1. はじめに 〜なぜ今、「Cline」でのAI駆動開発に注目したのか?〜
普段AI関連の仕事をしている私は、日々、AI技術の進展が驚くほど速いことを身をもって痛感しています。毎朝、X(Twitter)での投稿で、新着論文やニュースをチェックするたびに、「1日見ないだけで置いていかれる!」と焦りを感じるほどです。
私自身、日頃からAIを活用した開発業務に従事しているため、仕事の中ではChatGPTなどのAIモデルとの対話を頻繁に行っています。以前なら数時間かけて調査していた内容も、AIモデルに問いかけて数分で解決できるようになり、もはやAIとの会話形式の相談は日常業務に欠かせない存在となりました。
そんなある日、部内のSlackで部員から、こんな投稿が流れてきました。
「最近、『Cline』を使ってみたけど、Copilotと次元が違う。マジで生産性が10倍になる。というより、Cline使うのが標準の世界になるから、Cline使いこなせない人の生産性は1/10になるというべきか。」
正直、話を聞いた当初は、
- 「生産性10倍」は、ちょっと言いすぎではないか?
- ClineでのAI駆動開発は興味あるけど、環境を整えるのが面倒くさそう…
- 興味はあっても、本業の仕事が忙しく、まとまった時間がどうしても取れない…
- それに今の仕事は、開発というより、開発のマネージメントだし、未だ自分で試さなくていいかも?
と思ってしまい、積極的には動けませんでした。
しかし、内心では強い興味をもち続けていました。そこで先日、ほんの短い時間だけ勇気を出してClineを試してみた結果…。
驚きました。想像を遥かに超えて便利でした。
ただ、実際にQiitaやネット上の他の記事を見てみたところ、「インストール手順」や「使い方」的な記事は多くても、「開発現場でリアルにどれぐらいの時間が削減できるのか?」「生産性に本当に影響があるのか?」という実務目線のリアルな情報はまだ少ない ように感じました。便利なのは理解できても実務で使ったときのリアリティが伝わってこない——そんな印象を受けました。
そこで、この記事では私が実務において具体的にClineを活用したらどれくらい時間節約が実現できそうか、その効果を誇張なしで正直に共有したいと思います。
もちろん現状のClineには限界もあり、実際試してみて思った以上に効率化できなかったケース、依然としてエンジニア自らが介入すべきポイントは確実にあります。そのあたりのリアルな温度感や正直な評価についても、しっかり触れていきたいと思っています。
AI駆動開発に興味はあるけど、まだ試せていない、実際に時間や手間が削減されるか疑問に思っている…そんなあなたの参考になれば幸いです。
2. Clineとは?
本題の前に、そもそもClineをご存知でない方向けに簡単に説明します。
Cline とは、ChatGPTのような強力なAI(大規模言語モデル)を用いて、開発作業をコマンドライン(CLI)から自動化・効率化 できるAI開発支援ツールです。
特徴をまとめると、
- 日本語や英語などの自然言語のプロンプトを入力することで、コード生成、コード修正、テスト作成など、さまざまな開発工程を自動化できます
- ターミナル(CLI)環境に特化しており、普段使っている開発環境に自然な形で馴染み、複雑なセットアップが不要で、導入が簡単です
詳しいインストール方法や基本的な使い方は公式サイトやQiita内の優れた導入記事がすでに多数存在するため、本記事では割愛します。例えば、【Cline解説】さぁ!今日から納期直前のアナタも定時帰り!があります。
私は、VSCodeをインストールし、claude 3.7 sonnetに接続するように設定しました。
Claudeを選んだのは、精度が良いと同僚に聞いていたためです。
最近、開発から遠のいていたこともあり、VSCodeも今回初めてインストールしました。
また、英語だと理解に時間がかかるので、精度は落ちるのかもしれませんが、Custom Instructions(対話型AIでいう、システムプロンプト)に「日本語で回答して」と書きました。
