はじめに
勢いでアドベントカレンダーの16日目にも投稿してみます。
自分でRaspberrryPi(Pico)を使った地震計を作ってみて、他にはどんな製作例があるのか気になったので調べてみました。
※本記事のリンクは2022年12月現在のものです。
製作例
ここからは、種類別に製作例を見ていきます。マイコンはRaspberryPiとArduino系を中心に検索しました。Picoは他のPi系列とは別物ですが、まあRPiの一種としてカウントしています。
本記事は一応「マイコン地震計まとめ」なので、
- どこかにマイコンを使っている → 必須
- アンプ回路、A/D回路、収録機能を自作している → 優先
- センサのみの自作 → 割愛
としました。
ところで調べる中で少し気になったのが、「地震計」といって一般的にイメージされるのが「計測震度計」であること。震度計も広義では地震計に含まれますが、狭義の「地震計」は地動を正確に記録する装置です。違いは下記の勝島製作所の記事が分かりやすいです。
本記事では、上の説明によるところの「観測用地震計」と「震度計」を区別します。こういった電子工作を期に言葉もより身近になって欲しいと思います。一方、建物の振動計測と自然地震観測では本来は目的や対象の周波数が異なったりしますが、今回は明確に区別しません。
地震計(観測用)
従来型(サイズモ系?)センサ
コイルと振動子で構成された一般的な地震計をセンサとして利用した例。国内ではあまり多くは見受けられません。センサの入手が手軽ではない事が原因だと思われます。というか普通の人は本物の地震計は買わない。
Raspberry Pi
- (1) RaspberryShake
これはRaspberryPi地震計の界隈ではスターのような存在。センサもよく使われる4.5Hzの速度計であり、「地震計」と呼べるものです。この製品が別格なのは、購入したボランティアによるグローバルな観測網も予め設計していた点でしょう。また、実際にセンサネットワークのデータを使ったScience論文も出ています。
海外ではセンサを自作する人が結構いるので面白い。
- (2) Extremely Sensitive Cheap Homemade Seismometer
倒立振り子型のセンサを自作した例 - (3) IoT: Raspberry Pi Seismometer
バネ式のセンサを作り、音声入力ハットを使って信号入力している例(Audacityで波形を見ている) - (4) Lego Seismometer
センサの本体をレゴで組んだ例 - (5) Earthquake Detector
RaspberryPi も使っているし、センサ部ではPICも使っている模様。リアルタイムの観測記録もHPで公開されているので面白い。私はこのセンサの仕組みをまだ理解していない。 - (6) Development and Testing of a 5G Multichannel Intelligent Seismograph Based on Raspberry Pi | Igbinigie et al.(2022)
これも最早、本格的な研究なのでここに載せるものか分かりませんが、RPi4が使われています。
Arduino
国内でもセンサをコイル巻きから自作して観測している方がいます。かなり商用の地震計に近い形になっていてすごい。教育分野の業務での製作例なので、ホビー勢はなかなか敵わないですね。他にも精力的に発表されています。
- (7) (PDF) A new horizontal seismograph system for school use employing “Arduino” and “Processing” | Okamoto
- (8) (PDF) やや本格的な教材用地震計の製作 | 岡本(2011) 地学教育学会
MEMS加速度センサ1
MEMS加速度計を用いた例は非常に幅広い分野で試行されている模様。産業からアカデミアまで多くの例が見つかります。ただ、波形を記録して使う用途ではホビーよりも学術分野での利用例が目立ちました。半ば当たり前ですが、MEMS加速度計はロボティクスやゲームのためのセンシング用途など本流での応用例が主流でした。
Raspberry Pi
- (9) SORACOM Air と Raspberry Pi を使って簡易地震計を作ってみた
Qiitaの2016年の記事です。こういう例がいっぱいある事を期待していました。 - (10) Teremetra-1
テレメトラの製作者は日本の地震観測網で普及しているWINSystemを考案したレジェンド的なU先生。急な電源断でもSDカードの中が破損しないように工夫していて、さすがは観測の専門家です。 - (11) 小型PCによる地震計測システムの開発と計測事例 | 飛島建設
大手企業も活用しています。 - (12) (PDF) 地学・技術教育のための加速度地震計の製作 | 松林ほか(2017) 地震学会
