ふりかえり手法にはKPT、Fun Done Learnなど様々な手法が知られています。
今回はその中でもチームの課題と向き合う手法「象、死んだ魚、嘔吐」について説明します。
また自分達が実際に実践するにあたって行った工夫を紹介します。
ふりかえり手法「象、死んだ魚、嘔吐」とは?
2024.1.17追記
「象死んだ魚嘔吐のうた」を制作し、Reginal Scrum Gathering Tokyo 2024にて発表しました。
↑使用したオリジナルの背景画像です。お好きなツールの背景としてどうぞ。
「象、死んだ魚、嘔吐」とは、Airbnbの共同創業者ジョー・ゲビアが提唱した手法です。
カリスマ性があり完璧主義のジョー・ゲビアが率いるチームでは、雰囲気が重苦しく、メンバーはゲビアを恐れ、自分の考えていることを発言できなくなっており、チームは崩壊寸前でした。
そのような状態で考案されたふりかえり手法が「象、死んだ魚、嘔吐」です。
「象、死んだ魚、嘔吐」では以下3つの観点でふりかえりを行います。
①「象」は口に出さないけれど全員が知っている真実。
②「死んだ魚」は、早くごめんなさいをしたほうがいい悩みのタネ。ほっておくと事態が悪化する。
③「嘔吐」は、人々が断罪されずに胸の内を話すこと。つまり「ぶっちゃけ」。
このふりかえりを通してみんなが胸のうちに何を抱えていたのか、明らかになり、チームが「何でも言える空気感」を取り戻していったそうです。
参考:
どうやってやるか?
私達のチームでは上記の背景画像を用いて、ふりかえりツール「anycommu」の 「自由な背景でふりかえる」 機能を使いふりかえりを行いました。
- KPTのように「象」「死んだ魚」「嘔吐」それぞれについてタイマーを回し、チームメンバーにふせんを書き出してもらいます。
- 書き出されたふせんを1枚ずつ紹介し、書いた人が発表します。 (発表されるまで他の人のふせんは見ません)
- その内容についてチームメンバーは質問を行い内容を深掘り共有します。
- ある程度まで深ぼったら「象おおおおお!」「死んだ魚ああああ!」「嘔吐おおおおお!」と叫び、全員で拳を突き上げ叫びます(ローカルルールです)
- 上記を繰り返していきます。
何故やろうと思ったのか?
私たちは日々、「Fun Done Learn」を通じて日々のふりかえりを行い、またTimelineやKPT、熱気球を活用し、月に1回程度の長期的なふりかえりも実施してきました。これにより、具体的なカイゼン策を打ち出していました。またチーム全体として、言いたいことは言える空気があると感じており、直近の課題についても洗い出していました。(個人の意見です)
しかしながら、より長期的な視点で考えた場合、直近の業務と直接関係がない「いつかやらないとまずい」と思われる課題については時間を取って議論すると良いのではないか? と感じていました。これが、「象、死んだ魚、嘔吐」の導入へと繋がる動機となりました。
最初はやるのが怖かった
チームの雰囲気が悪化するのではないかとの不安がありました。具体的には、次の3つの状況を懸念しました。
- メンバー同士が互いを責め始めてしまうこと。
- 解決できない問題に打ちのめされ、チーム全体が無気力になってしまうこと。
- (シンプルに)ミーティング全体の雰囲気が暗くなってしまうこと。
実際やってみたい!という話をしたところ 「暗くなってしまうのでは」「もっと前向きな話をしたい」 という声が聞こえてきました。
怖さに立ち向かうためにやったこと
それでも効果があると確信していたため以下を実践しました。
Prime Directiveを全員で読む
個人を責めることを防ぐために、Norman Kerth氏の書籍「Project Retrospectives」の有名な一節、Prime Directive (最優先司令)を読み上げ、全員に同意してもらいました。
私たちが見たものに関係なく、チーム全員が、
その時点で分かっていることや彼(彼女)のスキルおよび能力、利用可能なリソース、
そしてそのときの状況の中で最良の仕事をしたのだと理解し本当に信じます。
Zoomでやった際には、このテキストを画面共有の上読み上げ、全員に挙手(✋)をしてもらってからふりかえりに入るようにしました。
チームメンバーに対して合意してもらうのはもちろんですが、事前にこれを行うことでファシリテーターとして安心して進めることができたように思います。
発表するまで他の人のふせんをみない
長くチームにいる人や先輩後輩等、立場に振り回されないようにするためにふせんを発表するまで相手に記載内容をみえないようにしました。
ふりかえりツールの「anycommu」では発表されるまで相手のふせんの内容がみえません。これは実践する上で非常に役にたちました。
最後に「象おおおおお!!!」と拳を突き上げて叫ぶ
ふせんを共有した後、チームで発表者に質問をしながら掘り下げて議論していきます。ある程度掘り下げ終わったら 「象おおおお!!」「死んだ魚ぁあああ!!」「嘔吐おおおおお!!」 と拳を突き上げ大きな声で全員で叫んでみました。(※ローカルルールです)
これはDevOpsDaysTokyo2023のOSTで「象、死んだ魚、嘔吐」を行った際自然発生的に行われたやり方です。個人的にとても気に入っています。
これにより、
- 次の課題へ頭を切り替えることができる
- 課題をチーム全員で共有した一体感がでる
- (シンプルに)楽しい
といった効果がありました。
結果としてどのような変化が見られたのか?
私がこれまでに「象、死んだ魚、嘔吐」の手法を用いて社内の3つの異なるチームでふりかえりのファシリテーションを実施しました。
このアプローチでは、「象」、「死んだ魚」、そして「嘔吐」の境界線が曖昧になることがしばしばでした。しかしながら、これらの課題を3回繰り返すことにより、メンバーは自由にかつ率直に課題について話す雰囲気を持つことができました。さらに、 各参加者のふせんが発表されるまで隠されていたことで、各個人が感じていた課題の共通点や違いについて議論する機会を設けることができました 。
これらのふりかえりで、私は意図的に「KPT」形式のような「Try」の時間を設けることを避けました。それでも、3つのチームすべてで共通して行われたことは、 チームメンバーが自発的に関連部署/関連チームのメンバーを呼び集め、課題について議論をする時間を設けたことでした。この議論の時間で具体的なActionが策定されました。
この結果は私が最初に期待していたものではありませんでしたが、ふりかえりの場で強引に行動計画を考え出すよりも、より効果的だったと感じています。
皆で嘔吐すれば、それぞれの嘔吐が煌めく
皆で嘔吐すれば、それぞれの嘔吐が煌めくはずです。
すべての問題を解決することは難しいですし、解決する必要のない課題もあるかもしれません。
しかしながら、乗り越えなければいけない課題に対しては、時間をかけて向き合っていくことが重要だと思います。
興味を持たれた方は是非皆で「ぶっちゃけ」てみては如何でしょうか?
象死んだ魚嘔吐をするのが怖い人へ
それでもやるのが怖いという声をよく聞きます。
自分も怖かったのですが、やってみるとそんなに怖くはありません。
一連のエピソードを以下にまとめているので一読してみてください。