次の章からは、私が実際に業務をイメージしながら、Clineを使ってみて「本当に生産性が劇的に向上したのか?」「どれぐらい具体的に時間短縮につながったのか?」を実務目線で正直に記載していきます。
3. 導入前に感じていた悩み・課題(導入前の心情)
Clineを導入する前、私は下記のような悩みや懸念を抱えていました。
-
「本当に業務レベルの開発に耐えられる品質のコードを生成できるのか?」という疑問
対話型のAIでも、Qiitaなどで提示されているサンプルコードを生成できるのは知っていましたが、業務で利用できる複雑なコードを生成できるかは分かっていませんでした。 -
「導入や環境セットアップが簡単と紹介されているが、本当に業務で日常的に使えるレベルの準備は短時間で済むのか?」という懸念
ネットでは「簡単・手軽」と書かれている情報が多いものの、実務環境に本当にマッチする使い方をするには、実際には結構手間取り、結局時間を要するのではないか?という不安がありました。 -
「生成されたコードが動かないときに、自分自身がデバッグや動作確認を主体的にできるのか?」という懸念
AI駆動の開発では、自分がコードを書いていない分、中身を完全に把握しづらいという課題があります。AIが書いたコードにトラブルが起きたときに、仕様上の正誤判断や動作改善のための対応をスムーズに行えそうか、不安もありました。 -
「セキュリティや権利の問題に対応できそうか?」
業務での利用を検討する上では、セキュリティや権利に配慮して開発できるかも気になりました。一般的な情報だけを伝えて、それらしいものが作られれば、業務での利用も視野に入りそうです。 -
「コスト(料金)の問題も未知数で心配だった」
API利用が課金制である以上、「予想外に料金が膨れ上がるのでは?」という懸念も捨てきれませんでした。
これらの悩みが心理的な障壁となって、明らかに興味があるにもかかわらず、踏み出すことをためらっていました。
4. 実際にClineを導入して、どれだけ時間が短縮できたのか?(体験談)
結論から述べると、私は実務で利用可能なレベルのPythonスクリプトを、確認の時間を含めても2,3時間で作成することができました。具体的な事例をもとに、そのプロセスをご紹介します。
(1) セットアップにかかった時間:実作業は5分程度
導入にあたり、環境セットアップは非常に簡単でした。
ただ、ネット記事を読んでどこまで業務に使えるかイメージをつかむために1時間ほど情報収集したため、実際のところ心理的には少し手間取りました。
慎重に情報収集しながら進めましたが、実際に必要だった作業そのものは5分ほどでした。
一点だけ注意点として、ClaudeのAPIを利用する場合はクレジットカードの登録が必要でした(とはいえ5ドルまでは無料でしたので、最初は気軽に試せます)。
(2) Hello Worldの作成:「Clineが何をするか」が5分で理解できる
セットアップ後、まずは簡単なPythonプログラム(Hello World)を書いてもらいましたが、これは一瞬でした。
面白かったのは、実際にターミナルから開発が始まる際に、ClineがまずPC上のフォルダ環境を把握しようとしてきた点です(もちろん、許可を求める形式でした)。個人的に意図したフォルダ以外は勝手に見られたくなかったため、「どこに配置してほしいか」「どのフォルダを見てほしいか」をプロンプトで自ら指定したら、Clineはそれに従って動作してくれました。
また、指示が曖昧でも実行環境の有無や環境チェックを適切にフォローしてくれ、まるで優秀な後輩エンジニアが横にいるような安心感がありました。
(3) ほぼ完成レベルの実務用プログラムを、3分で生成してくれた
次に試したのは、自分がリアルな業務課題としてイメージしていた以下のようなPythonプログラムでした。
- 「Slackの#chatgptチャンネルの会話ログを定期的に取得・分析し、分析結果を#chatgpt_analysisという専用チャンネルへ投稿するスクリプト」
結果、驚いたことに約3分ほどで300行近くの完成されたプログラムと、それに対応する詳細なREADMEまで生成されました。
↓プログラム実行結果(#chatgpt_analysisチャンネルへの分析結果の自動投稿)
