🌟 はじめに
こんにちは!今回は2025年4月にGoogle Cloudイベントで発表された Google Agent Development Kit (ADK) について詳しく解説します。AIエージェント開発の新しい波が来ていますが、特に複数のAIエージェントを連携させるマルチエージェントシステムの開発に注目が集まっています。
この記事では、ADKの基本概念から実装方法、ユースケースまで、初めての方でも理解できるように解説していきます。さあ、未来のAIエージェント開発の世界を一緒に探検しましょう!
📝 Google ADKとは?
Google Agent Development Kit (ADK) は、AIエージェントを効率的に構築・管理・評価・デプロイするためのオープンソースフレームワークです。特に注目すべきは、複雑なマルチエージェントシステムを100行未満のコードで構築できる点です。
💡 ADKの目的: エージェント開発の「フルスタックのエンドツーエンド開発」ライフサイクル全体を簡素化し、開発者により細かな制御と柔軟性を提供すること
主な特徴
- ✅ コードファーストアプローチ: Pythonコードを中心にエージェントのロジック、ツール、オーケストレーションを定義
- ✅ モジュール性: 特化したエージェントの組み合わせによる再利用性とスケーラビリティ向上
- ✅ 多様なモデル対応: Gemini, OpenAI, Anthropic, Meta, Mistralなど多様なLLMをサポート
- ✅ マルチエージェント設計: 階層構造でエージェント間の委任や協調が可能
- ✅ Google Cloud最適化: 特にGeminiモデルやVertex AIとのシームレスな連携
🏗️ ADKのアーキテクチャ
ADKは複数の層から構成される包括的なフレームワークです。以下がその全体像です:
コアコンポーネント
-
エージェント(Agent) 🤖
- LlmAgent: 基本的なLLM駆動エージェント
- SequentialAgent: エージェントを順番に実行
- ParallelAgent: エージェントを並列に実行
- WorkflowAgent: 複雑なワークフローを構築
-
ツール(Tool) 🔧
- FunctionTool: Python関数をエージェントのツールとして提供
- AgentTool: 他のエージェントをツールとして利用
- ExternalTool: 外部APIやサービスとの連携
-
モデル(Model) 🧠
- Gemini: Google提供のLLM(最適化済み)
- 各種LLM: LiteLLM統合で様々なモデルをサポート
-
インフラ(Infrastructure) 🏢
- セッション管理: 会話文脈の保持
- メモリサービス: 長期情報の保存
- Artifactサービス: ファイルやデータの管理
マルチエージェントアーキテクチャ
ADKの強みは複数のエージェントを階層的に組み合わせられる点にあります:
Google Cloud Platformとの統合
ADKはGoogle Cloudサービスとシームレスに連携します:
🚀 ユースケース
ADKはさまざまな分野で活用できます。その中でも主なユースケースをご紹介します:
1. マルチエージェントによるタスク分割と処理
複数の専門エージェントが連携して複雑なタスクを処理:
- 🧠 企画開発システム: 企画生成、評価、改善エージェントが連携して企画案を洗練
- 📊 研究アシスタント: データ収集、分析、レポート作成を体系的に自動化
2. 企業データ統合システム
既存の企業システムと連携したインテリジェントな対応:
- 👥 顧客サポートシステム: CRMデータ、製品情報、対応履歴を統合
- 📈 ビジネスインテリジェンス: 社内データベースに自然言語でクエリ
3. 専門分野向けアプリケーション
特定産業に特化した知識を持つエージェント:
- ⚖️ 法務アシスタント: 法律文書分析、契約書レビュー
- 🏥 医療診断支援: 患者データ、医学文献、症例分析の統合
- 💰 金融アドバイザー: 市場分析、リスク評価、投資提案
4. 教育・トレーニングシステム
学習者に合わせたパーソナライズされた学習体験:
- 📚 適応型学習: 理解度に応じたコンテンツ調整
- 💻 プログラミング教育: コード分析、エラー説明、課題提供
5. 高度な自動化システム
複雑なワークフローを自動化:
- 📝 コンテンツ制作: 調査、ドラフト作成、編集、画像生成の一元化
- 🔄 プロダクト開発: 市場調査から製品設計、テスト、マーケティングまで統合
実際のアプリケーション例:企画開発支援システム
🔄 他のフレームワークとの比較
ADKは他のAIエージェントフレームワークとどう違うのでしょうか?
