結論
室温で量子状態の制御までは出来たけど、まだまだ超えないと行けない壁がたくさんあります。
前置き
量子コンピュータといえば$\left.|\ 0\right>$ と $\left.|\ 1\right>$の重ね合わせ状態を使って演算を早くする、ということは皆さんご存知だと思います。
D-waveでは超伝導磁束量子ビット(Superconducting QUantum Interference Device : SQUID)により実現しています1。
ここらへんのことは正直良く知らないんですが、実現するためには(?、まあとにかくD-waveでは、)磁気シールドや高真空、極低温度が必要です。
フォノンを使った量子メモリのここがスゴイ
この問題を解決するための一つの手段としてダイアモンド光学フォノンを使った量子メモリの研究が行われいます2。
ダイアモンドといえばNVセンターを思い浮かべる方も多いと思いますが、NVセンターの方はスピンで量子状態を実現しており、今回紹介するのは普通のダイアモンドです。
ダイアモンド光学フォノンは振動数 40THzなので、エネルギー換算すると
E=h\nu \sim 135 \textrm{meV}
となり、室温の影響($k_BT\sim\ 25\ \textrm{meV}$)の影響を受けづらくなります。
(ちなみに超有名半導体GaAsの縦型光学フォノンは約30 meV)
ですので、もしダイアモンド光学フォノンの量子状態$\left.|0\right>, \left.|1\right>$をメモリとして使えれば、室温で動作出来る量子メモリだ!!となります。
2の論文では、あくまで量子状態の制御まで出来た、とのことです。
量子状態を制御するための技術
- まずフォノンの振動周期よりも短い時間幅のレーザーを入射します。
- すると、ダイアモンドのフォノンが集団で、同じように(=同位相でと言いたい)振動し始めます(→$\left.|1\right>$状態の生成)。
- 二発目のレーザーを入射するタイミングを操作することで、フォノンの振動を強めたり(→さらに$\left.|1\right>$生成)、弱めたり(→$\left.|1\right>$を$\left.|0\right>$に)することができます。
補足
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- の現象は、電車が急ブレーキをかけると、つり革が全て進行方向に振れることと似ています。
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- の現象は、既に振動している振り子をもう一度叩くことと似ています。もう一度叩くタイミングを変化させることで振り子を止めたり、振り子の振幅を大きくすることが出来ますよね。これと同じです。
これまでの研究で出来ているとされているところ
- $\left.|0\right>, \left.|1\right>$を保持(6 psほど3)
- $\left.|0\right>, \left.|1\right>$の書き換え
問題点
しかし、このフォノンを制御する技術が相当難しく、というのも制御するために使っているレーザーが約10 fs(100兆分の1秒)という非常に時間的に狭いレーザーです(多分1000万ぐらいします、しかもデカイです)。
この時間幅が短い(=波長幅が広い)レーザーは、いろんな波長が混在するので、光が進むたびに(各色ごとの)位相がずれてしまい、非常に扱いが難しいです。
また実験では状態を変えるパルスを2発、状態を測定するパルスを1発の計3発必要としますが、状態を変えるパルス2発の相対位相をロックしたまま、相対時間を変える(=光路長を変化させる)ことも難しいです。
また共振器内の結晶を冷やすための冷却水が必要など様々な問題点があります。
さらに、今回の論文では1bitで話を進めていますが、複数bitにすることは光路設計の観点からかなり難しいと思います。
何が言いたいかというと、室温で動作できるけど、別のところでの難しさがあるよ、ということです
最後に
- 紹介した論文2の凄い所は理論構築→実験で再現、というところだと思うので、興味がある方は見てみて下さい。
- 本記事の内容についてはほとんどあってると思いますが、間違ってるか箇所があるかもしれません。
- ここはどういうこと?などあればコメントしてください。