正直、業務経験があるエンジニアに仕様を伝えて2週間ほど待って完成する水準のものが、3分で出てくる感覚です。この部分だけをとれば、従来の作業比で100倍の生産性はゆうにあると感じました。
また、READMEにはSlackの権限設定などの細かな条件や手順までも丁寧に書かれており、私が最初に動作確認した時の小さな問題も、このREADMEを読むだけで即座に解決が可能でした。
(4) 作られたコードの品質は? → 「驚くほどキレイな標準的コード」
実際にコードを見ても、きちんと分かりやすい標準的な書き方が守られており、コメントもしっかり含まれていて読みやすかったです。
少なくとも、ゼロからコードを書くよりも「まずはClineで生成してから手を加える」スタイルを標準にする方が、圧倒的に効率が良いと確信しました。コードの書き方を覚える目的を除けば、新人プログラマーがゼロベースで手作業で開発すること自体が、今後はあまり意味を持たなくなるだろう……とさえ感じました。
(5) 機能の後付けや修正依頼への柔軟性も高評価
動作確認をしてみると、「ログ出力の追加」や「差分データ取得」、さらに「より分かりやすい分析レポート形式」など、徐々に要求が増えてきましたが、どの要望も指示後わずか5分前後で修正反映してくれました。
ただし、これは微調整や仕様のニュアンスが曖昧だったり、説明不足になると認識の齟齬が生じることも事実でした。この点は、仕様を整理して的確に指示できるエンジニアリングスキルが今後より重要になることを強く実感しました。
(6) 操作感と費用感:「1回数円~50円程度」だが積み重なってコストは膨らむ
1つ注意が必要だったのは、ClineのAPI利用にコストがかかる点です。1回あたりの指示は初めはごく少額(3円程度)ですが、要求も増えて仕様が複雑化し、履歴の保持や既存コード読み込みを行うと、1回あたりのコストは数十円(約50円程度)に増加しました。
もちろん、通常のエンジニアに頼むよりは圧倒的に安価ですが、業務で大量に使う場合は想定外のコストとなる可能性も念頭に置くべきだと感じました。
(7) Clineは万能ではない:AIに頼りきりだと「エラー対応時に苦労する」
繰り返し依頼をしているうちに、プログラムが動かなかったり、細かなバグが生じる局面は実際にありました。これらの時に、エンジニア自身がエラーの原因を推測して適切に指摘していくことが、依然として極めて重要だと感じました。
Cline単体に完全に任せきるのではなく、人が「AIを適切に指示して使いこなす能力」が、引き続き求められることは間違いありません。
結論:従来数日かかっていた開発タスクが、「2,3時間」で終わる驚き
細かな課題などもありましたが、総じて従来であれば数日〜数週間かかっていたレベルのプログラムを、私は実際に2,3時間の試行錯誤と確認だけで完成させることができました。しかもAIが作業している間の待ち時間も長く、自分自身では手を動かさなくても成果物が完成するため、圧倒的に気楽でした。特に、新規で少し複雑なコードを短時間で作成するシーンでは、文字通り開発生産性が「10倍~100倍」程度に跳ね上がると実感しています。
5. Cline活用のポイントやコツ
最後に、私が実際にClineを使って実感した「スムーズにClineを使いこなすポイント・コツ」を具体的にまとめてみました。
(1) 最初の指示はできるだけ具体的に(フォルダ指定も自分からすると安心)
Clineの標準的な動作では、利用環境のフォルダ構造やファイル状況などを一通りチェックしてから始まるため、プライバシーやセキュリティ上気になる場合があります。最初に利用した際、私自身その動作を避けて、いきなり「このフォルダにファイルを作成してね」「ここだけを見てチェックしてね」など、明確に指示を出しました。
結果、自分で使いやすい環境を確保でき、安心して利用を進められました。
不安な人は最初の指示を曖昧にせず、フォルダやファイルを最初から明示的に示すコツを覚えるとよいでしょう。
(2) 動作が確認できたら、段階的に難易度を上げていく
いきなり高度で複雑なプログラムを頼むのではなく、まずはシンプルな「Hello World」など、小さくて完成度が確認しやすいコードでClineの動きを確認しましょう。
例えば私も、