機能/特徴 | Google ADK | LangChain | AutoGen | CrewAI | LlamaIndex |
---|---|---|---|---|---|
オープンソース | ✅ | ✅ | ✅ | ✅ | ✅ |
開発言語 | Python | Python, JavaScript | Python | Python | Python, TypeScript |
マルチエージェント設計 | ✅ (ネイティブサポート) | ⚠️ (部分的サポート) | ✅ | ✅ | ⚠️ (部分的サポート) |
LLMサポート | Geminiネイティブ + LiteLLMで多様なモデル | 広範なモデルサポート | 広範なモデルサポート | 広範なモデルサポート | 広範なモデルサポート |
ストリーミングサポート | ✅ (双方向ストリーミング) | ✅ | ✅ | ⚠️ (部分的) | ✅ |
メモリ管理 | ✅ (組み込み) | ✅ (組み込み) | ⚠️ (限定的) | ⚠️ (限定的) | ✅ (組み込み) |
開発ツール | ✅ (CLI + Web UI) | ⚠️ (限定的) | ⚠️ (限定的) | ❌ | ⚠️ (限定的) |
評価フレームワーク | ✅ (組み込み) | ✅ (LangSmith) | ❌ | ❌ | ❌ |
デプロイオプション | ✅ (コンテナ化簡易) | ✅ | ⚠️ (限定的) | ⚠️ (限定的) | ⚠️ (限定的) |
A2A連携 | ✅ (ネイティブサポート) | ❌ | ❌ | ❌ | ❌ |
Google Cloud統合 | ✅ (深い統合) | ⚠️ (部分的) | ⚠️ (部分的) | ⚠️ (部分的) | ⚠️ (部分的) |
マルチモーダルサポート | ✅ | ⚠️ (部分的) | ⚠️ (部分的) | ⚠️ (部分的) | ⚠️ (部分的) |
コミュニティ成熟度 | 🆕 (新興) | ✅ (確立済み) | ⚠️ (成長中) | ⚠️ (成長中) | ✅ (確立済み) |
学習曲線 | 中程度 | 急 | 中程度 | 緩やか | 中程度 |
Google ADKの主な強みは:
- 🔥 マルチエージェントシステムのネイティブサポート
- 🔥 Google Cloudサービスとの緊密な統合
- 🔥 A2Aプロトコルによるエージェント間相互運用性
- 🔥 組み込みの評価・デバッグツール
一方で、新しいフレームワークのため、コミュニティリソースやサンプルは他の確立されたフレームワークと比較するとまだ発展段階にあります。
🛠️ 環境構築手順
ADKを使うための環境構築は比較的シンプルです。
前提条件
- Python 3.9以上
- pip(Pythonパッケージ管理ツール)
基本的な環境構築
# 仮想環境の作成と有効化(推奨)
python -m venv adk_env
source adk_env/bin/activate # Windowsの場合: adk_env\Scripts\activate
# ADKパッケージのインストール
pip install google-adk google-generativeai
# Geminiモデル使用のためのAPIキー設定(環境変数)
export GOOGLE_API_KEY=あなたのAPIキー
# Windowsの場合: set GOOGLE_API_KEY=あなたのAPIキー
Google Cloud環境での設定(オプション)
# Google Cloud統合のための環境変数
export PROJECT_ID=あなたのプロジェクトID
export LOCATION=us-central1 # または他のリージョン
export GOOGLE_GENAI_USE_VERTEXAI=true
APIキーはGoogle AI Studioから取得できます。
💻 サンプルコード
基本的なエージェント実装
以下は、ADKを使用した基本的なエージェント実装の例です:
from google.adk.agent import LlmAgent
from google.adk.tool import define_function_tool
from google.adk.integration.llm.gemini import GeminiLlm
from google.adk.integration.vertexai.session import InMemorySessionService
from google.adk.runner import Runner
# シンプルなツール関数の定義
def get_current_weather(location: str, unit: str = "celsius") -> str:
"""指定された場所の現在の天気を取得する"""
# 実際のAPI呼び出しなどはここに実装
return f"{location}の天気は晴れ、気温は25{unit}です"
# 関数をADKツールに変換
weather_tool = define_function_tool(get_current_weather)
# エージェントの構築
def build_agent():
return LlmAgent(
llm=GeminiLlm(),
description="天気情報を提供するアシスタントです",
instruction="""
ユーザーから天気に関する質問があった場合は、get_current_weather関数を使って回答してください。
それ以外の質問には一般的な知識に基づいて返答してください。
""",
tools=[weather_tool]
)
# エージェントの実行
def main():
agent = build_agent()
runner = Runner(
agent=agent,
session_service=InMemorySessionService()
)
# ユーザーとの対話
session = runner.create_session()
response = runner.run(session, "大阪の天気を教えてください")
print(response.text)
if __name__ == "__main__":
main()
マルチエージェントシステムの実装例
複数のエージェントを連携させたシステムの実装例:
from google.adk.agent import SequentialAgent, LlmAgent
from google.adk.integration.llm.gemini import GeminiLlm
from google.adk.runner import Runner
# 質問生成エージェント
def build_question_generator():
return LlmAgent(
llm=GeminiLlm(),
description="トピックに基づいて質問を生成するエージェント",
instruction="与えられたトピックについて、3つの関連質問を生成してください。"
)
# 質問回答エージェント
def build_answer_generator():
return LlmAgent(
llm=GeminiLlm(),
description="質問に回答するエージェント",
