Q.std::beginとかstd::dataって何のためにあるの？
A.テンプレート機能を利用してSTLコンテナ、固定長配列、初期化子リスト等に共通の機能を提供するため。

スコープと動作確認環境

この記事ではC++20のStandard Template Library（STL）について扱います。
サンプルコードの動作確認環境はWindows 10、Visual Studio Community 2019 Preview（Version 16.7.0 Preview 1.0）でC++言語標準をstd:c++latestとした状態です。
未確認ですがC++17も対応していると思います。

まえがき

STLはC++の標準ライブラリの一部であり、よく使う機能をクラスや関数テンプレートで提供する軽量なライブラリです。このノートではstd::begin、std::data等の目的と使い方を紹介します。個人的な目的は規格案やSTLの学習なので、不適切な部分があれば指摘いただけると嬉しいです。

イテレーターのRange access

概要

STLにはstd::beginやstd::dataといったstd::vectorのクラス関数と同名の関数テンプレートが定義されています。これらはstd::vectorのようなSTLコンテナクラスだけ使用する場合は不要ですが、固定長配列（T x[N]）や初期化子リスト（std::initializer_list）に対して同様の機能を提供したい場合に役立ちます。

C++20規格案では23.7 Range accessに定義されています。

一覧

23.7 Range accessで定義されたイテレーターのRange accessの一覧です。以下の関数は関数テンプレートおよび特殊化によりSTLコンテナクラス、固定長配列、初期化子リストに対して使用できます。

関数	概要
std::begin	最初の要素
std::end	最後の要素
std::cbegin	最初の要素（const）
std::cend	最後の要素（const）
std::rbegin	末尾から最初の要素
std::rend	末尾から最後の要素
std::crbegin	末尾から最初の要素（const）
std::crend	末尾から最後の要素（const）
std::size	符号なしバイトサイズ
std::ssize	符号付きバイトサイズ
std::empty	空判定
std::data	内部メモリのポインタ

サンプルコード

次のコードでstd::cbegin、std::data、std::sizeがSTLコンテナ、初期化子リスト、固定長配列に対して同様の機能を提供すること、std::listのようなデータが不連続なSTLコンテナに対してはstd::dataが提供されないことを確認できます。

# include <iostream>
# include <string>
# include <list>
# include <vector>
// STLコンテナクラスを使用する場合はインクルードされるので不要です。
// #include <iterator>

int main()
{
	std::wstring s = L"abcde";
	std::vector<int> v = {0, 1, 2, 3, 4};
	std::list<int> l = {0, 1, 2, 3, 4};
	int a[5] = {0, 1, 2, 3, 4};
	std::initializer_list<int> il = { 0, 1, 2, 3, 4 };

	std::wcout << *std::cbegin(s) << std::endl; // 'a'
	std::wcout << *std::cbegin(v) << std::endl; // 0
	std::wcout << *std::cbegin(l) << std::endl; // 0
	std::wcout << *std::cbegin(il) << std::endl;// 0
	std::wcout << *std::cbegin(a) << std::endl; // 0

	std::wcout << std::data(s) << std::endl; // "abcde" (<address>)
	std::wcout << std::data(v) << std::endl; // <address>
	// コメントを解除するとコンパイルエラー
	// std::listはデータが連続しないのでstd::dataが適用できない。
	// std::wcout << std::data(l) << std::endl;
	std::wcout << std::data(a) << std::endl; // <address>
	std::wcout << std::data(il) << std::endl;// <address>

	std::wcout << std::size(s) << std::endl; // 5
	std::wcout << std::size(v) << std::endl; // 5
	std::wcout << std::size(l) << std::endl; // 5
	std::wcout << std::size(a) << std::endl; // 5
	std::wcout << std::size(il) << std::endl;// 5

	return 0;
}

それぞれの定義を表示することでSTLコンテナ、固定長配列、初期化子リストに対して適切な関数テンプレートが呼び出されていることが分かります。

参考

C++20 規格案（ISO/IEC N4659、Working Draft, Standard for ProgrammingLanguage C++）