- 最初は「Hello World」の表示(非常に簡単なコード)
- 次に実務系のコード(Slackのログ取得→分析→投稿) ]
のように段階的に難易度を上げて進めました。こうすることで、Clineの「頼み方」のコツを徐々に掴むことができました。
(3) 経緯や背景を丁寧に伝えると品質はさらに向上する
Clineは非常に賢いですが、当然ながら利用者側の背景や前提を必ずしも理解しているわけではありません。単純な命令だけでなく、依頼したい内容の背景や状況・目的を簡潔に伝えることで、コードの品質や精度がさらに向上しました。
例えば私の場合、「Slackの分析結果をまとめて投稿する」だけではなく、「Slackの#chatgptという特定チャンネルでのユーザーとChatGPTボットとのコミュニケーションを定期的に分析して、その結果を#chatgpt_analysisチャンネルに定期投稿したい」という具体性と背景を最初から明示的に示しました。
これにより、初回から完成度が高く目的に沿ったコードを受け取れ、結果的に手戻りが最小限になりました。
(4) 指示や修正依頼はできるだけ小さく刻んで出す(細々と繰り返す方がスムーズ)
機能追加や修正依頼がある際、一気に大きな変更や多くの機能をお願いするよりは、小さい単位で段階的に出す方がClineも混乱なく対応できました。
たとえば私の場合、
- 「ログが出るようにしてほしい」→変更確認
- 「差分だけ取得するように変更してほしい」→変更確認
- 「分析レポートの内容をもっと具体的に詳細化してほしい」→変更確認
というように、1要望を細かく刻んで、順番に片付けていく流れがスムーズでした。
(5) エラーや意図通り動かない時には理由・仮説を提示してあげる
AIとはいえ、Clineは普通のエンジニア同様「現在起きているエラーや意図していない動きの状況」をしっかり伝えることが肝心です。
ただ「動きません」だけでなく、「〇〇というエラーが出ていて、△△の部分が間違っているかもしれない」と仮説まで伝えてあげると、Clineの修正は非常に速く、スムーズな問題解決につながりました。
(6) 作業費用についても意識する(小さな修正要求を繰り返すと徐々にコストは上がる)
作業の積み重ねや複雑なコードの再読み込みを行っているうちに、指示を与えるたびのコストが数円から数十円に増加しました。
頻繁にコードを再読み込みし過ぎたり、大きなプロジェクトファイル・過去履歴を常に対象にするのは避け、「ここではこれだけ見てほしい」と都度ターゲットを絞ってあげることでコストを抑えやすくなります。
(7) コードの内容が分からないまま進ませない (最後に理解しているか確認する)
最初のコードが完璧そうに見えても、やはりAI生成である以上、何度か修正を重ねているとコード内容が冗長になったり、整合性が崩れたりすることがありました。
そこで、最終提出(業務適用)の前には、「この部分で何をしているのか」「このコードの目的は何なのか」をプロンプトを使った質問形式などを活用して、コードの内容を自分自身が完全に理解している状態に持っていくことが重要でした。
(8) 人間(エンジニア)の判断とコミュニケーション力が今後さらに大切に
最後に、AI開発支援ツールとしてのClineを使った経験から感じる最大のポイントは、「エンジニア自身のコミュニケーション力や仕様の整理力が今後ますます重要になる」ということです。
AIは指示した内容について効率的かつ高速に作業しますが、曖昧な要求や背景の説明不足は必ずエラーや品質ダウンを招きます。
AIが想定通り動くように仕様を整理でき、目的や動作を明確かつ丁寧に指示できる力こそが、これからのエンジニアに求められる最大の能力になると感じました。
6. 最後に
将来的にAIツールが広く普及するのは間違いありませんし、Clineのようなプロンプト駆動型AI開発ツールは、私たちエンジニアにとってまもなく「当たり前の道具」になっていくでしょう。
個人的には、こうした新しいAI開発支援ツールを早めに触って、一緒に試行錯誤していくことが大切だと思います。
本記事が、次世代開発環境としてのClineの利用のきっかけとなり、皆様に少しでもお役に立てれば幸いです。