OpenAI社の最新モデル "o1" と "o1 pro mode" は構造式を解釈できるか
はじめに
OpenAI社が発表した新モデル "o1" および "o1 pro mode" の化学構造式理解能力について検証を行いました。4oとの比較も交えながら、実際の医薬品構造式を用いて各モデルの回答精度と解釈の深さを評価しました。
検証方法
2つの医薬品の構造式を提示し、以下の質問を行いました:
質問2: 「構造をよく見て推察してください。また、DECIMERで読み取ったSMILES式も参考にしてください。」
CN(C)C/C=C/C(=O)NC1=C(C=C2C(=C1)C(=NC=N2)NC3=CC(=C(C=C3)F)Cl)O[C@H]4CCOC4
結果
テストケース1: ゲフィチニブ
o1 pro mode & o1の回答
両モデルとも完璧な回答を示しました:
- 化合物名(ゲフィチニブ)を正確に特定
- IUPAC名を正確に提示
- 薬理作用(EGFRチロシンキナーゼ阻害)を説明
- 臨床用途(非小細胞肺癌治療)まで言及
4oの回答
- 構造の特徴(四環系、メトキシ基、ピペラジン環、ハロゲン置換基)は認識
- しかし具体的な薬品名の特定には至らず
- より慎重な回答姿勢を示す
テストケース2: アファチニブ
o1 pro mode
- 化合物名を正確に特定
- 詳細な構造解析を提供(4-アニリノキナゾリン骨格、置換基の詳細など)
- SMILES表記の妥当性まで検証
o1の回答
- 構造を誤って解釈(PDE5阻害薬系と判断)
- 非常に詳細な構造解析を提供するも、最終的な結論が不正確
4oの回答
- 基本的な構造特徴の記述に留まる
- 具体的な化合物同定には至らず
考察
-
認識精度の違い
- o1 pro modeが最も高い精度で化合物を同定
- o1は詳細な分析能力を持つが、時として誤った結論に至る
- 4oは慎重なアプローチを取り、確実な情報のみを提供
-
解析の深さ
- o1 pro modeとo1は構造式の詳細な解析が可能
- 4oは基本的な構造特徴の認識に留まる
-
信頼性
- o1 pro modeが最も信頼性の高い結果を示す
- o1は詳細な分析を提供するが、正確性に課題
- 4oは限定的だが安全な回答を提供
結論
o1 pro modeは医薬品の構造式解析において優れた性能を示し、正確な同定と詳細な構造解析が可能でした。一方、標準のo1も詳細な分析は可能ですが、正確性には課題が残ります。4oは基本的な構造認識に留まりますが、より慎重なアプローチを取ることが特徴的です。
補足
この検証はわずか2つの事例に基づくものであり、より包括的な評価にはさらなる検証が必要です。また、各モデルの性能は今後のアップデートにより変更される可能性があります。
回答全文
テストケース1: ゲフィチニブ
o1 pro modeの回答
これは、EGFR(上皮成長因子受容体)チロシンキナーゼ阻害薬として知られる「ゲフィチニブ (Gefitinib)」の構造式です。
- IUPAC名の一例:
N-(3-クロロ-4-フルオロフェニル)-7-メトキシ-6-[3-(モルホリン-4-イル)プロポキシ]キナゾリン-4-アミン
非小細胞肺癌などの治療に用いられる分子標的薬の一種で、EGFRの活性化を阻害することでがん細胞の増殖を抑制します。
o1の回答
これは第1世代EGFRチロシンキナーゼ阻害薬として知られる「ゲフィチニブ (Gefitinib)」の構造式です。
3-クロロ-4-フルオロアニリン部分がキナゾリン骨格の4位に結合し、6位にはモルフォリンプロポキシ基、7位にはメトキシ基が置換された「4-(3-クロロ-4-フルオロフェニルアミノ)-7-メトキシ-6-(3-モルフォリノプロポキシ)キナゾリン」という構造をもっています。
- 一般名: ゲフィチニブ (Gefitinib)
- 作用: EGFR(上皮成長因子受容体)チロシンキナーゼ阻害薬
- 用途: 非小細胞肺がん(NSCLC)の治療薬として使用されます。
4oの回答
この構造式は、有機化合物の分子式を示しています。具体的な物質名を特定するには、以下の情報を基に分析する必要があります:
-
この分子には以下の特徴が見られます:
- 四環系の中心部分
- メトキシ基(-OCH3)
- ピペラジン環
- フルオロ基(-F)およびクロロ基(-Cl)
-
主に薬理活性を持つ化合物、特に医薬品に関連する分子に似た特徴を持っています。
