1. はじめに
JIS Q 9005が2023年2月に改正され、「JIS Q 9005:2023 品質マネジメントシステム―持続的成功の指針」として発行されました。今回はこのJIS規格を取り上げてみます。
2. JIS Q 9005:2023
QAは品質マネジメントシステム(QMS)を回すのが役割ですが、そのQMSが備えていると良いことをまとめたガイドブックが「JIS Q 9005:2023 品質マネジメントシステム―持続的成功の指針」です。2005年に制定され、2014年および2023年に改正されました。
JIS Q 9005は「認証,規制又は契約に用いることを意図していない」ガイドラインです。
2.1 規格の趣旨
本規格の趣旨を序文より引用します。
0 序文
0.1 一般
組織がその使命を果たし,競争優位を維持して持続的成功を実現するためには,組織の提供する製品・サービスの価値が顧客,社会及びその他の利害関係者に満足を与えることによって,組織の存在意義を高めることが不可欠である。そのために,組織は,効果的かつ効率的に組織の総合的なパフォーマンスを継続的に改善し,顧客,社会及びその他の利害関係者のニーズ及び期待に応えて,価値を創造していくことが必要である。また,高い価値を創造し続けるためには,組織は市場のニーズの多様化,技術革新など組織を取り巻く事業環境の変化を迅速に察知し,対応することが必要である。
この規格は,変化する事業環境に組織が俊敏に適応するための品質マネジメントシステムのモデルを提供する。
第一世代のQAエンジニアの役割をJIS Q 9005に倣って言うと、組織にQMSを構築し、QMSを運用、改善、革新しながら次のような取り組みを以って経営に貢献することと言えます。
- 効果的かつ効率的に組織の総合的なパフォーマンスを継続的に改善する
- 顧客,社会及びその他の利害関係者のニーズ及び期待に応えて,価値を創造する
- 市場のニーズの多様化,技術革新など組織を取り巻く事業環境の変化を迅速に察知し,対応する
ここで事業環境の変化への対応は製品やサービス、QMS自体の改善にとどまらず事業シナリオの見直しおよび新たな事業シナリオに適したQMSへの作り替えも含んでいます。
2.2 品質の定義
用語及び定義より引用します。
3.1
品質(quality)
考慮の対象に関する特性の集まりが,ニーズ又は期待を満たす程度
注釈1 JIS Q 9000 の品質の定義とは,次の点で異なる。
- JIS Q 9000 では,“本来備わっている特性”としているのに対し,この規格では,本来備わっているかどうかにかかわらず,ニーズ又は期待を満たす能力に関する特性の全体としており,価格など付与された特性も品質に含まれるものとしている。
- JIS Q 9000 では,“要求事項を満たす程度”としているのに対し,この規格ではニーズ又は期待とした。これによって,品質に関する考慮事項には,要求事項であると認識されていないニーズ又は期待が含まれることになる。
JIS Q 9000(ISO 9000)と比べると広く押さえています。また価格など付与された特性も含むのが特徴です。
2.3 スコープ
マーケティングからリリース後の顧客サポートまで幅広く含みます。
- マーケティング
- 研究開発
- 製品・サービスの企画
- 設計・開発
- 購買
- 製造及びサービス提供
- 製品・サービスの検査及び試験
- 製品・サービスの販売
- 製品・サービスの引渡し及び引渡し後の顧客サポート
QA部門のスコープを筆者なりに図解したものを以下に示します。マーケティング、研究開発から顧客サポートまでQAエンジニアの守備範囲は多岐にわたります。
2.4 品質部門の役割
品質部門の役割を「品質部門は,事業の持続的成功を実現するための品質マネジメントシステムを運用し,管轄する部門であると認識し,自らが果たすべき役割を明確にするとともに,その役割を果たすために必要なプロセス及び仕組みを計画し,確実に実施することが望ましい。」と示し、次の2点が挙げられています。
- 価値提供のための運営基盤の整備及び推進
- CQO の確実な任務遂行のための支援活動
3. 活用の仕方
そもそもQMSに馴染みがない場合、こちらは京都府の薬事講習会の資料ですがQMSについて初めて読む資料として分かりやすいと思いました。後者は自社ドメインの事例に置き換えながら読むと良いでしょう。
JIS規格はさまざまな産業に利用できるよう汎用的に書かれていて必ずしもソフトウェア開発になじまない項目があったり、第一世代のQAエンジニアは最初はあれもこれもはできなかったりします。すでに実施している取り組みとJIS Q 9005:2023を見比べて優先度が高くて達成度が低い領域を見つけ、改善の糸口にします。
4. おわりに
QMSを回す役割を担うQA部門、QAエンジニアはその活動の範囲がとても広いです。JIS Q 9005は組織が描くありたい姿と現在のギャップを認識しそのギャップを埋めるための地図を作るものと捉えると良いと思います。