こんにちは、齋藤です。
YouTubeやTwitchといったプラットフォームでは、動画や配信内で使用される音楽の著作権を保護するために、AIを活用した音楽検知技術が広く使われています。
この記事では、その仕組みや技術的な背景について調べたことを書いてみます。
音楽著作物検知の目的
音楽著作物を検知する主な目的は以下のようなものがあげられます。
- 著作権保護:クリエイターや音楽権利者の利益を守る
- 収益分配:広告収益を正確に権利者に分配
- プラットフォームの法的リスク軽減:違法使用による法的トラブルを回避
技術的背景
音楽著作物を検知するAIの背後には、以下のような技術が活用されています。
1. 音響指紋(Acoustic Fingerprinting)
音響指紋は、音楽や音声データを特徴的なパターンに変換して、それをデータベースと照合する技術です。この技術は、次のような動作が存在します
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音声データの特徴抽出:
音声を短いフレームに分割し、周波数成分や時間情報を分析。これにはFFT(高速フーリエ変換)やスペクトログラムなどが使用されます。 -
ハッシュ化:
抽出された特徴をデータベース内のエントリと比較可能なユニークなハッシュ値に変換します。 -
データベース照合:
プラットフォームが保有する膨大な音楽データベースと照らし合わせて一致するパターンを検索します。
代表的な例として、Shazam※1で使用されている技術が挙げられます。
※1 Shazam(シャザム)は、Appleが保有するアプリケーションソフトウェア
2. 機械学習とディープラーニング
近年では、音響指紋技術に加え、機械学習やディープラーニングが用いられています。
特に、以下のようなモデルが活用されています
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畳み込みニューラルネットワーク(CNN):
音声スペクトログラムからパターンを学習し、特定の音楽の特徴を識別します。 -
リカレントニューラルネットワーク(RNN)やLSTM:
音楽の時間的な依存関係を解析するために使用されます。
これらのモデルは、音楽のテンポ、メロディー、ハーモニーなどの要素を高精度で分析することができます。
3. クラウドコンピューティング
YouTubeやTwitchのような大規模プラットフォームでは、毎日膨大な量のコンテンツがアップロードされています。これをリアルタイムで分析するために、クラウドコンピューティングが利用されています。
- ストリーミング分析:リアルタイムで配信データを処理する。
- 分散コンピューティング:データの並列処理を行い、高速な照合を実現する。
Google CloudやAWS、Microsoft Azureなどがこの分野でよく使用されます。
実際の仕組み:YouTube Content ID
YouTubeでは、特にContent IDと呼ばれるシステムがこの技術を支えています。
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音楽権利者がデータベースに楽曲を登録:
音楽レーベルや権利者が自分の楽曲の音響指紋を登録します。 -
動画の音声をスキャン:
アップロードされた動画の音声部分をContent IDシステムが解析し、音響指紋を生成します。 -
一致判定:
音響指紋がデータベース内の楽曲と一致する場合、その情報に基づき以下のアクションが取られます:- 動画の収益化をブロックまたは制限。
- 広告収益を権利者に分配。
- 著作権侵害の警告を発行。
Twitchの取り組み
Twitchでは、特にライブストリーミング中の音楽検知が課題となっています。Twitchは以下のような方法で音楽検知を行っています:
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Audible Magicとの連携:
TwitchはAudible Magicという音楽認識技術を採用して、配信中に流れる音楽を特定しています。 -
クリップ削除:
違法に使用された音楽が含まれる配信クリップを自動的に削除する仕組みを導入しています。 -
DMCA対応:
DMCA(デジタルミレニアム著作権法)に基づき、著作権者からの申し立てに対応しています。
音楽検知技術の課題
音楽検知技術は非常に高度ですが、以下のような課題も存在します:
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誤検知のリスク:
バックグラウンドノイズや類似した音楽による誤検知。 -
リアルタイム処理の負荷:
ライブ配信中の高精度な検知には、膨大な計算リソースが必要です。 -
権利者の未登録楽曲:
データベースに登録されていない楽曲は検知できません。 -
国際的な著作権の違い:
各国の著作権法に対応する仕組みの複雑さ。
まとめ
YouTubeやTwitchで使用される音楽著作物検知のAI技術は、音響指紋やディープラーニングなどの高度な技術に支えられています。これらの技術により、クリエイターや権利者の利益が守られる一方で、誤検知やリアルタイム処理の負荷といった課題も存在します。
参考
YouTube Content IDに関する公式ドキュメント
https://support.google.com/youtube/answer/2797370
Shazamの音響指紋技術に関する論文
Audible Magicの公式サイト
https://www.audiblemagic.com/