この化合物の詳細な名称を知るには、CAS番号や関連文献情報を検索する必要があります。あなたが化合物名を特定したい場合、さらに具体的な文脈を教えていただければと思います。
テストケース2: アファチニブ
o1 pro modeの回答
ぱっと見ただけでも、「4‐アニリノキナゾリン」骨格に「3-クロロ・4-フルオロ」の置換基が入り、さらにテトラヒドロフラン環([O!-!C!-!C!-!C!-!C])がぶら下がっているうえ、(E)‐ブテンアミド部分からジメチルアミノ基が伸びている――という特徴的な構造になっています。
これは第2世代EGFR阻害薬として知られる アファチニブ(Afatinib) の構造式です。
参考までに、アファチニブの典型的な SMILES は文献やデータベースごとに細部の書き方は異なるものの、下記のようになります(立体配置や二重結合の(E)/(Z)表記などで変化します)。
CN(C)C/C=C/C(=O)NC1=C(C=CC2=C1N=CN=C2NC1=CC(=C(C=C1)F)Cl)O[C@H]3CCOC3
ご提示の SMILES
CN(C)C/C=C/C(=O)NC1=C(C=C2C(=C1)C(=NC=N2)NC3=CC(=C(C=C3)F)Cl)O[C@H]4CCOC4
と同じ骨格・置換基を表しており、アファチニブであると判断できます。
o1の回答
まず結論から言うと,この構造は市販の代表的な医薬品ではなく,いわゆる「PDE5 阻害薬系」のスキャッフールド(ピラゾロ[4,3‐d]ピリミジン核)を持つ“類縁体”あるいはアナログ分子とみられます。少なくともシルデナフィル(バイアグラ)やバルデナフィル(レビトラ),タダラフィル(シアリス)等の主要な PDE5 阻害剤そのものとは一致しません。以下,その理由や読み解き方を順を追って解説します。
1. SMILES をざっくり分解してみる
ご質問いただいた DECIMER 解析結果の SMILES は
CN(C)C/C=C/C(=O)NC1=C(C=C2C(=C1)C(=NC=N2)NC3=CC(=C(C=C3)F)Cl)O[C@H]4CCOC4
これをざっくりパーツに分けると,下記のようになります。
-
(冒頭)
CN(C)C/C=C/
部分- これは「ジメチルアミノ基 (N(C)C)」が付いたプロペン鎖(–CH=CH–)に見えます。
- つまり,
\C=C\
はアミンから伸びる 2 重結合を含む 3~4 個くらいの炭素鎖と推定できます。
-
C(=O)N
で始まるアミド結合- 上記のアルケン鎖と「C(=O)N–」でつながっているので,いわゆる「(ジメチルアミノ)アルケンアミド」の形です。
-
中心の芳香族縮環部:
C1=C(C=C2C(=C1)C(=NC=N2)... )O[C@H]4CCOC4
- SMILES の途中にある
C(=NC=N2)
は,ピラジン様/ピリミジン様の 2 つの窒素が入ったヘテロ芳香環を示唆します。実際,ピラゾロ[4,3-d]ピリミジン(あるいは非常に近い骨格)によく出てくる表記です。 - PDE5 阻害薬(シルデナフィル類縁体など)でおなじみの「ピラゾロ[4,3-d]ピリミジン核」が思い出されます。
- SMILES の途中にある
-
置換基:
NC3=CC(=C(C=C3)F)Cl
- 縮環ヘテロ環から –NH– を介して「3-クロロ–4-フルオロ置換ベンゼン環(アニリン様)」がぶら下がっていることがわかります。
- 実際に “vardenafil(バルデナフィル)” なども「クロロ+フルオロ」の組合せをフェニル環にもつことで知られます(ただし位置は 2-Cl,4-F であることが多く,ここは微妙にずれている)。
-
O[C@H]4CCOC4
の部分- ここは四員炭素+酸素(つまりテトラヒドロフラン,THF)型の五員環がエーテル結合でぶら下がっているように見えます。
- シルデナフィルやバルデナフィルなどはスルホンアミド (–SO_2–) を含むのが定番ですが,この SMILES ではそうしたスルホン基が無く,代わりにテトラヒドロフラン骨格が置かれている点が特徴的です。
以上を総合すると,「ピラゾロ[4,3-d]ピリミジン核 +(3-Cl,4-F)フェニルアミノ置換 + ジメチルアミノアルケンアミド + テトラヒドロフラン」という,PDE5 阻害薬様の骨格を持ちながらも,市販の主要 ED 治療薬(シルデナフィル,バルデナフィル,タダラフィル,アバナフィル,ウデナフィル,ミロデナフィルなど)とははっきり異なる置換パターンになっています。
