はじめに
- この本の、表紙の図に魅せられて
- この図が理解したくて、線形代数を始めました
- 最近、ようやく、この図が見えてきました(そんな気がします)
- 気が長いのもほどがありますが、3年近くかかったような気がします
- 線形代数の沼は深く、楽しいです
- ストラング先生と線形代数の仲間に感謝です
この記事では、無謀にもこの『4つの部分空間』を説明します!
目指しているのは、『直感で理解する』です
例題で驚く!
例題として本の中にある例題をピックアップします
問題は以下です(『ストラング:線形代数イントロダクション』p212)
例 5
$A=\begin{bmatrix} 1 & 2 \\ 3 & 6\end{bmatrix}$ について、$x=\begin{bmatrix}4 \\ 3 \end{bmatrix}$を、$x_r + x_n=\begin{bmatrix}2 \\ 4 \end{bmatrix} + \begin{bmatrix}2 \\ -1 \end{bmatrix}$に分解せよ
とにかく、計算してみる
次の行列計算を見て、『えっ!』てなりません (か)!?
\begin{aligned}
Ax &= \begin{bmatrix} 1 & 2 \\\ 3 & 6\end{bmatrix}\begin{bmatrix} 4
\\ 3\end{bmatrix} = \begin{bmatrix} 10
\\ 30\end{bmatrix} \\
Ax_r &= \begin{bmatrix} 1 & 2 \\\ 3 & 6\end{bmatrix}\begin{bmatrix} 2
\\ 4\end{bmatrix} = \begin{bmatrix} 10
\\ 30\end{bmatrix} \\
\end{aligned}
- $A$に対して異なる$x$$、\begin{bmatrix}4 \\ 3\end{bmatrix}$と$\begin{bmatrix}2 \\ 4\end{bmatrix}$で$Ax$を計算しているのに
- 同じ値$\begin{bmatrix}10 \\ 30\end{bmatrix}$になっているぢゃないか!
なんで、こんなことが起こるんだ
努力が報われないベクトル$x$がある!?
\begin{aligned}
Ax_n &= \begin{bmatrix} 1 & 2 \\\ 3 & 6\end{bmatrix}\begin{bmatrix} 2
\\ -1\end{bmatrix} = \begin{bmatrix} 0
\\ 0\end{bmatrix} \\
\end{aligned}
- $\begin{bmatrix}2 \\ -1\end{bmatrix}$に対して$Ax=\begin{bmatrix}0 \\ 0 \end{bmatrix}$(零ベクトル)
- この$\begin{bmatrix}2 \\ -1\end{bmatrix}$の定数倍の$\begin{bmatrix}4 \\ -2\end{bmatrix}$とか$\begin{bmatrix}6 \\ -3\end{bmatrix}$も、やはり、$Ax=\begin{bmatrix}0 \\ 0 \end{bmatrix}$(零ベクトル)
- この努力の報われなベクトルは何なんだ!
- 何倍してもゼロ!
努力の報われないベクトル(零空間)
$Ax=0$となるような、努力が報われないようなベクトルは零空間の住人です
- 零の意味の$Null$の$N$をとって、行列$A$の零空間を$N(A)$と表記します
- 零空間の住人$x$は、$Ax=0$となるような人って感じでしょうか
N(A)=\{x|Ax=0\}
この例題での零空間の住人は
N(A)=\left\{ \begin{bmatrix}2 \\\ -1\end{bmatrix}の定数倍 \right\}
4つの部分空間では、左下の部分空間 (赤色)です
- 次は、報われるベクトルです
報われるベクトルの空間 (行空間)
五月雨ですが、報われる空間 (行空間)は、行ベクトルの線形結合で構成されます
おいおい、線形結合って何よ?