instruction="前のエージェントが生成した質問に対して、詳細な回答を提供してください。"
)
# 複数のエージェントを連携させるSequentialAgent
def build_sequential_agent():
return SequentialAgent(
agents=[
build_question_generator(),
build_answer_generator()
],
description="トピックについての質問と回答を生成するシステム"
)
# メイン実行関数
def main():
agent = build_sequential_agent()
runner = Runner(agent=agent)
session = runner.create_session()
response = runner.run(session, "人工知能の未来について教えてください")
print(response.text)
if __name__ == "__main__":
main()
Google Cloud統合の例
Vertex AIのGeminiモデルを使用したエージェント実装例:
from google.cloud import aiplatform
from google.adk.agent import LlmAgent
from google.adk.tool import define_function_tool
from google.adk.integration.vertexai.llm import VertexAiLlm
from google.adk.runner import Runner
from google.adk.integration.vertexai.session import VertexAiSessionService
# Google Cloud初期化
def initialize_gcp():
aiplatform.init(
project="あなたのプロジェクトID",
location="us-central1"
)
# Vertex AIのGeminiモデルを使用するエージェントを構築
def build_vertex_agent():
# 外部関数ツールの定義
def search_knowledge_base(query: str) -> str:
"""知識ベースを検索して回答を見つける"""
# 実際の実装では、Vertex AI Search または企業の知識ベースへのクエリを実行
return f"知識ベースから「{query}」に関する情報を取得しました。"
# 関数をツールに変換
kb_search_tool = define_function_tool(search_knowledge_base)
# Vertex AI上のGeminiモデルを使用するエージェントを作成
return LlmAgent(
llm=VertexAiLlm(model_name="gemini-1.5-pro"), # Vertex AIのモデルを指定
description="企業の知識ベースにアクセスできるアシスタント",
instruction="""
企業の知識ベースから情報を検索して質問に回答してください。
知識ベースに情報がない場合は、一般的な知識に基づいて答えてください。
""",
tools=[kb_search_tool]
)
# メイン実行関数
def main():
# GCP初期化
initialize_gcp()
# エージェント構築
agent = build_vertex_agent()
# Vertex AIのセッションサービスを使用
runner = Runner(
agent=agent,
session_service=VertexAiSessionService()
)
# セッション作成と実行
session = runner.create_session()
response = runner.run(session, "当社の最新の製品ラインナップについて教えてください")
print(response.text)
if __name__ == "__main__":
main()
🔮 今後の展望
Google ADKの今後の展望としては以下が考えられます:
1. A2Aプロトコルとの連携強化 🤝
Agent2Agent (A2A) プロトコルは、異なるベンダーやフレームワークで構築されたエージェント間の相互運用性を実現する標準です。50以上の技術パートナーが貢献し、2025年後半にはプロダクションレディ版が提供される予定です。
2. マルチモーダル機能の強化 🎨
テキスト、画像、音声、ビデオなどを含むマルチモーダルな対話能力がさらに拡張されるでしょう:
- Gemini 2.0以降のマルチモーダルモデルとの連携強化
- リアルタイム音声・映像ストリーミングの機能拡充
- マルチモーダル入出力を活用した新しいユーザー体験の創出
3. エンタープライズ統合の拡充 🏢
企業システムとの連携が強化されていく見込みです:
- 既存の100以上の事前構築されたコネクタのさらなる拡張
- Vertex AI、BigQuery、AlloyDBなどのサービスとのシームレスな統合
- 企業のセキュリティとコンプライアンス要件に対応した機能強化
4. コミュニティとエコシステムの成長 👥
オープンソースプロジェクトとして、以下の方向に発展すると予想されます:
- サードパーティの拡張機能とプラグインのエコシステム形成
- コミュニティ主導の改善とベストプラクティスの確立
- 業界固有のソリューションテンプレートの開発
5. マルチエージェントシステムの標準化 📊
複雑なマルチエージェントシステムの設計・実装パターンを標準化する方向に進むでしょう:
- エージェント間通信とオーケストレーションの標準プラクティス確立
- マルチエージェントシステムのためのデザインパターンライブラリ
- エージェント協調のための新しいアーキテクチャモデルの提案
📝 まとめ
Google Agent Development Kit (ADK)は、AIエージェントとマルチエージェントシステムの開発を大幅に簡素化するフレームワークです。特にGoogleのクラウドサービスとの統合に優れ、Geminiモデルの能力を最大限に引き出す設計になっています。
主な特徴をまとめると:
- ✅ マルチエージェント設計に最適化 - 複数の専門エージェントを階層的に組み合わせて複雑なタスクを解決
- ✅ Googleエコシステムとの緊密な統合 - GeminiやVertex AIとのシームレスな連携
- ✅ 柔軟なモデル対応 - LiteLLM統合による多様なLLMモデルのサポート
- ✅ 開発ツールの充実 - CLIとWeb UIによる開発・デバッグ・評価機能
- ✅ A2Aプロトコル対応 - 異なるフレームワーク間の相互運用性
まだ新しいフレームワークではありますが、その潜在能力は非常に高く、今後のAIエージェント開発における重要なツールになることでしょう。特に複数エージェントの連携が必要なプロジェクトや、Googleのクラウドサービスと統合したいケースでは、ADKの導入を検討する価値があります。
いかがでしたか?この記事が皆さんのGoogle ADK理解の助けになれば嬉しいです。質問やフィードバックがあれば、ぜひコメントで教えてください!👋