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品質エンジニアにオススメする三大管理技術(IE, QC, VE)

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1. はじめに

ソフトウェアテスト Advent Calendar 2021の20日目、西さんの「QAエンジニアとかテスターを何と呼ぼう?」で引用されていた

1960年ごろ…『品質管理のドーナツ化現象』といわれる現象が起きました…品質管理の手法を使って、原価低減、生産性向上…などの改善が盛んに行われ
TQM みんなの"大誤解"を斬る! 顧客満足は正義なのか? p.48)

が、品質エンジニアがVE(Value Engineering)やIE(Industrial Engineering)を行っていたのかなと気になりました。そこで、「TQM みんなの"大誤解"を斬る! 顧客満足は正義なのか?」(以下、「誤解本」)の「品質管理のドーナツ化現象」を改めて読んでみました。以下に引用します。

 こうした日本における近代の品質管理の歴史の中で,「品質保証」という用語がブレークしたときがあります.それは1960年ごろのことです.そのころ,「品質管理のドーナツ化現象」といわれる現象が起きました.ドーナツ化とは,「中心がない」という意味です.製造業において熱心に品質管理を推進して10年ほどですが,品質抜きの品質管理が目につくようになって問題視されたそうです.すなわち,品質管理の手法を使って,原価低減,生産性向上,リードタイム短縮,在庫削減などの改善が盛んに行われるようになり,何とかしたいとの声が沸き起こったとのことです.
 原価,生産性,リードタイム,在庫の問題は,元を正せば品質問題に起因することが多いですし,何であれ経営改善に貢献するなら,品質管理の手法を活用することが間違っているということはありません.しかしながら,真因である品質問題の解決というより,原価や生産性などの問題に直接的な影響を与えている要因を特定して改善を図るようなアプローチに対し,品質管理のあり方としてこれでよいのか,という問題提起があったのです.
(TQM みんなの"大誤解"を斬る! 顧客満足は正義なのか? p.48)

1960年までの10年といえば朝鮮特需神武景気岩戸景気があり、三種の神器(白黒テレビ・洗濯機・冷蔵庫)がもてはやされ、中流層の増大と消費ブームが到来し大量生産・大量消費の時代を迎えた1、そういう時代だったようです。

「品質管理の手法を使って」はいたものの、品質問題を解決して後工程への欠陥流出をなくし手戻りを減らすことで結果として原価や生産性に寄与していたというより、「原価や生産性などの問題に直接的な影響を与えている要因を特定して改善を図るようなアプローチ」をしていたということです。品質エンジニアがQCよりもVEやIEに取り組んでいたようです。

なお、「VEの魂」に

当時(筆者注、1960年代初め)の新入社員教育の中心は、標準時間管理など効率の良いものづくりを追求するIEと、品質管理意識と品質管理技術をたたき込んで、不良を後工程に流さない高品質なものづくりを実践するQCの習得だった。
(VEの魂 序章 管理技術総論 管理技術を軽視する間違い)

という話があり、品質エンジニアがQCだけでなくIEやVEも取り組むのはそれほど不自然ではなかったのかなと思いました。

2. 三大管理技術

IE、QC、VEを三大管理技術と称することがあります2。三大管理技術の比較を以下に引用します3

名称 IE QC VE
考案者 テーラー他 シューハート マイルズ
誕生年 1911年ごろ 1924年ごろ 1947年ごろ
誕生の背景 産業革命 不良の増加 資源不足
目的 能率向上 品質の制御 価値向上
主技術 動作分析 統計的手法 機能分析
関連技術 時間分析法 WF法 他 QC7つ道具 FMEA、FTA 他 Tear Down DTC 他
最終目的 (人的・物的)資源の有効活用
VEの魂 序章 管理技術総論 図2 三大管理技術の比較
WF:Work Factor(作業時間分析)、DTC:Design to Cost(コスト管理手法の一つ)

日本へ入ってきた時期は、QCは1949年、VEは1957年~1960年頃のようです。品質管理のドーナツ化現象は近代的品質管理に取り組んで数年以上が経ち、VEが日本に入ってきた時期と重なりますね。

日本の近代的品質管理は1949年に始まったと言えます
(TQM みんなの"大誤解"を斬る! 顧客満足は正義なのか? p.47)

