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ストラング先生の4つの部分空間 (行空間と零空間)

Last updated at Posted at 2024-02-29

はじめに

ストラング:線形代数イントロダクション

  • この本の、表紙の図に魅せられて
  • この図が理解したくて、線形代数を始めました
  • 最近、ようやく、この図が見えてきました(そんな気がします)
    • 気が長いのもほどがありますが、3年近くかかったような気がします
    • 線形代数の沼は深く、楽しいです
    • ストラング先生と線形代数の仲間に感謝です

この記事では、無謀にもこの『4つの部分空間』を説明します!
目指しているのは、『直感で理解する』です

例題で驚く!

例題として本の中にある例題をピックアップします
問題は以下です(『ストラング:線形代数イントロダクション』p212)

例 5
$A=\begin{bmatrix} 1 & 2 \\ 3 & 6\end{bmatrix}$ について、$x=\begin{bmatrix}4 \\ 3 \end{bmatrix}$を、$x_r + x_n=\begin{bmatrix}2 \\ 4 \end{bmatrix} + \begin{bmatrix}2 \\ -1 \end{bmatrix}$に分解せよ

とにかく、計算してみる

次の行列計算を見て、『えっ!』てなりません (か)!?

\begin{aligned}
Ax &= \begin{bmatrix} 1 & 2 \\\ 3 & 6\end{bmatrix}\begin{bmatrix} 4 
 \\ 3\end{bmatrix} = \begin{bmatrix} 10 
 \\ 30\end{bmatrix} \\
Ax_r &= \begin{bmatrix} 1 & 2 \\\ 3 & 6\end{bmatrix}\begin{bmatrix} 2 
 \\ 4\end{bmatrix} = \begin{bmatrix} 10 
 \\ 30\end{bmatrix} \\
\end{aligned}
  • $A$に対して異なる$x$$、\begin{bmatrix}4 \\ 3\end{bmatrix}$と$\begin{bmatrix}2 \\ 4\end{bmatrix}$で$Ax$を計算しているのに
    • 同じ値$\begin{bmatrix}10 \\ 30\end{bmatrix}$になっているぢゃないか!

なんで、こんなことが起こるんだ

努力が報われないベクトル$x$がある!?

\begin{aligned}
Ax_n &= \begin{bmatrix} 1 & 2 \\\ 3 & 6\end{bmatrix}\begin{bmatrix} 2 
 \\ -1\end{bmatrix} = \begin{bmatrix} 0 
 \\ 0\end{bmatrix} \\
\end{aligned}
  • $\begin{bmatrix}2 \\ -1\end{bmatrix}$に対して$Ax=\begin{bmatrix}0 \\ 0 \end{bmatrix}$(零ベクトル)
    • この$\begin{bmatrix}2 \\ -1\end{bmatrix}$の定数倍の$\begin{bmatrix}4 \\ -2\end{bmatrix}$とか$\begin{bmatrix}6 \\ -3\end{bmatrix}$も、やはり、$Ax=\begin{bmatrix}0 \\ 0 \end{bmatrix}$(零ベクトル)
  • この努力の報われなベクトルは何なんだ!
    • 何倍してもゼロ!

努力の報われないベクトル(零空間)

$Ax=0$となるような、努力が報われないようなベクトルは零空間の住人です

  • 零の意味の$Null$の$N$をとって、行列$A$の零空間を$N(A)$と表記します
    • 零空間の住人$x$は、$Ax=0$となるような人って感じでしょうか
N(A)=\{x|Ax=0\}

この例題での零空間の住人は

N(A)=\left\{ \begin{bmatrix}2 \\\ -1\end{bmatrix}の定数倍 \right\}

報われないベクトルの住む零空間は、この赤い線上です

4つの部分空間では、左下の部分空間 (赤色)です

  • 次は、報われるベクトルです

報われるベクトルの空間 (行空間)

五月雨ですが、報われる空間 (行空間)は、行ベクトルの線形結合で構成されます

おいおい、線形結合って何よ?

  • こちらも五月雨ですが、2次元平面での座標は、標準基底 $e_x=\begin{bmatrix}1 \\ 0\end{bmatrix}$,$e_y=\begin{bmatrix}0 \\ 1\end{bmatrix}$の線形結合で表せます
    • $\begin{bmatrix}x \\ y\end{bmatrix}=\begin{bmatrix}3 \\ 4\end{bmatrix}$、これを見たら、$x$軸方向に$3$、$y$軸方向に$4$と無意識に理解しますが
      • 実は、$\begin{bmatrix}x \\ y\end{bmatrix}=3 e_x + 4 e_y$
        • 2つのベクトル$e_x,e_y$を定数倍して足し合わせた形になっています
          • つまり、$e_x$方向に3歩、$e_y$方向に4歩って感じです
        • これが、線形結合(線形結合による座標表現)です