2. PDE5 阻害薬「らしさ」の根拠
- PDE5 阻害薬の多くは,ピラゾロ[4,3-d]ピリミジン(または似た二重環) に,アニリン部分が –NH– で直結している構造が定番です。
- とくに,バルデナフィル (Levitra) は「2-Cl,4-F」フェニルを持ち,シルデナフィルは「スルホンアミド (–SO_2–)」を持つなど,それぞれ置換基は違いますが,「ピラゾロ[4,3-d]ピリミジン + アニリン」が基本骨格。
- ここでも似たような縮環と,フェニルに Cl と F が入った構造が見られるため,「PDE5 阻害剤系の派生化合物では?」と推測できます。
3. しかし「既存品」そのものではない
先述のとおり,
- シルデナフィルやバルデナフィルには “スルホンアミド基” が必ず入っていますが,この SMILES には見当たりません。
- タダラフィルはまったく別の(インドール様)縮環骨格で,さらに置換パターンも大きく異なります。
- アバナフィルやミロデナフィル,ウデナフィルなど既存のいわゆる “~afil” 系とも合致しません(ハロゲン置換やテトラヒドロフランの有無が異なる)。
よって市販薬として有名な PDE5 阻害剤「そのもの」ではない,あるいは非常に近縁な“研究開発品”か“未承認アナログ”と考えるのが自然です。
4. まとめ
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骨格
ピラゾロ[4,3-d]ピリミジン系の縮環に,3-クロロ・4-フルオロ置換ベンゼン環,そしてテトラヒドロフラン基やジメチルアミノプロペンアミド部分が付いている。 -
推定される機能
この種の縮環+アニリン置換は PDE5 阻害活性を狙った化合物によく見られるため,“ED 治療薬の類縁体” もしくは “研究用 PDE5 阻害薬” である可能性が高い。 -
既存の主力 PDE5 阻害薬(シルデナフィル,バルデナフィルなど)との違い
- スルホンアミドではなくアミド結合。
- ハロゲン位置(2-Cl,4-F ではなく 3-Cl,4-F)。
- テトラヒドロフラン環が導入されている。
- 全体として公知の “~afil” とは置換パターンが合わない。
したがって,「この分子は “典型的な市販 PDE5 阻害薬” ではなく,それらと同系統(ピラゾロ[4,3-d]ピリミジン)ながら置換基が異なるアナログ化合物」と考えるのが妥当です。いわゆるサプリメント等に混入しがちな「未承認 PDE5 類縁体」の一種か,新薬研究段階の候補化合物かもしれません。
付言:IUPAC 名が必要な場合
OPSIN 等の自動命名ツールを使えば機械的には IUPAC 名を引き出せますが,かなり長大になるはずです。実際問題としては,
「ピラゾロ[4,3-d]ピリミジン骨格に (3-Cl,4-F)‐フェニルアミノ基,
テトラヒドロフランオキシ基,
そして (ジメチルアミノ)‐プロペンアミド鎖を付加した化合物」
といった形で要点をまとめる方が分かりやすいでしょう。
4oの回答
この化合物の構造式を見る限り、薬理活性を持つ可能性がある化合物に似た特徴が見られます。この化合物は多環芳香族化合物と、アルコール、アミド、エーテル基が含まれています。また、塩素(Cl)とフッ素(F)が芳香族環上に置換されていることが特徴です。
DECIMERから読み取られたSMILES式:
CN(C)C/C=C/C(=O)NC1=C(C=C2C(=C1)C(=NC=N2)NC3=CC(=C(C=C3)F)Cl)O[C@H]4CCOC4
この化学式を解釈すると、次のような特徴を持つ化合物である可能性があります:
- アミド結合 - 抗炎症薬や抗腫瘍剤でよく見られる。
- ヒドラゾン類似構造 - ピリミジン環に関連する官能基が付いており、抗菌作用が期待される可能性。
- 芳香族ハロゲン化物 - これらはしばしば薬効を高めることが知られています。
この構造は、医薬品候補化合物や研究用リード化合物に該当するかもしれません。この化合物の用途や特性について、さらに詳しい情報を調べるためには、SMILES式を使用して化学データベース(PubChemやChemSpiderなど)で検索することが有用です。
構造式や化学特性について追加の分析が必要でしたら、さらにお手伝いできます。