1.はじめに
「雑に作る ―電子工作で好きなものを作る近道集(石川 大樹、ギャル電、藤原 麻里菜 著)」を読みました。
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- Make: Japan | 「雑な作品作りでも大丈夫!」という平和な心で初心者を応援する新刊『雑に作る ― 電子工作で好きなものを作る近道集』は10月24日発売! Maker Faire Tokyo 2023では会場先行発売、トークイベント、サイン会を行います!
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「雑に作る」試し読みとして、安全対策のページを公開します
1枚目は本の冒頭にある安全の三箇条。2枚目以降が1章の安全情報のページです
自分も雑に作ってみようと思った人は(当然本は買っていただいてると思いますが!)このページだけでも読んでください
ツリーでつづきのページと解説を続けます
(石川大樹 「雑に作る」発売中@ishikawa_daiju·11月15日)
https://twitter.com/ishikawa_daiju/status/1724636343438016689
2. 「雑に作る」の感想
- 「雑」は「丹精込めてていねいに作品を作らねば」という呪縛を解いて粗削りなのを気にせずいくつも何度も完成させるためのワード。
- 電子工作の初心者が「守破離」でいえば破の一歩目を踏み出すために押さえておくとよいこと(ノウハウ、マインド)を「雑に作る」の当事者たちが整理し書籍化したもの。
- 「雑な電子工作 安全の3ヶ条(p.6)」、「危険な目にあわないために(p.46~)」をはじめ安全面の注意が随所に登場しかなり気を使っているというか充実しているように思います。
- ChatGPTをそういうふうに活用するんだとか新しい発見があったりして、読んでいて楽しかったです:-)
- 「この本は特に初心者のみなさんに向けて、「2冊目に読む本」として最適なように作られている。」とあって、1冊目の本で学ぶことや3冊目以降の本で学ぶことはあえて載せないようにしているように思いました。
3. Arduino UNOにリレー「Y14H-1C-5DS」を接続する
p.184にArduino UNOの9番ピンにリレーY14H-1C-5DSを接続する例があり、そういえばArduino UNO Rev.3のI/O pin一つあたりの定格電流は20mA、Y14H-1C-5DSはコイル電流が30mAだったような、、、と思い調べてみました。
結論としては
- コイル電流30mAはArduino UNO Rev.3公式の定格である20mAは超えているものの、ATmega328PのI/O Pin一つあたりの絶対最大定格電流(40mA)にディレーティングの目安として80%を乗じた値に収まっています。
- p.90でモーターの逆起電力対策にダイオードを入れることに触れているのでリレーにダイオードを接続するのも紹介すると良いように思いました。
参考:リレーコイルのサージ保護について(パナソニック インダストリー株式会社) - Y14H-1C-5DSは、秋月のドライバ内蔵リレーモジュールキットが還流ダイオードも入っていて部品選定の候補の一つに加えると良いのではと思います。
- 部品の選定やディレーティングは設計行為そのものなので「初心者が2冊目に読む本」の範疇を超えるトピックスと思いますが3冊目以降の橋渡しとしてコラムのような形で触れてあると良いように思いました。
- Arduino UNO Rev.3は数年前は3,000円(税別)くらいでしたが最近は4,200円(税別)くらいするようです。それなりに値段の張るパーツで、長く使えるよういたわって使うのが良いのではと思います。
3.1 リレーの定格電流
Y14H-1C-5DSのコイル電流をデータシートで確認したところ20℃において29.9mAです。
3.2 Arduino UNO Rev.3の定格
Arduino UNO Rev.3のI/O pin一つあたりの定格電流は公式では20mAです。
また、FAQで推奨動作条件として20mA、絶対に越えてはならない最大値として40mAが示されています。
Each of the 14 digital pins on the Uno can be used as an input or output, using pinMode(),digitalWrite(), and digitalRead() functions. They operate at 5 volts. Each pin can provide or receive 20 mA as recommended operating condition and has an internal pull-up resistor (disconnected by default) of 20-50k ohm. A maximum of 40mA is the value that must not be exceeded on any I/O pin to avoid permanent damage to the microcontroller.
3.3 Arduino UNO Rev.3のDigital Pinの回路
回路図を見るとArduino UNO Rev.3のDigital Pin #9はATmega328PのPB1端子がそのまま引き出されていることがわかります。
3.4 ATmega328Pの定格
ATmega328Pのデータシートで定格を確認します。DC current per I/O pin(I/Oピン一つあたりの直流電流)の絶対最大定格が40mAと示されています。また、ポートから供給する電流の合計に上限があることも分かります。
3.5 絶対最大定格とディレーティング
東芝デバイス&ストレージ株式会社の「半導体 取扱い上のご注意とお願い」より、絶対最大定格とディレーティングの説明を引用します。
3-3-1. 絶対最大定格
絶対最大定格は複数の定格の、どの一つの値も瞬時たりとも超えてはならない規格です。複数の定格のいずれに対しても超えることができません。
絶対最大定格を超えると破壊、損傷および劣化の原因となり、破裂・燃焼による傷害を負うことがあります。
3-3-3. ディレーティング
半導体製品に対して、各定格値から軽減した動作範囲を設定したり、サージやノイズなどについて考慮したりすることで、半導体製品により確かな信頼性を持たせることをディレーティングと呼びます。
また、ディレーティングの一例として、電流について次のように示されています。
電流: 平均電流 絶対最大定格の80%以下 (整流素子は絶対最大定格の50%以下)
80%は一つの目安となりますがArduino社はArduino UNO Rev.3のDC current per I/O pinの定格を絶対最大定格の50%にしています。
3.6 ドライバ内蔵リレーモジュールキット(秋月電子通商)
秋月電子通商のドライバ内蔵リレーモジュールキット(通販コード:K-13573)はY14H-1C-5DSにドライバ回路を付加したキットで次のようなメリットがあります:
- I/O pinが供給する電流が数ミリアンペア程度で済む
- コイルの逆起電力対策がされている(還流ダイオードが付いている)
- ブレッドボードで使いやすい形状
4. 失敗談
p.58で「失敗の情報を共有しよう」ということで、自分から一つお披露目します。
昔々、タミヤの「壁づたいねずみ工作基本セット(楽しい工作シリーズ No.68)1」を改造してねずみの顔を懐中電灯で照らすと光源に寄ってくるメカトロ工作を部活の文化祭の出し物で作ったことがあります。これはねずみの両目の場所にフォトトランジスタを仕込み後段に配置したトランジスタで電流を増幅してモーターを回す仕組みだったのですが、後段に小信号トランジスタの2SC1815を使ったところ無負荷だとモーターが回るのにメカに組み込むと回らないという失敗をしました。
原因は2SC1815はモーターを回すのに必要な電流を流せないためでパワートランジスタの2SD880に変えることで回るようになりました。2SD880は今でもちょっとした治具の自作でパワトラが必要な時に使っています。
5. おわりに
電子工作の愛好家やメイカーは各々工夫や失敗談があると思いますが、著者三名の表紙込みで313ページにおよぶボリュームのあるノウハウやナレッジが言語化、体系化されユニークな本と思いました。「雑に作る」は場数を踏む機会を増やし、ひいては成功体験を増やす期待があります。電子工作やメイカーのすそ野が広がると良いなあと思いました。
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こちらは廃番で現行版は「壁づたいメカ工作セット(ねずみ) 」です。 ↩