行空間

話を報われる空間 (行空間)に戻します
行空間は行ベクトルの線形結合によって表現できる場所 (空間)です

  • $A=\begin{bmatrix} 1 & 2 \\ 3 & 6\end{bmatrix}$ の行ベクトルは、以下です
    • その1行目、$\begin{bmatrix}1 & 2\end{bmatrix}$
    • その2行目、$\begin{bmatrix}3 & 6\end{bmatrix}$
  • つまり、$A$の行空間は、1行目と2行目の行ベクトルの線形結合でできる空間になります
  • これは1行目と2行目の行ベクトルで張られる空間ともいいます

行列$A$の行空間は、本来、行を意味する$Row$から$R(A)$とすべきなのですが、ストラング流では、転置した$A$の列空間$Column$と解釈して$C(A^T)$と表記します
また、「張られる空間」を「張る」を意味する$Span$から、$a,b$で張られる空間を$Span \{a,b\}$と表記します

この例題での行空間は:

C(A^T)=C\left(\begin{bmatrix}1 & 2 \\\ 3 & 6\end{bmatrix}^T\right)
=C\left(\begin{bmatrix}1 & 3 \\\ 2 & 6\end{bmatrix}\right)=Span\left\{\begin{bmatrix}1 \\\ 2\end{bmatrix} \begin{bmatrix}3 \\\ 6\end{bmatrix}\right\}=Span\left\{\begin{bmatrix}1 \\\ 2\end{bmatrix} \right\}

※$\begin{bmatrix}3 \\ 6\end{bmatrix}$ は $\begin{bmatrix}1 \\ 2\end{bmatrix}$の3倍で同じ方向なので、結局、$\begin{bmatrix}1 \\ 2\end{bmatrix}$だけで張られた空間になります

報われるベクトルの住む行空間は、緑の線上です

4つの部分空間の図では、左上の部分空間 (緑色)です

行空間と零空間は直交している(重要な事実)

またまた、五月雨ですが、行空間と零空間は直交しています!!!
この例題でも、2つの空間が直交していること見えますね

  • 報われない空間(零空間) $\begin{bmatrix}2 \\ -1\end{bmatrix}$(赤色)
  • 報われる空間(行空間)$\begin{bmatrix}1 \\ 2\end{bmatrix}$(緑色)

vector_animation.gif

直交するので内積はゼロです

\left< \begin{bmatrix}1 \\\ 2 \end{bmatrix} \cdot \begin{bmatrix}2 \\\ -1 \end{bmatrix} \right>=1\cdot 2 + 2\cdot (-1)=0

4つの部分空間の図でも、行空間と零空間は直交することが表現されています

例題で驚く!(再掲)

問題は以下です(『ストラング:線形代数イントロダクション』p212)

例 5
$A=\begin{bmatrix} 1 & 2 \\ 3 & 6\end{bmatrix}$ について、$x=\begin{bmatrix}4 \\ 3 \end{bmatrix}$を、$x_r + x_n=\begin{bmatrix}2 \\ 4 \end{bmatrix} + \begin{bmatrix}2 \\ -1 \end{bmatrix}$に分解せよ

問題について考えてみる

  • $x=x_r+x_n$は以下の様に構成されている
    • $x_r(row)$ : 報われる空間に対応するベクトル(行空間)
    • $x_n(null)$ : 報われない空間に対応するベクトル(零空間)

$Ax$の$x$は報われる部分$x_r$と報われない部分$x_n$の線形結合でできていて、
結局、報われない部分は$Ax_n$は$\begin{bmatrix}0\\0\end{bmatrix}$になることから起こったことです

\begin{aligned}
x&=x_r + x_n 
= \begin{bmatrix}2 \\\ 4 \end{bmatrix} + \begin{bmatrix}2 \\\ -1 \end{bmatrix}
=2\begin{bmatrix}1 \\\ 2 \end{bmatrix} + \begin{bmatrix}2 \\\ -1 \end{bmatrix} \\\
Ax &= A (x_r + x_n) 
= Ax_r + Ax_n
=\begin{bmatrix} 10 \\ 30 \end{bmatrix} + \begin{bmatrix} 0 
 \\ 0\end{bmatrix} = \begin{bmatrix} 10 
 \\ 30\end{bmatrix} \\

\end{aligned}

実は射影されている・・・?

ここまでをまとめると、

  • 2次元空間のベクトルは
    • 報われない方向のベクトルの方向(零空間:赤線)は潰されて
    • 報われる方向のベクトル方向(行空間:緑線)に張り付いてしまいます
  • 以下の赤い点が射影される様子を示しています
    • 赤い点が$x=\begin{bmatrix}4 \\ 3 \end{bmatrix}$が$x_r=\begin{bmatrix}2 \\ 4 \end{bmatrix}$に射影されています

projection_animation.gif

まとめ

ストラング先生の4つの部分空間の左半分について説明してみました
そもそも、$A$はランクが1ということから発生した問題といえます
直感的な理解に役立っていれば、嬉しいです
この記事から、『4つの部分空間』のすごさは伝えられませんでした(残念)
続きます

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