williams著『Probability with Martingales(英語版)』のp.16にあるexerciseについてのメモです。一応、このブログはこの本を読むよって人向けにどのように考えればいいかを共有する目的で作りました。誤植や誤謬などがあれば教えてください。
例のexercise
例のexerciseの主張はこうである
$\mathfrak{C}$を次のように定義しよう。
$$\lim_{n\to\infty} \frac{\#\{k\in C;1\leq k \leq n\}}{n}$$
が収束するような$C\subseteq \mathbb{N}$の全体を$\mathfrak{C}$
このとき、$\mathfrak{C}$は有限加法族にはなりえない。
※注釈
これ自体は**"自然数から無作為に数字を一つ取り出すと、それが$C$に含まれているような確率"**を考えた時の自然な導入で、$n$を有限で考えると、これは
$n$以下の自然数から無作為に一つ数字を選ぶとそれが$C$に含まれている確率を表している
と直感的に理解できる。
これがなんでかというと、
$$F, G\in\mathfrak{C}\ \land\ F\cap G\not\in \mathfrak{C}$$
を満たすようにできるからです。これがこの本の主張で、つまり、上記の$\lim$で定義された式は確率測度としては不適切ということを言いたかったわけですね。めでたしめでたし。
とはならないんですよ。その主張、本当に成り立ちますか?これが問題なわけです。
はい、本当にそんなものが存在するのでしょうか。まあ、結論からいえば存在するのですが、では例えば何がありますかってのが今回確かめたいことです。ということで、どのように集合を定めてやるといいでしょうか?
諸注意(※必読)
ここでは、exerciseのネタバレ(当たり前)が含まれます。ご注意ください。なお、このexerciseは最初に一週間かけて考えることを推奨します。
例
$F\subseteq \mathbb{N}$ を次のように定義します。$0\leq m\in\mathbb{Z}$について、
- $[2^{2m},2^{2m+1})$に含まれる奇数の元は$F$の元である。
- $[2^{2m+1},2^{2m+2})$に含まれる偶数の元は$F$の元である。
- それ以外の元は$F$に含まれない。
このように構成します。つまり、図示すると、このようになります。
$n$ | 1 | 2 | 3 | 4 | 5 | 6 | 7 | 8 | 9 | 10 |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
$\in[2^0, 2^1)$ | $\in[2^1, 2^2)$ | $\in[2^1, 2^2)$ | $\in[2^2, 2^3)$ | $\in[2^2, 2^3)$ | $\in[2^2, 2^3)$ | $\in[2^2, 2^3)$ | $\in[2^3, 2^4)$ | $\in[2^3, 2^4)$ | $\in[2^3, 2^4)$ | |
偶奇 | 奇数 | 偶数 | 奇数 | 偶数 | 奇数 | 偶数 | 奇数 | 偶数 | 奇数 | 偶数 |
$\mathrm{in}\ F?$ | true | true | false | false | true | false | true | true | false | true |
なので、 $F = \{1,2,5,7,8,10,\ldots\}$ と構成されていくわけです。
$a_n(C) = \frac{\#\{k\in C;1\leq k \leq n\}}{n}\ $ とすると、これは任意の$m$に対して、$[1, 2)$以外はすべて、偶数と奇数の数が一致してるので、1., 2.のように構築したのにもかかわらず、$a_n(F)\ $ は$n\to\infty$のとき、$1/2$に収束する。すなわち、$F\in\mathfrak{C}$が成立。
しかし、$2\mathbb{N}\cap F$を考えてみます。ちなみに、$2\mathbb{N}\in \mathfrak{C}\ $ であることは自明なので証明はしません。このとき、$F$の元を偶数のみで構成するという意味なので、$F = \{2,8,10,\ldots\}$となるわけです。
ここで、$n = 2^{2m} - 1$と$n = 2^{2m+1}-1$に注目します。というのは、$a_n(2\mathbb{N}\cap F)$が振動することをいうために、2つの部分列を取り出して、それが振動することを示したいからです。
1] $n = 2^{2m+1}-1\ $のとき
$$a_n = 1-\frac{1+2^2 + \cdots+2^{2m}}{2^{2m+1}-1} = 1-\frac{4^{m + 1}-1}{3(2^{2m+1}-1)}$$
※$1+2^2 + \cdots+2^{2m}\ $はFに含まれていない$n$以下の自然数の個数
これが成り立ちます。これを $m\to\infty\ $すると、$n\to\infty$より、$a_n\to 1/3\ $と収束します。
2] $n = 2^{2m} - 1$のとき
$$a_n = \frac{2 + 2^3 + \cdots+2^{2m-1}}{2^m-1} = \frac{2(2^{2m}-1)}{3(2^{2m}-1)} = \frac{2}{3}$$
よって、$a_n$は$m\to\infty\ $とすると、$n\to\infty$なので$2/3$に収束しますね。
このように部分列の取り方によって、収束の仕方が違うので、$a_n(F)\ $は収束せずに振動します。
以上より、$2\mathbb{N}, F\in\mathfrak{C}\ \land\ 2\mathbb{N}\cap F\not\in\mathfrak{C}\ $が成立しますので、exerciseの主張は正しいことがわかりました。