2018年7月のある日、世界のPythonコミュニティに衝撃が走ったのは記憶に新しいところ。
Pythonの生みの親であり、30年間育ててきたGuido van Rossum氏が、自ら名付けたBenevolent Dictator for Life (BDFL)を辞任すると発表したからですね。独裁者(Dictator)は人々から嫌われることが多いけれど、この場合はBenevolent(民衆のことを考え、そのためになるようなことをする)。決める人が多数いると決断できなかったり、泥沼に陥ったりするから、自分はあえて「独裁者」として、Pythonをどう進化させていくかについての決定を下す、そしてFor Life(生涯)その役割を果たすーーーはずだったのに。
Pythonがここまで広く使われる言語に成長し、初めてプログラミングに触れる人からも技術者からも愛されるようになったのはVan Rossum氏の貢献によるところが大きく、関係者たちにとっても、突然の「辞めます」宣言は晴天の霹靂だったそうです。
この辺りの事情はポッドキャストTalk Python to me(エピソード#170 2018年7月20日放送)で詳しく語られています。
https://talkpython.fm/episodes/show/170/guido-van-rossum-steps-down
ここにゲストとして登場するPythonコア・デベロッパーの人たちによると、直接の引き金となったのはPEP572問題。
https://qiita.com/fumitoh/items/1e9548ecd21fb620a1a6
https://www.python.org/dev/peps/pep-0572/
Van Rossum氏は自分が責任者(「独裁者」)として下す決断に対する否定的なコメントの数々に嫌気がさしていたようなのです。そして、中でもこのPEP572は評判が悪く、議論が荒れ模様に…。たかがソフトウェア、されどソフトウェア。時にはこうした非難のコメントはプロフェッショナルとしての節度を欠き、悪意に満ちていたーー、という話を聞いて、改めてオープンソース・コミュニティの課題について考えさせられました。
会社や学校とは違って、「優しい」「独裁者」がいないと、成り立ちにくいオープンソース・コミュニティ。でも、独裁者一人だけでは何もできないので、コミュニティ・メンバーの貢献が必須なわけですが、その際の関わり方、協働のし方などに初めから決まったルールはありません。何か仕事をしながら少しずつ身の丈にあった「働き方」を見つけることになります。
ポッドキャストの最後にコア・デベロッパーの2人は、
「Pythonは今もこれからもオープン・コミュニティだから、誰でも発言できる。でも、何か気に入らないことがあったら、すぐ言葉にするのではなく、ちょっと考えて。相手は人間だということを考えて発言してほしい」という趣旨のことを言ってました。
これが昨年の夏。それから9か月近くが経過し、Van Rossum氏のいないPythonコミュニティはどうなっているのかーー、これについてはまた後日ということで。