文通
2023年、東京でエンジニアとして就職してから、めっきり文字を書く機会がなくなってしまった。
漢字を忘れないようにしようと思って、JPPFC に登録して文通をはじめた。
日本の各地にペンパルができて、仕事の話や旅行先の話や最近行った展覧会の話をしている。
ラウンドトリップタイムは短いもので2週間。仕事が早く終わった日や週末にまとめて手紙を書くのが、ささやかな楽しみだった。
出向
2025年1月、ベトナム・ホーチミンシティに出向することとなった。
ペンパルとは年賀状だけ交換して、その後はベトナムから書く手紙を待っていてもらうように伝えていた。
この時点ではまだベトナムでの住所が決まっていなかったからである。
1月下旬、無事ホーチミン市内のアパートメントに入居。
1月末の1週間は旧正月で仕事が休みになるので、その間にまとめて手紙を書き、正月休み明けに一気に送信した。
数人いるペンパルのうちひとりだけ Twitter を交換している方がいる。その方には手紙が届いたら一報入れていただくようにお願いした。
一般にベトナムから日本への航空便は2週間あれば届く。
しかし、このときは正月休み明けで郵便局が混乱していたようで、普通より時間がかかったらしい。
送信からおよそ4週間後、手紙が届いたとの連絡があった。
これで一安心。
お相手に国際郵便の送り方をお伝えして、返信の宛名書きも問題ないことを確認した。
あとは待つだけ……と思っていた。
届かない郵便
ところが待てど暮せど手紙が届かない。
投函したと知らせてもらった日から、1ヶ月。
実はこの方より早く、祖母からもはがきが送られてきているはずだった。
これも2ヶ月待っても届かない。
これはともども紛失されたか?と思って、ようやく色々調べてみたのだった。
ベトナムの郵便事情
ベトナムの家には郵便ポストがないものも多い。
郵便局員は、配達のとき郵便物に書いてある電話番号に電話をかけて、住人に鍵を開けてもらうらしい。
対面での配達が原則だ。
つまり一人暮らしの私は、仕事のある日中に郵便が自宅に届くと、受け取れないということになる。
再配達ももちろんない。
大家さんに相談すると、大家さんの電話番号を書けばかわりに開けてくれるとのこと。
しかしそんなことは露知らず、住所だけを書いた手紙を方方に送ってしまったのである。
電話番号がないと、そもそも配達すらしてくれないらしい。
せめてアパートメントの塀の中に投げ込んでくれれば……と思うのだがそれはこちらの勝手。
途上国の国営郵便のサービスレベルをなめてかかっていた。
確実に届けたければ、10倍以上の費用をかけて EMS を使うか、民営の国際配送サービスを使うかしかないようである。
ベトナム人と文通
ベトナムに来てから、社外のコミュニティにもいくつか参加させてもらっている。
もちろん趣味の話もするので、文通のことを言うのだが、そのたび traditional とか、romantic とか、色々な感想をもらう。
どうもイマドキのベトナム人は、まったく文通をやらないらしい。
その理由のひとつに、郵便サービスへの信頼性の低さ、があるのではないかという気がしてきた。
社会主義国だけあって検閲が入り、その分配達が遅れる。
そもそも届かないようでは話にならない。
サービスの信頼性の低さによって、そのサービス自体が選択肢から抜け落ちてしまうのだなあ、と話していて思った。
SRE
ベトナム IT 業界には、SRE のプラクティスはまだ浸透していない。
エンジニアとしての SRE 求人もほとんどない。
情報通信業に携わる人間として、もっともプリミティヴな情報通信であるところの郵便があたりまえに送れる社会を知らないエンジニアたちの間に、サイト信頼性を制御するマインドをどう醸成するか、苦悩の日々を過ごしている。
製品に期待する品質レベルの違いを感じる日々である。日本品質の何たるかを、丁寧に言葉にしていかなくてはいけないのだろう