- こちらも五月雨ですが、2次元平面での座標は、標準基底 $e_x=\begin{bmatrix}1 \\ 0\end{bmatrix}$,$e_y=\begin{bmatrix}0 \\ 1\end{bmatrix}$の線形結合で表せます
- $\begin{bmatrix}x \\ y\end{bmatrix}=\begin{bmatrix}3 \\ 4\end{bmatrix}$、これを見たら、$x$軸方向に$3$、$y$軸方向に$4$と無意識に理解しますが
- 実は、$\begin{bmatrix}x \\ y\end{bmatrix}=3 e_x + 4 e_y$
- 2つのベクトル$e_x,e_y$を定数倍して足し合わせた形になっています
- つまり、$e_x$方向に3歩、$e_y$方向に4歩って感じです
- これが、線形結合(線形結合による座標表現)です
- 2つのベクトル$e_x,e_y$を定数倍して足し合わせた形になっています
- 実は、$\begin{bmatrix}x \\ y\end{bmatrix}=3 e_x + 4 e_y$
- $\begin{bmatrix}x \\ y\end{bmatrix}=\begin{bmatrix}3 \\ 4\end{bmatrix}$、これを見たら、$x$軸方向に$3$、$y$軸方向に$4$と無意識に理解しますが
行空間
話を報われる空間 (行空間)に戻します
行空間は行ベクトルの線形結合によって表現できる場所 (空間)です
- $A=\begin{bmatrix} 1 & 2 \\ 3 & 6\end{bmatrix}$ の行ベクトルは、以下です
- その1行目、$\begin{bmatrix}1 & 2\end{bmatrix}$
- その2行目、$\begin{bmatrix}3 & 6\end{bmatrix}$
- つまり、$A$の行空間は、1行目と2行目の行ベクトルの線形結合でできる空間になります
- これは1行目と2行目の行ベクトルで張られる空間ともいいます
行列$A$の行空間は、本来、行を意味する$Row$から$R(A)$とすべきなのですが、ストラング流では、転置した$A$の列空間$Column$と解釈して$C(A^T)$と表記します
また、「張られる空間」を「張る」を意味する$Span$から、$a,b$で張られる空間を$Span \{a,b\}$と表記します
この例題での行空間は:
C(A^T)=C\left(\begin{bmatrix}1 & 2 \\\ 3 & 6\end{bmatrix}^T\right)
=C\left(\begin{bmatrix}1 & 3 \\\ 2 & 6\end{bmatrix}\right)=Span\left\{\begin{bmatrix}1 \\\ 2\end{bmatrix} \begin{bmatrix}3 \\\ 6\end{bmatrix}\right\}=Span\left\{\begin{bmatrix}1 \\\ 2\end{bmatrix} \right\}
※$\begin{bmatrix}3 \\ 6\end{bmatrix}$ は $\begin{bmatrix}1 \\ 2\end{bmatrix}$の3倍で同じ方向なので、結局、$\begin{bmatrix}1 \\ 2\end{bmatrix}$だけで張られた空間になります
行空間と零空間は直交している(重要な事実)
またまた、五月雨ですが、行空間と零空間は直交しています!!!
この例題でも、2つの空間が直交していること見えますね
- 報われない空間(零空間) $\begin{bmatrix}2 \\ -1\end{bmatrix}$(赤色)
- 報われる空間(行空間)$\begin{bmatrix}1 \\ 2\end{bmatrix}$(緑色)
直交するので内積はゼロです
\left< \begin{bmatrix}1 \\\ 2 \end{bmatrix} \cdot \begin{bmatrix}2 \\\ -1 \end{bmatrix} \right>=1\cdot 2 + 2\cdot (-1)=0
4つの部分空間の図でも、行空間と零空間は直交することが表現されています
例題で驚く!(再掲)
問題は以下です(『ストラング:線形代数イントロダクション』p212)
例 5
$A=\begin{bmatrix} 1 & 2 \\ 3 & 6\end{bmatrix}$ について、$x=\begin{bmatrix}4 \\ 3 \end{bmatrix}$を、$x_r + x_n=\begin{bmatrix}2 \\ 4 \end{bmatrix} + \begin{bmatrix}2 \\ -1 \end{bmatrix}$に分解せよ
問題について考えてみる
- $x=x_r+x_n$は以下の様に構成されている
- $x_r(row)$ : 報われる空間に対応するベクトル(行空間)
- $x_n(null)$ : 報われない空間に対応するベクトル(零空間)
$Ax$の$x$は報われる部分$x_r$と報われない部分$x_n$の線形結合でできていて、
結局、報われない部分は$Ax_n$は$\begin{bmatrix}0\\0\end{bmatrix}$になることから起こったことです
\begin{aligned}
x&=x_r + x_n
= \begin{bmatrix}2 \\\ 4 \end{bmatrix} + \begin{bmatrix}2 \\\ -1 \end{bmatrix}
=2\begin{bmatrix}1 \\\ 2 \end{bmatrix} + \begin{bmatrix}2 \\\ -1 \end{bmatrix} \\\
Ax &= A (x_r + x_n)
= Ax_r + Ax_n
=\begin{bmatrix} 10 \\ 30 \end{bmatrix} + \begin{bmatrix} 0
\\ 0\end{bmatrix} = \begin{bmatrix} 10
\\ 30\end{bmatrix} \\
\end{aligned}
実は射影されている・・・?
ここまでをまとめると、
- 2次元空間のベクトルは
- 報われない方向のベクトルの方向(零空間:赤線)は潰されて
- 報われる方向のベクトル方向(行空間:緑線)に張り付いてしまいます
- 以下の赤い点が射影される様子を示しています
- 赤い点が$x=\begin{bmatrix}4 \\ 3 \end{bmatrix}$が$x_r=\begin{bmatrix}2 \\ 4 \end{bmatrix}$に射影されています
まとめ
ストラング先生の4つの部分空間の左半分について説明してみました
そもそも、$A$はランクが1ということから発生した問題といえます
直感的な理解に役立っていれば、嬉しいです
この記事から、『4つの部分空間』のすごさは伝えられませんでした(残念)
続きます