日本では、日本生産性本部が1955年に「訪米コストコントロール調査団」、後の「原価管理調査団」を米国に派遣。国防総省を中心とした原価低減活動を視察し、1957年にまとめた報告書「経営管理と原価管理」の中で初めてVA/VEという言葉を紹介したのである。ただし、その内容はといえば、製品構造を変えるというよりも安いものを入手するという購買色が強かった。つまりこの当時は、VA/VE=原価低減と捉えられていたようだ。
(VEの魂 2章 VE(Value Engineering) 原価低減をVEと呼ぶ間違い)

日本では1960年ごろから主に民間の製造業資材購買部門を中心に導入が進められ、その後に建築業界や物流業界などに広がった。
VE(ぶいいー)

原価低減や生産性向上、リードタイム短縮、在庫削減などの改善に品質エンジニアが取り組んだのは、原価低減のために設計エンジニアがVEに取り組んだり、生産性向上やリードタイム短縮、在庫削減のために生産技術のエンジニアがIEに取り組んでいたのに触発されたのかなあと思いました。

3. 原価低減だけではないVEの活動

VEは原価低減と機能向上の両面があります4が、VEが日本に入ってきた当時はVEは原価低減と捉えられていたようで誤解本で「品質管理の手法を使って,原価低減...が盛んに行われるようになり」と記述されているのは当時の状況を想像すると仕方ないように思いました。

VEの活動をVE(ぶいいー)より引用します。

VEの背景にある考え方は「利用者が欲するのは機能である」「機能が実現できれば手段は問わない」「機能を実現できる手段同士であれば、原価の低い方が価値が高い」である。VEが判断指標とする価値は以下の式で定義される。

価値(V) = \frac{機能(F)}{コスト(C)}

この価値を高めるには、(1)Fは維持してCを低減する、(2)Fを向上してCは低減する、(3)Fを向上してCは維持する、(4)Cは少し上がるがFをそれ以上に向上するの4つが考えられる。このような価値向上を目指す活動がVEである。

機能向上のVEの例としてAppleのiPhoneを取り上げます。「「A15 Bionic」はシリコンパズル、常に改良目指すApple」p.2に

A15 Bionicが5nmで製造されるのに対して、A4は10年以上も前の製品なので45nmが用いられている。数字だけの扱いになってしまうが、1辺当たり9倍も大きいものである。
面積は1辺×1辺なので、単純計算になるがA4の製造技術は、A15 Bionicの81倍(9×9)も大きいものとなってしまう。A4の時代にA15 Bionicを作ったら、100倍近い面積が必要というわけである。

という解説があります。シリコンの面積を「土地代」というコストとみなすとAppleはA4からA15 Bionicで100倍の機能向上を行って価値向上をしたと考えることができます(実際には土地代以外のコストもあるので単純に価値が100倍とは言えませんが)。

4. VEとQAの共通点

ソフトウェア品質保証の基本」によると、

品質保証の立場からは明示的な要求がない当たり前の品質特性についてもぜひ導出しておきたい.

ソフトウェアを使用する顧客が特定できる場合は, その顧客に対するインタビューや過去のトラブル事例などから必要な当たり前品質特性を導出する. 顧客が特定できないパッケージ製品などは, 市場での競合製品やサービスとの比較によって, 顧客が暗黙的に必要と感じている品質特性を導出する. (p.47)

と当たり前品質の解説で競合製品やサービスを比較し品質特性を導出することに触れられています。形のないソフトウェアは部品という形をもつハードウェアのようには分析できませんがこれはVEで言うところの「Tear Down」に相当するものと思います5

5. おわりに

QCと隣接する管理技術を覗いてみるとVEは「プラスを増やす(機能を増やす)」と「マイナスを減らす(コストを減らす)」の二刀流と分かります。また、本稿では触れませんでしたがIEは無理無駄ムラを省いて生産性を高める管理技術です6

QCは後工程に欠陥を流出させないというマイナスを減らす取り組みが主になりますが、QCでプラスを増やすことも取り組んでみたいと思いました。

2020年代の品質エンジニアはQCに加えてVEやIEも上手に取り込んで品質向上や顧客満足度向上に貢献したいですね。

  1. 参考:岩戸景気

  2. VE(ぶいいー)

  3. 「VEの魂」の序章・管理技術総論は三大管理技術(IE、QC、VE)が歴史的な背景含め説明されていて分かりやすいと思います。

  4. 「IE,QCがどちらかというと問題点というマイナスを解消するのに比べて,VEは理想像に向かってプラス方向のネタを扱う点が大きく異なる。 (VE)」という解説記事もあります。

  5. V字の左端でテストで品質を作り込む」もご参考いただければと思います。

  6. Personal Software Processが作業時間を把握して改善していくところはIEと似ていると思います。

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