こちらは教育分野ですね。しかし日本の地震観測のコアな人も関わっているようです。 - (13) [G03-P09] Raspberry Piと加速度センサで学ぶ雑微動解析 | 麻生ほか(2020) JpGU
これも科学・教育系ですね。応用例が高度。。。
Arduino
- (14) しっかり記録! Arduino地震計
ホビーではただ記録を見てみる例が多めで、これ以外の幾つかは割愛しました。「波形を使って何かしたい」となると、次の項目の「震度計」へと興味が向くのかもしれません。 - (15) (PDF )センサネットワークを用いた地震情報収集システムに関する研究 | 谷ほか(2013) 日本建築学会
- (16) (PDF) ローコスト地震計による 超高密度地震観測に関する研究 | 鈴木(2014) 首都大学東京修士論文
- (17) (PDF) 小型センサーを用いた構造物の地震被害の即時判定法の提案 | 小野ほか(2009) 土木学会
- (18) (PDF)汎用小型マイコンボードの泥流振動検知への適用に関する基礎的検討 | 阿部ほか(2014) 砂防学会
ZigBeeも組み合わせて、遠隔での監視までやっています。継続して研究しているらしく、同じグループの研究がいくつかヒットします。 - (19) ESP8266と3軸加速度センサーADXL345で振動を測定する
ESPもArduino系に入れると、こんな例もありました。波形にFFTをかけていたりして、地震計らしさを感じますね。
震度計
ここでは「地震計」と銘打っているものの、実際は計測震度を得ているものを挙げます。計算前は波形も当然取得していますが、震度表示に換算すると地震計ではなく震度計と呼ぶのがふさわしいです。「RaspberryPi + 地震計」で検索すると一番出てくるのがこのタイプ。
Raspberry Pi
- (20) PiDASは同人ハードとのこと。ネットでも人気が高い商品で、震度階級も実際に則したものになるよう計算している模様。
※この記事のすぐ後に本家さんのQiita記事が出ていたようです(2023.06.26更新)
皆さん、計測震度をきちんと実装されています。気象庁が公開している手法での計算になりますが、実データに対してどのように適用するかは各々の例で少しずつ異なるようです。少ないリソースでどのように算出するかの工夫も見所です。ソフトウェアに関しては観測用の地震計より高度ですね。単に波形を記録するよりも作り甲斐があるのも、製作例が多い理由かもしれません。
- (21) Raspberry Piで地震計を作る
- (22) Raspberry Pi で簡易地震計を作ろう! | P2P地震情報
- (23) M5AtomとRaspberryPiで自宅の震度測定システムを作る
- (24) Raspberry Piで”地震計”作ってみた
Arduino(系)
震度計算ではフーリエ変換やフィルタ処理など、単に波形を記録するよりもプログラムが複雑になります。どうやらArduinoはメモリ的に不利なようで、震度計界隈ではあまり登場しません。
- (25) Galileoで地震計を作る
その他、PICなど
- (26) 地震計の製作(自作) | R&S
24bitΔΣ型のA/DのAD7714YNZを使っていて、電池駆動で1ヶ月ほど稼働するという本格的なもの。何よりホームページで設計コンセプトから原理、製作ノウハウに測定例までとても綺麗にまとめてあるので、読むだけでとても勉強になります。本記事のリストには欠かせないと思いリンクしました。 - (27) 地震計 | 痛い日記
様々なマイコンで加速度計測をした例。
まとめ(感想)
ぱっと検索しただけでもかなりの例が出てきました。自作地震計を公開しているのは熱量の高い人が多く、奥深い世界である事が改めて分かりました。
趣味から業務まで色々な場面でマイコンが活用されていて、その数も一昔前と比べるとかなり多い印象です。PICやH8などもかなり流行りましたが、やはりラズパイやArduinoの功績は大きいと思います。
アンプ回路を自作したり、センサを自作したりする例もあって実に様々なものがありました。末尾に少し掲載したPICマイコンを使った例も調べ始めるときりが無いくらいです。
コイルと磁石でセンサを自作し、直接USBオシロやPCの音声入力で観測する例も散見されました。これらも自作にカテゴライズされると思います。マイコンはあくまで手段の一部で、発想は人それぞれという事を実感しました(例えば地震研の広報「牛乳パックで作ってみよう地震計」など)。
他の人の製作例を見ると刺激を受けて自分でも色々と作りたくなりました。電子工作はやめられないですね。
その後
後日見つけた関連記事のリスト
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MEMSにもいくつか種類がありますが、今回は区別しません ↩