
その経済的支援には,研究奨励費(生活費相当)として月間15-20万円程度(大学によって異なる)の支給が含まれます。ただし,研究奨励費は税法上雑所得として扱われるため,所得税と住民税の課税対象となる上,確定申告が必須です.
本稿では,JST SPRING生の税金について簡単に説明します.
おことわり
法律上非税理士が税務相談を行うことはできません.
また,個々の事例における内容の正確性についても保証することはできません.
不明な点がありましたら,お近くの税務署にお問い合わせください.
1. 所得税と住民税
1年間の収入が103万円以上ならば,所得税がかかります.JST SPRING生の収入は確実にこの金額を上回りますので,必ず所得税がかかります.所得税の額は,現在以下の表に基づいて算出されます.
出典:国税庁
一方で,1年間の収入が100万円を超えると住民税がかかります.住民税は所得割と均等割に分けられます.所得割は課税所得の割合で決められる金額で,都道府県民税・市区町村税を合わせて 10% です(これは誰でも同じです).均等割は,全員に同じ額課される税額であり,都道府県民税が1,000円,市区町村税3,000円です.住民税ではないですが,加えて1,000円の森林環境税も全員に課されます.
住民税の所得割の金額は前年の所得で決定されます.したがって,2-3月に行った確定申告に基づいてその年の住民税額が決まります.
2. 税額の算出方法
ではまず,「課税される所得金額(課税所得)」を算出します.
簡単に言うと,「課税される所得金額(課税所得)」は給与所得と雑所得の和から各種控除を引いた額になります.
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給与所得
給与所得はすべての勤務先の給与を合計した額から給与所得控除を引いた額になります.
給与所得控除は,以下の表の通り金額に応じて決定されます.
出典:国税庁 -
雑所得
雑所得は,給与所得などの所得に当てはまらない所得で,副業での収入などが当てはまります.JST SPRINGの研究奨励費もこちらに当てはまります.
雑所得には経費を計上し減額することが可能です.経費はこの雑所得の収入を得るために必要な費用のことです.
この給与所得と雑所得の和が所得の合計となります.ここから各種の控除を引いていきます.基礎控除48万円をはじめとし,国民年金・国民健康保険料に払った金額などを所得の合計から引くことができます.
所得の合計から控除額を引いたものが,課税所得となります.
所得税は,課税所得に収入額に応じた税率を乗じた金額となります.なお,平成25年~令和19年まで「復興特別所得税」として、所得税額の2.1%の金額が「復興特別所得税」として加算されます.
住民税は,課税所得の10%の所得割に均等割5,000円(森林環境税を含む)を足した金額です.
3. JST SPRING生の経費
JST SPRING生の税負担を軽減するために重要なのは,雑所得における経費です.研究奨励費として受け取り金額の中に,必要経費を計上し雑所得の額を少なくすることによって,税負担を軽減することが可能です.
筆者は先日税務署へ行き,種々の品目について研究奨励費に経費を計上することができるかどうか問い合わせを行いました.
その結果ですが,授業料・大学への交通費・学会費・物品代(PCなど)・書籍代・消耗品代など,研究に関わるものと認められる支出については経費として扱うことが可能ということでした.
ただし,経費として扱うためには 領収証の保管(5年間) が必要です.確定申告の際に求められるわけではありませんが,税務調査があった場合領収証がないと経費として認められません.
4. 経費を計上するメリット
領収証の保管など,面倒なことをやるメリットがあるのかという点ですが,筆者は十分にあると考えます.
ここでは例として,給与所得0円で研究奨励費を年間200万円受け取る人の場合(国民年金支払いあり,国民健康保険料支払いなし)を考えます.
経費を計上しない場合,課税所得が130万円ほどとなりその15%程度が所得税・住民税額となるため,両税合わせて約20万円の金額になります.
一方で,授業料を含む70万円を経費として計上した場合を考えます.その場合,課税所得が60万円ほどであり,税額は 約10万円 になります.
この単純な場合であっても 約10万円 ほどの大きな税額の差が生じます.さらに,博士課程学生の場合は研究奨励費以外にもアルバイトやインターンシップなどでほかの(給与)収入を得ている人も多いことが考えられます.所得税は収入が大きいほど税率が上がりますので,ほかの収入を得ている人のほうがむしろメリットが大きいです.
5. おわりに
このように,JST SPRING生の授業料等は経費として認められるとの見解が得られましたので,知見を共有しています.ただし,最初のおことわりにも示しました通り,個々人の場合について必ず当てはまるという保証はありませんので,所属先やお近くの税務署に確認し申告間違いのないようお気をつけください.
なお,JST SPRING生で青色申告することをすすめる記事等もありますが,青色申告は所得が事業所得である場合に認められます.筆者の所属する大学の研究奨励費では「雑所得」であると明記されており(各大学で異なるかもしれませんが),青色申告できない可能性も高いです.各大学や税務署により判断が異なってくる可能性もありますので,十分注意してください.
また,皆様ご存じの通り博士課程学生への支援で規模の大きいものにJST SPRINGのほかに学振DCがあります.学振DCで支給される生活費相当の支給は「給与」になりますので,本稿と同様にはできません.
参考資料